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グリルタ
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だが、カンナは逃げたのではなかった。自転車のフレームにくくり付けてあった木刀を取りに行っていたのだ。
木刀を手にしたカンナは、猛然と晶子を取り囲んでいる少年たちの側へ走り寄り、晶子の腕をつかんで無理やり立たせようとしている一人に向かって、木刀を振り下ろした。
その少年はかろうじて木刀を避け、そのはずみで晶子にかけていた手を離した。カンナは晶子と少年たちの間に体を割り込ませ、右肩の上に木刀を構える。
「女相手にみっともねえ真似してんじゃねえよ。この子はおまえらみたいなガラの悪い連中にゃもったいねえんだ」
「何だと!」
少年たちの顔から笑いが消えた。5人そろって今度はカンナにつかみかかろうとする。カンナは型は無茶苦茶だが、的確に振り回す木刀の動きで彼らを寄せ付けない。
狼のようなうなり声を上げて木刀を振り回すカンナの剣幕に押され、少年たちはじりじりと後ずさる。中の一人が地面からこぶし大の石を拾い上げた。
「このブス! 邪魔だ」
そう叫んで投げた石は、カンナの額に命中した。ガクッと前のめりに崩れ落ちそうになったカンナは、両足を踏ん張ると、体を起こして木刀を振り上げ少年たちに向かっていく。
その顔を見た少年たちは明らかにひるんだ。さらに後ずさり、一番背の高い少年がいまいましげに言った。
「何なんだ、こいつは。いかれてやがる。ああ、もう! やめだ。おめえら、行くぞ」
少年たちはそのままくるりと背を向けて、足早に去って行った。振り返ったカンナの顔を見た晶子は、思わず大きな悲鳴を上げた。
「キャーー! カンナ! カンナ!」
カンナの顔は額から流れ出した血で真っ赤に染まっていた。カンナはそれに気が付いていないようで、息を荒くしたまま晶子の側に歩み寄る。
「晶子、大丈夫みたいだな」
「カンナが大丈夫じゃないよ! 顔、顔が血まみれ!」
カンナは自分の顔を手で拭い、掌についた血を見た。
「ああ、ほんとだ。ちょっと切ったかな?」
「救急車、救急車呼ばなきゃ!」
「そこまでのケガじゃねえよ。頭切ると出血が派手に見えるだけさ」
「それでも早く手当しないと。ここからなら、あたしの家の方が近いから、うちに来て!」
晶子はハンカチでカンナの傷があるらしき辺りを縛り、カンナが乗って来た自転車を自分が押しながら、自宅へ向かって歩いた。
「カンナ、どうしてあそこに来たの?」
カンナは木刀を肩の後ろ側で横に持ち、両手を木刀にかけて歩きながら答えた。
「晶子の母ちゃんから電話で訊かれたんだよ、家飛び出して行ったから、あたいのとこへ来てないかってさ。心配だったから探しに出たんだ。晶子のことだからそんなに遠くへは行ってないだろと思ってさ。あたいの勘が当たってたな」
「だからって、あんな危ない事したら……カンナだって女の子なんだよ」
「あのな!」
急にカンナが晶子の前に回り、晶子の顔をじっと見つめて少し怒ったような口調で言った。
「前から言ってんだろ、晶子はあたいのあこがれのお嬢様なんだよ。あんなガラの悪い連中におもちゃにされてたまるかよ」
「どうしてそんなに、あたしの事心配してくれるの?」
「晶子みたいに、親ガチャ生まれガチャで当たり引いたやつはな、幸せにならなきゃいけねえんだよ! それが晶子の義務だ!」
カンナはまた晶子に背を向けてぼそりと付け加えた。
「そうじゃねえと、あたいみたいにハズレ引いた人間は浮かばれねえって言うか、なおさら惨めになるじゃねえか」
コメント
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読んでいて胸がぎゅっとなりました。カンナの「晶子が幸せになるのが義務だ」って台詞、不器用すぎて泣けます。自分を“ハズレ”って言い切るところに、彼女の過去と今の覚悟が全部詰まってる。血まみれで木刀を振るう姿に、守る人の本気を見ました。次が気になります。