テラーノベル
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前回の続きから行きます。
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「貴方ですか…」
手には、見慣れたウシャンカ。 それを弄びながら、太宰治は愉しげに目を細めた。
「仮面の男すら囮にした二重暗殺。…君ならそれくらいはすると思ったよ。だから逃亡経路を読み、待ち伏せさせてもらった。」
そう言って、彼は帽子を自分の頭に乗せる。
「似合う?」
「全く」
間髪入れずに否定した。
「なら返すよ。」
軽い調子で言いながら――
トサッ
無造作に地面へと落とされるウシャンカ。
(お気に入りなのに…ふわふわが…)
一瞬だけ、ほんの僅かに眉が動く。 だがすぐに、その感情は押し殺された。
「“魔人”ドストエフスキー。…君らしい遣り口だ。哀れな神父殿の頭をいじって暗殺者に仕立て、二組織の長を襲わせるとは。」
「…それで、ご用件とは」
感情を切り離した声。
「社長に盛った毒の正体を教えてもらおうか?」
太宰の笑みは、先ほどよりも深く、黒くなっていた。
沈黙。
「君の目的は判っている。君も『本』が欲しいのだろう?ただ君たち《鼠》は組合と違って街全域を焼き払うほどの兵力はない。…だから暗殺で探偵社とマフュアの頭を落とそうとした…違うかい?」
(……さすがですね)
内心でそう評価する。
(兄さんが警戒するべきと言っていた理由もよくわかる)
「…なぜ、そう思うのです?」
「私ならそうするからさ。」
「似たもの同士ということですか。」
薄く笑みを浮かべた。
「いいでしょう。……僕の盛った毒は『共食い』の異能です。」
「!」
わずかに、太宰の表情が揺れる。
「二組織を潰すのは僕ではありません。…あなた方です。」
言葉は静かに、しかし確実に刺さる。
「人は罪深く愚かです。策謀と知っていながら殺しあうことをやめられない。」
(…だからこうするしか無かったんです。兄さんも、私も…)
「誰かがその罪を浄化しなくてはなりません。…故に、僕は本を求めるのです。」
(どれだけ苦しかろうと、止まることは許されない)
そのすべてを隠し、ただ淡々と告げる。
「……こんな風に」
(…ごめんなさい、太宰さん)
パンッ――
乾いた銃声が、狭い路地に響いた。
「ッ‼︎」
太宰治の体が崩れ落ちる。
「狙撃手…私の行動も予測済みか…」
苦笑混じりの声。
(正確には兄さんが、ですけれど)
心の中でだけ訂正する。
「急所は外させました。貴方にはマフュアとの衝突を報せる役がありますから。」
そのまま通り過ぎようとした、その時。
「君と、私は…同類だと言ったね。」
足が、わずかに止まる。
「確かに同じだが、一点だけ違う。…確かに人は皆罪深く愚かだ。だからいいんじゃぁないか。」
「!」
その言葉は、予想外だった。
反論は――浮かんだ。 けれど、口には出なかった。
(……それは、何も知らないから言えるんですよ)
代わりに胸の奥で、静かに沈む。
だが同時に――
(……いい言葉ですね)
そう思ってしまった自分もいた。
背を向ける。
(そう信じることができたら、どれだけ良いことか…)
その答えを知ることなく、彼女は再び歩き出した…が、
「ゔ…くはぁ!」
撃たれた太宰は見る見るうちに血の気がなくなっていき顔が青くなっていくのが見える。
(急所は外させたとはいえ、これはあまりにも…)
撃ったのは“殺さないため”だった。 だが、放置すれば――それは別の形の苦痛になる。
(殺してはいけないのだから、いいですよね?)
返答のない問いを、胸の内で兄に投げる。 そして次の瞬間には、もう動いていた。
外套の裏から取り出されたのは簡易的な救急セット。 迷いなくガーゼを取り出し、傷口へと押し当てる。
「ゔっ…!」
声を押し殺した呻き。 麻酔などあるはずもない。ただ生の痛みだけがそこにある。
(少し、少しだけ我慢してください)
そう思いながら、さらに圧をかけた。
その時だった。
「…逃すと、思うかい?」
「――っ」
逆に、手首を掴まれる。
弱っているはずの男の手は、驚くほどしっかりとしていた。
(不味い、予定にない行動などするべきではなかったですね…)
一瞬の判断の遅れ。 自分の甘さを、即座に認識する。
この男を見くびっていた。 自殺志願者。元ポートマフィア。 そして――誰かを守ろうとする人間。
(ですが)
掴まれた手を、もう片方で冷静に外す。 力の差は歴然だった。
そのまま、そっと。
撃たれた箇所にガーゼを置き、近くに包帯を添える。
「これで血を止めてください。」
簡潔な言葉。
「⁈…何故?」
当然の疑問。
「さぁ?何故でしょう。」
答えは与えない。 与えるべきでもない。
立ち上がり、周囲を一瞥する。
(そろそろお仲間が来る頃でしょう…)
「貴方、狙撃手の存在に気づいていましたね?その上で情報を得る為にわざとここへ…?」
問いかけは静かだった。 だが、その奥には確信がある。
地に伏した太宰治は、かすかに口元を歪める。
「『本』の正体は…一冊の、小説だ。書いたことが、本当になる、白紙の文学書…。」
途切れ途切れの声。 それでも、その言葉には奇妙な重みがあった。
「ええ、僕はその本を使って…」
頬を撫でる、やわらかな風。
「罪の…異能者のいない世界を創ります。」
それは、あまりにも静かな宣言だった。
沈黙が落ちる。
「やってみ給えよ。…やれるものなら。」
返ってきた声は弱々しい。 それでも、その目だけは――確かに何かを守ろうとしていた。
(……どうして)
その輝きが、こんな状況でさえ消えないのか。
「太宰⁈どこだ!」
遠くから響く声。 時間は、もう残されていない。
「あゝ、そうです。もう一つ伝言をお願いしてもよろしいですか?」
わずかに振り返る。
「…探偵社の泉鏡花さんに、“貴女のおかげで一人の少女が喜んでますよ”と。」
「は?」
理解の追いつかない声。
「では、いずれ『約定の地』にて。…そして、お大事に。」
「フッ、誰の、せい、だと…」
その言葉は最後まで続かなかった。
力が抜ける。 意識が、静かに落ちていく。
動かなくなったその姿を、ほんの一瞬だけ見つめて――
「本当に、本当にごめんなさい…」
誰にも届かないほど小さな声。
それを残して、彼女は背を向けた。
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コメント
3件
第参話、めっちゃ重くて切ない回でしたね…。「共食い」の異能で二組織を潰させようとする策、そして太宰さんを撃ちながらも手当てしてしまう矛盾。あの「本当にごめんなさい」が胸に刺さります。お気に入りのウシャンカを落とされた時の「ふわふわが…」って心の声で一気に人間味を感じて、敵なのに応援したくなってしまいました。次が気になります!
双葉 莉音
161
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
旅人X
1,210
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)