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 は? 何それ? ってのが、頭に浮かんだ最初の言葉だった。

 思わず神楽くんの方に顔を向けると、彼は耳を赤く染めながらそっぽを向いた。

 アイザはくすくすと笑い続けているし、何が何だか訳が解らない。

 大事なもの? 私が? は? 何言ってんの、コイツ?

 冗談だよね? 冗談で言ってるんだよね?

 アイザと神楽くんを交互に見比べていると、

「ほら、夢矢。もう観念して、告白したら?」

 アイザが神楽くんの腕を引っ張り、私の目の前に彼を立たせた。

 私よりわずかに背の高い神楽くんの眼は、けれどまるで下から覗き込んでくるかのように弱々しくて。

「――えっと、その」

 口籠りながら、神楽くんは大きく息を吸い、そして長く細く吐き出した。

 それからキッと私の眼を見つめながら、意を決したように、

「な、那由多さん!」

 驚くほど大きな声で私の名前を口にする。

 私はそんな彼を見上げながら、

「……な、なによ」

 と小さく口にした。

 神楽くんはピンっと背筋を伸ばしながら、

「ほ、本当に、あの時はごめん。なんていうか、那由多さんが僕を置いてけぼりにしているみたいで、寂しくて、辛くて。顔を合わせるたびに胸が何だか苦しくなって。あの時の僕には、もう何が何だか分からなくなっていたんだ。ただただ逃げるだけで精一杯で、その結果、あんなふうに別れることになって、本当に悪いと思ってるんだ」

「……はぁ、そうですか」

 それから神楽くんは再び深い深いため息を吐くと、

「アイザと日本を発ってから、あっちでも僕は魔法の修業に励んでいたんだ。アイザのお婆さんに教わりながら。アイザのお婆さん、めちゃくちゃ怖くてさ。うちのばあちゃんの比じゃないくらい、僕に厳しかったんだ。何度も何度も逃げ出そうと思ったけど、逃げ場なんてどこにもなくてさ」

「ふうん?」

 ちらりとアイザに目をやると、アイザはうんうん頷いて、

「まぁ、そういうことよ。ここに居たって、夢矢は魔法からも茜からも逃げ続けてダメになっちゃうって思ったわけ。だったら、こんな所じゃなくて、イギリスの私のお婆ちゃんの家で一緒に魔法の修業をした方が、逃げ場もなくなって良いんじゃないかって思ったのよ。事実、彼は英語なんてまともに喋れなかったから、辛くてもどこにも逃げられなかった。日々修業に明け暮れて、今ではあの頃とは比べ物にならないくらい、実力を身に着けているはずよ」

「そう」

 と私は口にして、再び神楽くんの方に顔を戻した。

「で、それと私と、どういう関係があるわけ?」

「それは――」

 神楽くんは僅かに口籠り、それから肩をすくめながら、

「イギリスに行ってからも、僕は那由多さんのことが気になって仕方がなかった。空港であんな別れ方をして、ずっと心の中で引っ掛かっていたんだ。それと同時に、この六年間、僕は片時も那由多さんへの想いを忘れたことはなかった。いつか那由多さんと肩を並べられるくらいの実力を身に着けて、また会いに行こう。今度は那由多さんを連れて来て、一緒に魔法使いをやっていこう、そんなふうに思いながら、僕は今までずっと、頑張って来たんだ」

 だから、と神楽くんは胸に手を当てて、小さく息を吐いてから、

「……那由多さん」

「はい」

 私は短く返事して、まっすぐ彼の瞳を見つめてやる。

 私の答えは、もう決まっているから。

 これからどんなことを神楽くんが口にしようと、その決意は揺るぐことはないだろう。

 神楽くんは一拍間をおいてから。

「僕と一緒に、イギリスに行こう。もう一度、僕とやり直してもらえないだろうか」

「――お断りします」

 礼儀正しく九十度腰を曲げて私は答えた。

 その途端、「えっ」と神楽くんはぽかんと口を大きく開ける。 

 どこか情けないその表情を見ながら、私は腰を戻し、

「聞こえなかった? 私、あんたとはいっしょに行けない」

「え、で、でも――」

「ごめんね、神楽くん。もしあの時そう言って私を誘ってくれてたら、もしかしたら私もあんたと一緒にアイザのお婆ちゃんのところまで行ってたかもしれない。けど、あんたはそうはしなかった。私を置き去りにして、アイザと二人で日本を出ていった」

「だ、だからそれは僕が悪かったって――」

「違う、違うのよ」

 と私は首を横に振って、

「もう、私と神楽くんの関係は終わっているの。あの時、神楽くんが私を置き去りにして行ってしまった時点で、私たちの恋人関係は終わっていたの。それを今さら元の鞘に納まりましょうなんて言われたって、私にはできない」

「あ、だけど、でも……」

 なおも食い下がろうとする神楽くんに、私は小さくため息を吐いて、

「あんたがイギリスに行っている間に、私にも色々あった。短大に通いながら、それでもしばらくはミキエおばあちゃんのもとで魔法の修業をしていたけれど、やっぱり神楽くんが日本を発ってしまったせいでどこか居づらくなっちゃって、その結果真帆さんのもとで修業をするようになって。短大を卒業してからは真帆さんの家に住み込みでバイトするようになって、失敗しながらも色んなお客さんの依頼をこなしていった。片思いする中学生の子とか、想いのすれ違いに悩んだ中年男性と女子高生とか。恋人に弱さを見せたくなくて、その所為で心を弱めていった青年とか。他にも沢山の依頼人の接客をして、真帆さんからも色々な魔法を教わって、私は私で、目まぐるしい日々を送っていたの」

「……うん」

「私はね、神楽くん。この町が好きなんだ。ミキエおばあちゃんのことも、真帆さんのことも、そして今までに出会った町の人々や依頼人、魔法使いの仲間たち。それらを捨てて、今さら神楽くんと一緒にこの町から出て行くなんてこと、私には無理」

「……そっか」

「うん」

 と私は一つ頷いて、

「真帆さんから教わりたい魔法はまだまだ沢山あるし、できればこれからも魔法堂で働きたいって思ってる。だから、ごめんね、神楽くん」

 深い深いため息を吐いてから、私は言った。

「――私はもう、あんたと一緒の道は、歩めない」

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