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「ひ、広い……」
「当たり前だろ。そんな小さな庭なわけねえだろ」
連れてこられたのは、広い庭だった。一面のピンク色のチューリップを見て、こんな所で、戦闘訓練なんてするんだろうかと、私はアルベドを疑った。だって、こんな綺麗に咲いているのに、魔法の流れ弾で台無しになったりするのでは無いかと思ったからだ。
(というか、アルベドにまず花を愛でる心があるかすら分からないけれど)
何となく、無い気がして、だからこそここに連れてきたんではないかと、冷たい目を向ける。すると、ようやくアルベドはこちらに向き直って、私の方を見た。
「何よ」
「安心しろ。枯れないように魔法が掛けてあるから、心配すんなよ。さすがに、このチューリップを台無しにはしねえし」
「ぶっ」
「おい、こら。次は何だよ」
「だって、アルベドがチューリップとか言うから」
「だから?」
「似合わない言葉、ベスト三位ぐらいに入るんじゃ無いかなって思って。ダメ、ツボった」
アルベドの口からチューリップとか出たせいで、私は笑いが止らなくなってしまった。別に、チューリップっていう花だし、全然間違いではないんだけど、アルベドにチューリップって似合わない気がしたからだ。本人はかなりキレているようで、怒っているけれど、ツボってしまったため、すぐには笑いが止らない。
そういえば、アルベドの家紋がチューリップだから、大事にしているのは分かるんだけど。
(ピンク色のチューリップねえ……)
確かに、赤や黄色よりも綺麗な気がした。チューリップと言ったら赤というイメージが私の中ではあったため、これだけ同じ色、それもピンク色が並んでいるという光景は珍しかったのだ。
「それで、いつまで笑ってるつもりだよ」
「ごめんって。でも、それなら安心できるかも。というか、私がそれ気にしてるってよく分かったんだね」
「そりゃ、俺達の家の大切なチューリップだからな。まあ、花は咲いて散るまでが綺麗だから、一年中咲いてるわけじゃねえけど……まあ、魔法で品種改良は多少している。勿論、防御魔法で、余計な虫がつかないようにもしてるけどな」
「ほんと、魔法って便利」
アルベド曰く、水の管理も魔法で行っているらしい。何でも、魔法石を使った魔道具を活用しているから、頻繁に見に行かなくても、しっかりと咲いて管理できているらしいのだ。
魔法の便利性をここでも、目の当たりにした気がした。
(その魔法は、日常生活で役に立つだけじゃなくて、戦いにも……)
魔法は便利で、使いようによっては日常生活が楽になる本当に名の通り魔法の品物である。品物という言い方は違うのかも知れないが、魔法があることによって楽になることには変わりない。でも、その魔法は時に人を傷つけるものなのだ。
きっと、何十人もの人間が束になっても、大きな魔法、一人が扱う強大な魔法攻撃によっては、殺されてしまうのだから。
だから、魔道士は優遇されるのだろうが。
(なら、騎士がいる必要性がなくなってくるのよ……)
私は、ちらりとアルバを見た。アルバは、視線に気づいていないようで、それでいて、アルベドの方をじっと見ていた。アルベドが可笑しな行動を取ったときに、すぐに制止できるようになのだろうが、あまりにも視線が強い。
「アルバ、あんまり睨んじゃダメだよ」
「分かってるんですけど……私も、グロリアスと一緒で、気にくわないんです。どうしてでしょうか」
「いや、疑問系で言われても私分かんないよ……」
「どうしてでしょうか」とか言われても私もよく分からなかった。アルベドが、危険人物だからだろうか。その纏う独特な雰囲気というか。その何かが、アルバにとって危険信号を出しているのだろうかと。
アルバもそうだけど、グランツもアルベドの事が嫌いだったと。私の護衛はどうやら、アルベドと相性がよくないらしい。グランツの場合は、理由がはっきりしているんだけど。多分、忠実な騎士だからこそ、こうやって自由に生きている人というか、道を踏み外しそうな人が嫌いなのかも知れない。
私は、従順な人も好きだけれど、矢っ張り対立とか、その中でしっかりとわかり合える。ぶつかっても、話が通じる人が良いと思った。そういう意味では、アルベドの事は嫌いではない。勿論、恋愛的に好きかと言われても分からないし、多分違う。
(恋愛感情とか、今言ってる場合じゃないんだけど)
そんなことを考えている暇があるなら、他のことに頭を回したいと思った。時間が勿体ない。効率的に、合理的に、いまできることをしっかりとやろうと思う。
「すげえ、睨んでくるな。お前の騎士」
「睨んでいるわけではありません。見ているだけです」
「屁理屈だなあ。認めたくないって顔に書いてあるぜ。彼奴もそうだったが頑固も良いところだな」
「……グロリアスと比べないでください」
アルバはそう言って私の肩を強く握った。痛いと言う暇もなく、彼女はスッと手を離したが、やはりアルベドの事をいいように思っていないようだった。ここで、バチバチされても困るんだけど、と挟まれながらつくづく思った。まあ、面倒事を起こさないなら、私も何も言わないけれど。
そんな風に見ていると、アルベドが何かを思いついたかのように顔を明るくした。何やら、嫌な予感がすると身構えていれば、首に巻いていたマフラーを取った。
「そうだ。まず、お前から見てやるよ。女騎士」
「何をですか? レイ卿。貴方に見て貰う事なんて何もありませんが」
強い口調で、アルバは返して私の前に出た。後ろに立ちながらも、彼女の背中がたくましく見えて、矢っ張り鍛えているところが違うんだなあと、同じ女の子だけど思う。
そりゃ、騎士として鍛錬を怠らないだろうし、そういう自分に甘い部分もないのだろう。だからこそ、その屈強な身体を手に入れたのだと。でも、やはりといってはあれだが、男と女の体格差は違う。そこを埋めることは一勝できないだろう。努力しても手に入らないものだってある。アルバは背は高い方だが、グランツやアルベドと並ぶと華奢だと言うことが分かるし。
アルベドは、ふふんと鼻で笑いながらアルバを見た。アルバは、不愉快だと言うようにピクリと指先を動かす。
もう、嫌な予感しかしないから。今すぐにこの場を立ち去りたい衝動に駆られたが、どうにも逃げられる感じではなかったため、その場に落ち着く。
「お前の、技術見てやろうと思ったんだよ。悪い話じゃねえだろ」
「だから、何故レイ卿に見て貰わなければならないんですか。そもそも、貴方は騎士でも何でもない。逆に、レイ卿が私に勝てるとでも言うんですか?」
「強気だなあ。嫌いじゃねえけど、口の利き方に気をつけろよ」
(あわわ……)
目が笑っていない。滅茶苦茶怖い。
アルベドは、そこそこ煽り耐性あると思ったんだけど、さすがにそこまで言われるとカチンとくるのかも知れない。私にはわかり得ない世界だけど、きっと何かしら、アルベドの気に障るようなことがあったんだろうと予想する。
あくまで予想で、そこまで怒っていないんだろうけど、アルバもアルバで結構強い言葉を使うため、二人の仲の悪さが際立って見えた。
(仲良くしてよ、本当に……)
何が始まるか、私は今になって理解できた。
アルベドが、見てやると言ったのは、アルバが騎士としてどれほどの実力があるか見てやるって事なのだろう。でも、それを上からいったせいで、アルバをさかなでしたに違いない。だって、騎士でも何でもない人に上からものを言われるって相当だから。プロじゃないのに、プロ選手に向かって、試合見ててやるよ、見たいに言われるものだから。
「ちょ、ちょっと、アルベド。言い過ぎなんじゃ」
「いいや、これぐらいがちょうど良いだろ。騎士ってのは固くて嫌い何だよ。何処か、一歩引いてて、そのエゴを剥き出しにしねえからな。正しく強くあれじゃ、生きていけねえ」
「で、でも……アルベドだって、別に騎士じゃないんだし、負けたら恥ずかしくない?」
「俺が負けるとでも思ってんのかよ」
「あー、もう良いです。勝手にして」
私は、話すだけ無駄だと思って、アルベドから離れた。
アルバはそれをじっと見た後、私の方へ寄ってきた。
「私、負けませんから。それに、あそこまで言われて受けて立たない理由がないです」
「アルバ……」
ほどほどにね。といえるような状況じゃなく、私は二人から離れ、行く末を見守ることにした。私の魔法を見て貰うはずなのに、どうしてこうなったのか、二人が剣を構え会うのを見て、私は溜息しか出なかった。