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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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「……っ、うぅ……」
少女の苦しそうな声が聞こえた。医者を待っていたら、間に合わないかもしれない。
私はピアスの留め具へ指をかけた。
スッ。
金具を外し、耳たぶからピアスを引き抜く。
ブワァァァァァッ!!
「きゃあっ!?」
「な、何事だい!?」
全身から、鮮やかな緑の光が一気に溢れ出した。風もないのに、髪がふわりと宙へ舞い上がる。
(何……これ……)
奥底にずっと閉じ込められていた何かが、ようやく解き放たれたような――。
肩へ零れ落ちた自分の髪を見て、私は目を見張った。
「……え?」
淡い金色だった髪が――銀色へ変わっている。アンナが息を呑んだ。
「そ、その髪……10年前の、あのときと同じです……!」
今は、それどころじゃない。
少女へ視線を戻し――私は息を呑んだ。
(なに、これ……)
見える。さっきまでぼんやりとしか見えなかった黒い靄が、今は鮮明に見える。少女の身体にまとわりつき、黒紫色の筋に沿うように内側へ入り込んでいた。
(待って……)
(このおぞましい気配、やっぱりどこかで……!)
前世でプレイしたゲームの、討伐イベントが脳裏に蘇った。帝都から離れた街道。巨大な魔物へ剣を向ける、カイル殿下の姿。その魔物の周囲にも――今と同じ、どす黒い靄が漂っていた。
『近づくな!』
騎士たちへ、カイル殿下が叫ぶ。
『瘴気に触れれば、生命力を蝕まれる!』
(そうだ)
(これ――)
「……瘴気よ!」
「え?」
アンナが首を傾げる。やっぱり、アンナには見えていないらしい。私は机の上に置かれた、白い薬草石鹸へ目を向けた。真っ白な表面から――。子どもたちを苦しめているものと同じ、どす黒い靄がゆらゆらと立ち上っている。
「これは……病気じゃないわ」
「え?」
私は石鹸を睨みつけた。
「この石鹸に、瘴気が染み込んでいるのよ!」
「瘴気!?」
院長先生が息を呑む。
「じゃ、じゃあ、この子たちは病気じゃないのかい?」
「おそらくは」
頻繁に石鹸を使った子ほど重症。たまにしか使わなかった子は軽症。ほとんど使っていない子は、今のところ元気。
(石鹸を使うたびに、少しずつ瘴気を取り込んでいたんだとしたら……)
すべて辻褄が合う。私は、自分の両手を見つめた。指先には、まだ鮮やかなエメラルドグリーンの光が揺らめいている。
(で、どうやって聖力使うのよ!?)
ゲームなら画面を操作すれば、勝手に魔法が発動した。詠唱?魔法陣?手をかざす?祈ればいい?そんなもの、何一つ分からない。
(使い方なんて知らないし)
(成功する保証だってない)
それでも――。
(私の力で救える可能性があるなら!)
私は両手を胸の前で強く握りしめ、ぎゅっと目を閉じた。
(お願い……!)
(この子たちを――助けて!!)
――その瞬間。
パァァァァァッ!!
「……っ!?」
眩い緑の光が、一気に弾けた。光の奔流が食堂いっぱいに満ちわたり、苦しんでいる子どもたちをまるごと包み込んでいく。
「な、何だい、この光は……!?」
子どもたちの身体から、黒い靄が次々と浮かび上がった。緑の光へ触れた途端――。
ジュウッ――!
どす黒い靄が、光の粒となって消えていく。
一人。二人。三人――。
皮膚の下を這っていた黒紫色の筋が、みるみる薄れていった。
「…………!」
やがて、少女の首元まで広がっていた痣も――すっと消えた。
「……あれ?」
少女が、ゆっくりと目を開く。
「く、苦しくない……」
「僕も……」
「身体が楽になった……!」
食堂が、しんと静まり返った。院長先生も、職員たちも。誰一人、言葉を発せないまま私を見つめている。アンナが金魚のように口をぱくぱくさせた。
「も、もしかして……お嬢様が――一人で全員治しちゃったんですか!?」
自分の手を見る。指先にはまだ、緑色の光が淡く揺れていた。
「……そうみたい」
「ど、どうやって!?」
「なんでか分からないけど……なんか、治せたみたい」
「み、みたいってぇぇぇぇ!?」
「私だって初めてなんだから仕方ないでしょう!?」
(って、今はコメディをやっている場合じゃないわ!)
「アンナ!」
「は、はいっ!」
私は薬草石鹸を指差した。
「まずは、この瘴気がついた石鹸を全部回収するのよ! 手洗い場、お風呂場、戸棚。一つ残らず!」
「了解です!」
「絶対に素手で触らないで。厚手の布で包んで、子どもたちが触れない場所へ隔離して。処分はしないこと。使用済みと未使用は別々の箱に分けて保管するのよ!」
「証拠確保ですね!?」
「そういうこと!」
アンナがすぐさま職員たちへ振り返った。
「皆さんも、手伝ってください!」
「はい!」
一斉に回収作業が始まった。私は院長先生と一緒に、子どもたちの様子を改めて確認して回る。
「大丈夫?」
「うん……!」
「もう苦しくない?」
「さっきより全然平気!」
それでも、青白かった頬には少しずつ赤みが戻ってきていた。
「……本当によかった……」
胸を撫で下ろした、そのとき――。
「先生を連れてきました!」
職員が息を切らし、鞄を抱えた医師を連れて食堂へ駆け込んできた。
「患者は!?」
「こちらです!」
医師はすぐさま子どもたちの脈を取り、額に触れ、呼吸を確認していく。
「…………?」
「先生、どうなんですか!?」
詰め寄る院長先生に、医師は狐につままれたような顔で首を傾げた。
「いや……熱は平熱ですし、呼吸も脈も極めて安定しています。念のため安静にはすべきですが……全員、命に別状はありません」
「よかった……!」
院長先生がその場へへたり込み、職員たちから安堵の声が上がった。私もようやく、ほっと息を吐いた。
「院長先生」
「何だい?」
「この石鹸……ほかの孤児院や家庭にも配られているんですよね?」
「あ、ああ。特に生活の苦しい家庭へ、神殿から優先して配られているはずだよ」
(まずいわ)
ここだけじゃない。今、この瞬間にも。同じ石鹸を使っている人がいるかもしれない。
(被害が広がる前に、すぐに神殿へ行って流通ルートを確認しないと――)
そのときだった。
ドォォォォォン!!
「きゃあっ!?」
「な、何事だい!?」
鼓膜をつんざく爆発音とともに、大地が激しく揺れた。 窓ガラスがビリビリと震え、天井から漆喰の粉がぱらぱらと落ちてくる。私は咄嗟に窓辺へ駆け寄った。
「……っ!?」
孤児院の門のすぐ前。裂けた地面から、猛烈な土煙が立ち上っている。その奥で――。
ズズズ……。禍々しい巨体が、地割れの底からゆっくりと這い出してきた。
「……ま、魔物……!?」
院長先生が息を呑む。異形の巨体。巨大な鎌のような鋭い爪。裂けた大口からは、先ほどの石鹸と同じ――どす黒い瘴気が漏れ出している。
「どうして……!?」
ここは帝都だ。強力な結界に守られているはずなのに。
(どうして、結界の内側に魔物が――!?)
もうもうと立ち込める土煙の向こうで――。白い何かが、ふわりと揺れた。
「…………?」
目を凝らす。純白の法衣、ピンク色の髪に赤い瞳。 異形の魔物のすぐ傍らに立つのは──。
「……シェリー?」
コメント
1件
ちょっと待ってえええ!!😭💕ついに聖女の力覚醒キターー!!ってなったとこでラストの爆発音とシェリー登場!?!?やば、この展開やばすぎる!!ピアス外した瞬間の描写とか髪色変わるとことかもう脳裏に焼き付いて離れないんだけど!!?アンナとのコメディパートも最高だったし、次どうなっちゃうのマジで続きが気になりすぎて今夜眠れそうにないよ…!あなたの作品、神すぎる…!!