あんなことがあってから数日後。俺も涼太も無事退院して今いるのはレッスン場。だけどダンスのレッスンをしているわけでもなければ舞台に向けての練習をしているわけでもない。みんなして床に円になって座っていた。
「…状況を整理しようか。」
「まず、舘さんは何で海に沈みかけてたの?」
「…」
「舘…言わんと分からんよ…」
「言いずらいなら俺が言おうか?」
「…いや、俺が言う。」
「そう…?」
「…ゆっくりでいいから。」
「うん。」
涼太は一回深呼吸をした後、口を開いた。
「佐久間には少しだけ話したんだけど。最近少し疲れちゃってさ。仕事が沢山あることも、期待されることも、ありがたいことだと分かっているのに。朝起きるのが嫌になったり、仕事に関する資料も何となく読む気になれなくてさ。段々しんどくなってきて。…でもそれは耐えられたんだ。何でって言われたら分からないけどね。」
「…」
「…海に行ったあの日、収録の休憩中にプロデューサーさんに呼び出されてさ。『やる気が見えない。そんな態度でやるなら辞めろ』っていわれたんだ。」
「っ、はぁ?」
「謝ったらさ、プロデューサーさんがにやって笑って『俺には権力があるんだ。辞めされたくなかったら俺に抱かれろ』って言ってきて。」
「えっ…」
「何も言えなくなっているうちに連絡先が書かれたメモを持たされてその人はいなくなってて。…もう、どうすればいいのか分からなくなって。」
「…」
「気が付いたら収録が終わってて、楽屋にいて。みんなと解散したらあの人に抱かれるのかって思うと、すごく、怖くてっ…」
涼太の目から涙が零れ落ちた。それを気にせず涼太は話し続ける。
「でもっ、みんなに、こんなことで、迷惑かけるわけにはいかなかった、から、じゃあいなくなればいいじゃんって思って、あんなことしたっ…でも、結局、みんなに迷惑かけて…っ」
ごめん、ごめんなさいと謝る涼太にその場にいた全員が何も言えなかった。想像以上に涼太は苦しんでいて、危ない目に合うところだった。想像するだけで恐ろしい事態に身震いがした。誰も喋らない無言の時間を破ったのはドアが開く音だった。
「宮舘くん、いる?」
「あっ!プロデューサーさん!お疲れ様です!」
佐久間がてこてこと駆け寄る。涼太の方を見ると、血の気を失った顔で震えていた。
「涼太、大丈夫か?」
「っ、大丈、夫。…」
「舘さん、あの人だよね。さっき言ってた人。」
ラウールが聞くと涼太は恐る恐るといった感じで頷いた。怒りに身を任せそいつの所に行こうとしたとき、ふっかと照に止められた。
「翔太。俺とふっかで話つけてくるから。」
「っでも…」
「大丈夫。舘さんも心配しなくていいよ。」
「…絶対、俺はあいつを許さないから。」
ふっかが久々にみせた静かな怒りに少し寒気がした。
「…頼んだぞ。ふっか、照。」
「うん。」
「任せろ。」
そう言って二人はそいつと少し話して一緒に部屋から出て行った。佐久間もついていったのかその場からいなくなっていた。力が抜けたのかふらついた涼太の体を慌てて支える。
「っ、大丈夫か?」
「…」
「涼太?」
顔を覗き込むと涼太は目を閉じて眠りについていた。
「…寝てる。」
「安心したんじゃないのかな。」
「だといいけど。」
安心したという割には入院してたときみたいに血色が悪い顔をしたまま眠っている涼太の涙を指で拭った。
コメント
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めっちゃいい!!!