「行くの、?」
「当たり前だろ」
こいつに恐怖心という言葉は無いらしい。
僕は怖い。とっても。ここを下りたら、なんだかもう戻れないような気がして、、
だがそれ以上に、こいつを置いていってしまう方が怖い。
僕はゆっくりと深呼吸すると、たんたんと軽快に階段をおりていく北野の後に続く。
壁の両脇には、豆電球くらいの大きさの明かりが等間隔にちょぼちょぼ着いていて、折り返し階段状になっていた。
地上から踊り場を3回経由したから、今は地下3階に当たるところにいるんだろう。
そして4回目の踊り場を通過しようとしたとき、ちょうど5つめのフロアに扉があった。
重そうな、鉄の扉。
僕らは1度止まって、壁に身を隠すようにしゃがみ込んだ。
ひそひそ声で北野に耳打ちする。
「全国のトイレに花子さんがいるとしたら、全国の学校のトイレ全部こんな大層な造りになってるのかな」
「さぁ。全国の学校のトイレ回ってみる?」
北野は扉の方へ行こうと立ち上がったので、慌てて待て待てと首根っこを掴む。そしてまた「くえっ、!」という声を漏らした。
北野は勢いよく 僕の腕を払うと、胸ぐらを掴む。
「なぁ横田お前それやめろ!毎回毎回三途の川が見えるんだよ!」
「お前が赴くままに動き出すからだろ!」
「え、何ここまで来て引き返す気?」
「逆に行ってどうするんだよ!」
僕は声を潜めて絶叫する。
あの扉の先に花子さんがいたら?
あの扉自体罠だったら?
きっと生きては帰れない。
そもそもここが既に、この世界じゃない、他のどこか違う世界なのかもしれない。そこに踏み入れてしまった僕ら。一生ここを、さまよい続けるかもしれない。そう思うとゾッとする。
「とにかく、今日は一旦ここまでにしよう。また作戦を練ってから来よu、」
「なんの作戦かなぁ?坊や達」
ヒッ!!
驚いて振り向くと、さっきの男達がいた。
ポッケに手を突っ込んで仁王立ちして僕らを見下ろすその姿はまさにヤクザ。
僕は泣きそうになった。
怖かったからじゃない。
人間の姿を見て安心したから。
「おじさんっ!」と、今にも抱きつきそうになったと同時に、リーダー格のおじさんの後ろにいた取り巻きたちが近づいてきて、僕らはひょいっとかつぎ上げられる。
「ご案内しな」
リーダー格のおじさんがニヤリと笑う。
階段を降りてあの鉄の扉を開いて中に入ると、、、驚いた。
中は人人人、、そして酒とタバコの匂いが充満している。
うさぎ耳に網タイツのバニーガール、テーブルの上に山のように積まれた紙幣、トランプにポーカーチップ、、
花子さんの住処じゃない、、ここは、
「闇カジノ、、」
僕と北野は同時に呟いた。
こんな地下深くに誰にも見つからないように作られてるんだ。本場カジノなわけがない。
しかもこの場にいる面々がもうそれって感じだ。
僕らはドサッとソファーの上に投げ出された。
悪そうな男の人達がわっさわっさと取り囲んでくる。リーダー格のおじさんがタバコをふかしながら僕らの前に座った。
「それでぇ?なんでこんな夜遅くにこんな可愛い坊ちゃん達がこーんなところにいるのかなぁ?」
「、、、」
「そもそもどうやって入ってきた?」
僕はビシッと北野を指さす。
それを見た北野は僕を睨む。
「お前頭いいんだろ?何か機転効いたこと言えよ!」という視線を送りながら、僕も北野を睨み返した。
「ここのことがバレたらまずいの、僕ちゃん達もよぉく分かるよね?だから吐いてもらわないと困るの。どこから情報を得たのかな?」
笑ってるけど目が笑ってない。
怒らせる前に何か答えないと、、
「花子さんの噂を確かめたくてトイレに来たら、闇カジノに迷い込んでしまったんです!」なんて誰が想像できたんだ?
「僕の父ですよ」
「え?」
「ほーう?」
おいおいそんな話聞いてないぞ?
僕は北野に視線を向けようとしたが、北野にミチっ!と腕をつままれたので、「黙って俺に合わせろ」ってことなんだと思う。
僕は大人しくなる。
「と言いますと?」
ヤクザさんは身を乗り出す。
「申し遅れました。僕、北野優希って言います。父は北野建設の取締役をしてる、北野吾郎です。」
「何だって?」
ヤクザのおじさんが身を乗り出した。
後ろにいた取り巻き達の中でざわめきが起こる。
僕も驚いて思わず小さく「ぇ」と声が出た。
北野建設ってあの、北野建設?
CMでよくやってる?
超大企業じゃないか!!
ってことは北野は、北野建設の御曹司?
くそ、、イケメンな上な金持ちで頭もいいなんて、、
天は二物も三物も与えるじゃないか!!
「詳しく聞かせろ」
「北野建設はこの辺り一帯にリゾート施設を造る計画をたてています。もちろんこの公園も含めて」
「北野建設はこの公園の地盤を調査していたんです。そしたらたまたま、ここを見つけてしまった」
「ほーう。それで、警察にでも言うつもりだったかい?」
「いえ、むしろ逆です。父は賭け事が大好きでして。」
咄嗟の作り話か。
僕はスラスラと嘘を並べる北野に感心する。
時間を稼げるのもあとどれくらいか、、
僕も僕なりに、なにか策を考えないと。
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