トイレには、やっぱり誰もいない。
そりゃそうだ。こんな夜中にこんな気味悪いトイレに入るやつなんていない。
トイレの電気をパチッと押してみたけど、つかない。
もう、やめてよ、、
僕と北野は3つ目の個室の前へ。
お互いの顔を見合って、うんと頷くと、北野はコンコンコンと3回扉を叩いた。
そして、あのセリフを言おうとしたその時、、、
ガッ、ガツ、ガッ、、
足音だ。
でも、この前聞こえた時みたいな足音じゃない。この前の足音は扉の奥から、何かに反響するような、もっとくぐもった音だった。
今聞こえるこの足音は、、地面を踏みしめるような、どこか足音を殺すような、、
これ、、複数人、?
「待て北野、!外だ!」
「え?」
僕は北野の首根っこを掴むと、今度は出口とは反対側の、多目的トイレへ駆け込む。
「何だよ」と文句を言おうとする北野の口を押さえて、息を殺した。
しばらくして、、
やっぱり足音の正体はこのトイレに入ってきた。2人、いや3人か、ボソボソと男の話し声が聞こえる。
そっと扉のすき間から覗いてみると、スーツにサングラス(夜なのに意味あるのかな?)、首元には金のネックレスという、いかにもヤクザって感じのガタイのいい男が3人。
そのうちの一人が、個室の前へ立つ。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょー 」
しばらくすると、 またもや足音が。
コツ、コツ、、コツ、、
ポチャン、、
と、時々水溜まりをふむようなこの足音。
今扉の向こうにいる男達のものじゃない。
、間違いない。この前聞いた時と同じ、3番目の個室からだ、!
北野も同じように思ったのだろう。 僕達は目を合わせて、ドキドキしながら耳を澄ませる。
と、その時
「い〜〜よぉ〜〜〜」
「、?!」
「、!!」
僕は危うく悲鳴が漏れそうになって、慌てて自分の口を左手で押さえる。
興奮のあまり「ふごごっ、!」と息を漏らす北野の口も右手で抑えつける。
なんだ今の声、、
まさか本当に、、花子さんが、、
続いて、キィィィ、、と扉が軋む音。
開いた、、
今、この個室の隣で何が起こっているんだ、?
僕は恐怖と緊張で、北野は興奮で体が震えている。
が、肝心の男たちの悲鳴は聞こえない。
男達はなんだか楽しそうに、談笑している。
「先どうぞ」
「おーいい?じゃあお邪魔しまーす」
なんて声が聞こえて、続いてまた扉が閉まる音。それと共に、男達の足音と声が遠ざかる。
そしてついに、トイレはしんと静まり返った。
5分程してから、僕は北野の口から手を離す。そして、ぐったりしてその場に座り込んだ。正確には、足の力が抜けてほぼ倒れ込んでしまった。
「な、なんだよ、、」
僕の腕からすり抜けた北野は、個室を飛び出すと3番目の個室の扉をなんの躊躇いもなくキィッと開ける。
「ちょ、おい!!」
「違う」
「え?」
「花子さんじゃない」
「え?」
北野のその言葉に、僕は同じように3番目の個室を覗く。あの男達は、いない。
どこに行ったんだ?
あの男達は確実に、この三番目の個室にはいった。この女子トイレからも出ていっていない。
個室は屈強な男達が隠れられるようなスペースなんてもちろんない。
なら、、どこへ、?
「下だ」
「え?」
「下。これ、多分地下に繋がってる」
「なんだって?」
北野のスマホのライトで照らされた先を辿る。
和式トイレの便座の中。あれ?水がない。
この時代、ぼっとん便所なわけないだろう。
なんでだ?
何となくトイレのレバーを押してみる。が、やっぱり水は流れない。壊れてる?
「見て。ここ、ズレてる」
続いて北野は、床のタイルを指さして言った。
肌色で碁盤目状に並んだタイル達。なのに、壁との境目で僅かな亀裂がある。この個室の大きさに切り取られたみたいに、それはぐるっと1周していた。
「これ自体が隠し扉なんだ」
「え?」
さっきから北野はスラスラ謎を解いてくみたいに1人でブツブツ喋ってるけど、僕はさっきから「え?」しか言ってない。
スマホのライトで照らしながら、僕は北野の目線を追っていく。
「横田」
「ん?」
「秘密基地と言えば?」
「え?えー、、っと、、見つかりにくいところ?」
「秘密基地に入るには何がいる?」
「合言葉?」
「それだよ」
「??」
北野に急かされて僕らは三番目の個室を出る。北野は個室の扉を閉めると、またコンコンコンと3回叩いた。そして、
「花子さん、遊びましょ」
と、、、
「い〜〜よぉ〜〜 」
遠くから聞こえる足音。
そして、、
ギイッ、ガタン!
僕らは顔を見合わせる。
ゆっくりと扉を開けると、、
「あ、、」
トイレが、、無い。
というか床ごと無い。
ぽっかりと四角に切り取られた大きくて黒い穴。
そこに、下へと続く階段が伸びていた。
「、、嘘、」
「ビンゴ!」