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ルティのスキルは眉唾物で上手い話は無い――そう思っていた。ところが物と人は確かに見つけてきて、物は確かにおれの手元にある。問題は見つけてきた人が盗賊団という点についてだ。
盗賊団を倒すのは簡単ではあるが……。見知らぬ地に漂着し村を探し出すことが困難である以上、一時的にでも奴らに取り入っておく必要がある。お頭と呼ばれている男――この男にでも頭を下げて頼めば導いてくれそうな予感がある。他の連中のように脂ぎった体つきではなく筋肉質でガタイがいいし、馬上の姿勢が崩れず刀剣を持つ構えもさまになっている感じだ。
見る限りでは戦い慣れしていそうだし、元戦士だとすればこちらの事情も察してくれそうな気も……。
「すんませんっ!! おれのツレがスキルを身につけて使いたがっていたので、試させてもらいました!」
お宝スキルを明かすのはもったいないので、ひとまずスキルということにしておく。
「あぁん? スキルだぁ? お頭の前でふざけたこと――」
盗賊の一人が文句を言うが、それを制して頭領らしき男が身を乗り出す。おれの予想よりも機転が利きそうな人間のようだ。
「……ふ、何のスキルを使ったか言ってみろ!」
「はい。盗賊スキルです」
「そこのドワーフが盗賊を目指してんのか? それともてめえもか?」
「おれもです!」
「まぁ、そうじゃなきゃこんな辺鄙で何もねえ所になんか来ないだろうけどな」
やはりお頭だけは頭の切れるタイプらしい。
「うえっ? お頭ぁ、信じるつもりですかい?」
「……そこで待て。仲間と相談する」
上手く行ったようで盗賊連中は話し合いを始めた。
――と同時に、おれと盗賊の会話に納得が行かないのかルティが詰め寄ろうとしている。
「え? えぇ? アック様、わたし一言もそんなこ――んぬむっ!?」
「ルティシア、おれに黙って従ってくれ。その口を封じられたくなければな」
上手く行きかけている話を無意味にされては厄介だ。ひとまずルティの口を塞いでおく。
「ぷはふぅ……。く、口を封じる……そ、それってまさか、アック様の方から封じて下さると!?」
「そうせざるを得なくなった時だ。ルティは今から無口な女となれ」
「しますします! ぜひとも口封じをお願いしますっ!」
何か言い方を間違っただろうか。ともかくここは大人しくしてもらわねば。
――しばらくして話し合いが終わったようで、
「いいだろう。お前とドワーフ女を仲間に入れてやる! お前は何が出来る?」
「おれは荷物持ちです。手にしている杖も荷物になるかと思いまして……」
「荷物持ちか。それならこいつらの物を運べ!」
「了解です! あの、お頭のお名前を! おれはアックです」
「俺は、”ジェム・ラドロン”の頭……ジオラスだ。ドワーフ女の名は?」
盗賊団の名前か。大所帯どころか村に住んでいそうな雰囲気があるな。おれの名前はともかくルティの名前は隠しておく必要がある為、偽名として「シア」と教えておいた。悪名でも高ぶったらそれはそれで困るからだ。
ジオラスと名乗ったお頭を筆頭に、他の盗賊たちが前と後ろを気にしながら進む。注意深いのかそれとも単なる弱さか。馬上の盗賊団がおれたちを連れ歩くこと数分後、石造りの橋に着いた。見渡す限り砂地と草地以外に木も見えていない。
人も獣もいなく、川も無いこの地で何故橋があるのか。その疑問は目の前ですぐに解決した。
「おい、新入り!! この石を持ち上げろ!」
石というよりただの橋にしか見えない。砂地と草地の間に橋が架けられているが、もしやここが入り口だろうか。
「はいはい、今すぐにっ!!」
ちなみにルティは無口を貫いている……はずもなく、盗賊たちに口説かれているようだ。見るからに女っ気が無さそうだし無理も無いが。だが、おれの言いつけ通り、ルティは冷めた表情を見せている。盗賊たちに塩対応をしているルティのあんな姿は初めてだ。
「……っしょっと。持ち上げた石はどこへやれば?」
「おぉ! お前、力があるな。さすが荷物持ちだ。その石は元通りに直せ!」
「はい~」
「それから、お頭には気安く話しかけんじゃねえ! バレたら狙われるんだからな!」
「あ、はい」
石を持ち上げるとすぐ下に階段があった。やはりアジトが地下にあるようだ。盗賊の男がおれに何度も注意を促す。お頭であるジオラスにはおれから話しかけてはいけないらしい。
「おい、お前。ここから先の光景にびびんじゃねえぞ?」
「はい? アジトがあるんですよね?」
「着いたらすぐに分かる。それと、ドワーフ女は別の部屋に連れて行く」
「それは駄目です! 彼女はおれが傍にいないと……」
「決まりは守ってもらう」
厄介なことになりそうだな。あくまで探りのつもりで盗賊の仲間入りをしただけなのに。
ルティと別れることになるとすれば非常にまずいが、とにかくアジトとやらに着いてから決めるしかない。ふとルティの方に目をやると、「アック様、アック様~!」などと嬉しそうにしているし、本当にどうするべきか迷う。
しかし今は辛抱する時と思うしか無く、何かを得てからじゃないと先へ進めない。
「アックと言ったな? お前には役に立ってもらう。荷物持ち以外でな」
「まぁ、出来ることなら何でもやりますよ」
「……なぁに、簡単だ。盗賊らしく動けばいいだけのことだ」
「分かりました」
どうせ大したことをさせるつもりも無さそうだし大人しくしていよう。