「冗談って、何処までが冗談なの?」
「いや、冗談じゃねえし。つか、今のが冗談に聞える方が可笑しいだろうが」
守ってくれる奴がいる。何てアルベドは言って笑ったけれど、一体どういうことだろうかと、私は呆気にとられていた。いきなりそんなことを言うので、驚いたのもそうだけど、そこで笑えるんだとか言うまあ、色々あって。
目の前のアルベドは、おいおい、といった感じに私を見ていたけれど、別にそこまで気になりもしなかった。
「エトワール様、私もお守りしますから!」
「あ、ああ、うん。ありがとう」
アルバも負けるもんかというように、声を張り上げた。色々言って貰えるのは嬉しいんだけど、矢っ張り守られる対象なのかと思ってしまう面もあって。
何というか、情けなさが勝った。
「えっと、二人ともありがとう。まあ、どうなるか分からないし、気を追わないようにします」
何故か敬語になりながら私は笑みをはっつけた。取り敢えず、笑っておけば大丈夫だろうという考えからだ。安直だけど。
アルベドも、アルバも一応納得したような顔になった為、これ以上話すことは何もないだろうと思った。
「アルベド、情報、教えてくれてありがとう」
「ああ、安いもんだな」
「でも、リース……じゃなくて、殿下とかにはこのはなししなくて大丈夫なの? 矢っ張り、情報は共有すべきだと思うし。私に話せて、殿下に話せないって事はないでしょ?」
そう聞けば、アルベドは、考えるような仕草をした。まさか、この期に及んで話していないとか、話せないとか言い出したらどうしようかと思ったが、アルベドは、私の方を見てニヤリと笑った。
「勿論、殿下には話したぜ。まあ、エトワールより詳しく話してねえし、ヘウンデウン教の表面のことだけを話しただけだが。俺の私情とか、家族関係とか、そういうのは、話す理由がないだろ?」
「た、確かにそうだけど……」
「疑われているのは、今に始まったことじゃねえし。だから、俺は今エトワールに話したような、家族関係のことは一切殿下に話していない。殿下もそんな話し聞きたくないだろうしな」
と、アルベドは言うと腕を上に上げて背伸びをしていた。
確かに、アルベドの家族関係とか、ヘウンデウン教との繋がりとかを聞いたとしても、有益な情報を得られるかと言われれば微妙である。それに、アルベドが家族のことをべらべらと人に話すようなタイプじゃないことも。リースが人の過去に興味がない事も知っていた。それを、アルベドが知っていたかは別としても、リースにその話をする意味が無いし、リースも聞く意味が無いと思っていることは確かである。
まあ、その話抜きにしろ、リースに情報を与えているのなら、私がわざわざ話す必要も無いと思った。手間が省けてラッキーだ。
「エトワール様、もう戻られますか?」
「そうだね。じゃあ、アルベド私達は戻るけど……」
「なあ、エトワール。俺は、ブリリアント卿よりも戦闘慣れしてると思うんだが」
「はい?」
アルベドが立ち上がった私達を繋ぎとめるようにそう口にした。
何を言い出すのかと思えば、全く予想もしていなかったことで、私は振返る。すると、彼の満月の瞳と目が合った。獲物を狙うような鋭い瞳に射貫かれて、その場から動けなくなってしまう。
アルベドの口角がニヤリと上がって、私はゴクリと固唾を飲み込んだ。
「な、何よ。そんな怖い目して」
「怖いって酷えな。普通、元からこういう目をしてんだよ」
「あっそ」
傷ついたなあ、何てわざとらしくアルベドは肩をすくめつつ、本題に入ると言わんばかりに立ち上がった。そういえば、此奴背が高かったなあと、座っていたから忘れていたが、アルベドの身長を見て、改めて背が高い、足が長いと思った。本当にどうでも良いことなんだけど。
「戦闘慣れしてる? だから何?」
「分かるだろ。実戦しなきゃ、魔法の扱いは慣れないってこと。どうやら、ブリリアント卿も忙しいみたいだし、お前に剣術を教えてくれる奴も出張中みたいだし。お前の相手をしてやれるのは俺しかいないんじゃ無いかって……そう思ったんだよ」
「……つまり、アンタが魔法を教えてくれるって事?」
そう言えば、アルベドはコクリと頷いた。
(意味分かんない。そもそも、闇魔法と、光魔法じゃ違うのに!)
確かに、アルベドほど魔法と身のこなしが軽やかな人物に教われば上手くなるかも知れない。でも、根本的に、光魔法と闇魔法では違うのだ。だから、教えたところで、使えるものと使えないものだってある。
それに、ブライトとグランツの事まであげて一体どういう魂胆か。
(でも、強くなった方が良いのはそう……分かってる。分かってるけど)
アルベドの教え方がどんなものか気になった。でも、きっとブライトよりも教え方に難ありな気がする。ブライトは私に合わせて、特訓内容を考えてくれたけど、アルベドの実戦と言う言葉から、あまりいい気がしない気がした。
「アンタは、私に何を教えてくれるって言うのよ」
「そりゃあ、色々、手取足取り。お前の知りたいこととかも?」
「エトワール様、レイ卿に習うのはやめましょう」
「あ、アルバ」
私と、アルベドの間に割って入るようにして、アルバが入り、スッと私の腰を抱いてアルベドから離した。アルベドはその様子をじっと見つめているだけで、手を出しては来なかったが、何してんだ此奴みたいな顔で見てきたため、何だかアルバが可哀相にも思えた。
爵位とか地位とかで言えば、アルバは、アルベドには下のはずなんだけど。
矢っ張りコレは、アルベドのこれまでの悪評とか、闇魔法の者だからとかそういう理由だからなのかなあ何て、一人勝手に考察もした。
「アルバ、どうしたの? 良い機会だとは思うんだけど」
「ですが、闇魔法と光魔法ですよ。ぶつかり合ったら、拒絶反応で爆発……何てことだってあり得るんです。ですから」
「う、うん。分かってるんだけど、アルバちかい……」
前のめりになって私を説得しようとしていたアルバは、異様に距離が近いようにも思えた。別にそれはいいんだけど、そこまで気を遣う必要があるのかと。
言ったとおり、良い機会だとは思う。ヘウンデウン教が闇魔法の人だらけであるなら、対闇魔法の魔道士との戦いを覚えておくべき何じゃないかと。
どうしたものかと思っていれば、アルベドが口を開く。
「お前が決めることだろ。エトワール。やるのか、やらないのかは」
「アルベド」
アルベドの言うとおりだ。と、私はアルバの肩を叩いた。彼女は、不安げに私を見てきたが、私は、アルベドに教えて貰いたいと思った。もし、強くなれるなら。それが一番誰かにとって役に立つことに、自分一人でも、守って貰える存在じゃなくて、守れる存在になるのではないかと。
そんな期待を込めて。
「アルバ、大丈夫。というか、これからそういう戦いが増えていくんだし、強くならなきゃ。勿論、アルバが守ってくれるのは嬉しいけどね。私も、アルバを守れる人になりたいから」
「え、エトワール様……」
じんわりと、涙を瞳に浮べながら、アルバは私の手を握った。
そうして、私はその手を優しく握り返した後、ゆっくり離して、アルベドの方を見た。アルベドは、ようやくやる気になったかと、口角を上げると、顎でついてくるようにと指示を出した。相変わらずむかつくなあ、何て思いながら、教えて貰う立場、何も言えないと黙ってついていくことにした。アルバは終始そんなアルベドの態度に対してイライラしていたみたいだけど。
私にとっては、いつもの事だと、受け流すことにした。
(もし、強くなれるなら。何か、イメージを掴むことが出来るのなら、価値はある)
そう思いながら、私はアルベドの後を追って歩き出した。
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