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パーティは立食形式だった。その方が会場を動きやすく、他の出席者と交流しやすいのではないかとの意見が出たためだ。

その中にあって、私は川口に世話を焼かれていた。彼女の隣では、社長が愉快そうな顔をして私たちの様子を眺めている。


「ほらほら、早瀬さん、少し食べなさい。いくらお役目とは言え、何も口にしないんじゃ、お腹が減るでしょう」


食べてはいけないわけではなく、仕事の一環だと思うと気楽に飲食する気にならなかっただけだ。本来そういうことは私の役目なのだがと困惑しながら、彼女が差し出したサンドウィッチにおずおずと手を伸ばす。


「あ、美味しいですね」


素直に言葉が出た。

川口は嬉しそうに、今度は私の手にグラスを持たせる。


「こっちの方がいいでしょ?これはね、ノンアルコールカクテルですって」

「あ、ありがとうございます……」


グラスに口をつける私を、川口がじっと見る。

その視線に落ち着かなくなった。


「あの、どうかされましたか?」

「いえね。早瀬さんは、最近イメチェンでもしたのかしら、って思ってね」

「イメチェン、ですか?」


私は目を瞬かせた。


「何も変えていませんけれど」

「あら、そうなの?」


納得していないようだ。川口は私の顔をますますじっと見つめる。


「ますますきれいになったような気がしてね。……あら?もしかして、いい人でもできたのかしら?」


川口の言葉にどきっとした。すぐそこに、その相手の父親がいる。私は社長の方を見ないようにしながら、微笑みを浮かべて川口を見た。


「残念ながら、そういう話とはまったく無縁でして……」

「あらまぁ。早瀬さんを放っておくなんて、周りの男の人たちは見る目がないのねぇ。早瀬さん、家庭を持ちたいと思ったら、いつでも相談してちょうだいね。いい人を紹介するから」


力強く言う川口に圧倒される。私は曖昧な笑みを浮かべて礼を述べた。


「ありがとうございます」

「そう言えば、確か高原社長の息子さんって、まだ独身じゃなかったかしら?」


今度は社長の方に話の矛先が向く。


「弟の方は東京に行ってしまって、向こうでいい人を見つけてね。兄の方は確かに独身なんだが、最近になっていい人ができたらしくてね」


言いながら社長はちらっと私を見た。

私はその視線をかわすように目を逸らし、グラスに口をつける。


「まぁ、そうなのね。誰かいい人いないかしら、ってお願いされていたお嬢さんがいたのよ。もし良かったら、ご紹介しようかと思っていたんだけど」

「ははは。それはありがとうございます。うちの息子には、その必要はないようです。ま、その『いい話』が確実なものになった時には、川口さんのお店で新婚生活に必要なものをそろえるよう、息子に言っておきますよ。その時はよろしく頼みますね」

「ほほほほ。それならぜひいいご報告、お待ちしていますよ」


二人の間で黙って話を聞いていた当事者である私は、次第に居心地が悪くなってきた。


「あ、あの、私、少し席を外させて頂いてもよろしいでしょうか」

「あらあら、ごめんなさい。ここだけで早瀬さんを独占しておくのはまずかったわね」

「話につき合ってくれてありがとう。また後で」


二人はあっさりと私を解放し、別の一団へ足を向けた。

彼らを見送った後、私は久美子を探した。少し会場を出ることを伝えようと思ったのだ。

久美子は代理店の一人と会話中だった。私は二人の近くまで行き、会話の邪魔をすることを詫びてから久美子にそっと耳打ちした。


「トイレに行ってくるね」

「一人で大丈夫?」


心配そうに眉根を寄せる彼女に私は小さく笑ってみせた。


「大丈夫でしょ。だって、ほら」


大木は今、本部長と共に複数の代理店の面々と歓談中だ。


「あれならしばらくは動かないんじゃないかな。さすがに今日は、わざわざ私に嫌がらせをしている暇はないみたいだし」

「そうだよね。一応仕事だもんね。ま、気を付けて行ってらっしゃい」


久美子を安心させるように頷いて、私はそっと会場の外へ出た。静かな広い通路を歩き出す。


「さて。どっちだったかしら」


その時の私は、前方にばかり気を取られていた。私の後を着けるように歩く人物がいたことに気づいていなかった。床に敷かれた薄いカーペットのせいで、足音はあまり響かない。そのため、意図的に足音を消すことは簡単だっただろう。おかげで、ますますその気配を察することができなかった。

トイレはフロアの端の方にあった。会場とは正反対の離れた場所だ。あえて人目につかないようにと配慮した造りなのか、角を折れてさらに入り込んだ所にある。そして、この日この時間、このフロアを使用しているのは私たちの会社だけだったらしく、特にその一帯はひっそりとして静かだった。

トイレを出て二つ目の角を曲がった時だった。大木の声が耳に飛び込んできた。


「早瀬さん」


私を呼ぶ静かな声に、その場に縫い留められたかのように動けなくなる。


私が見た時は、他の人たちと話をしていたはずなのにどうして――。


背中に汗がじわりと滲みだした。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

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