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「どうしたんですか、ブリリアント卿」
「……やはり、貴方が相手だと、不利だと思いましてね」
「降参してくれたら、楽なんですが」
こうして、グランツさんと対峙するのは初めてだった。けれど、不思議と、負ける気がしないと思うのは、エトワール様が魔力を分け与えてくれたおかげか。
(けれど、僕に勝ち目なんて……相手は、魔法を斬ることができる相手……僕の魔法が幾らレベルが上がったとしても勝てるわけでは)
ギリッと奥歯を噛み締める。
けれど、立ち向かわなければならないのは、託されているからか。それとも、信頼されて待たれているからか。
(どっちでもいいですけど、ここで負けたら死ぬんですから、やるしかないですよね)
そう、思いながら僕はグランツさんの方を真っ直ぐと顔を上げて見た。
遡ること、数分前か。
(エトワール様、何処に行くつもりですか?)
ヘウンデウン教、敵襲と声が聞えた瞬間、攻撃が仕掛けられた。人数はさほどいなかったが、どれも、高火力の魔法だった。数は少ないからと言って、侮ってはいけないと、そこで痛感させられる。
そうして、狙いがなんなのか考えているうちに、エトワール様は、軍の中から飛び出して言ってしまった。それに、すぐに気がついたのは殿下で、取り乱した様子だった。いつも、エトワール様に何かあったら、何かなくても、殿下はすぐに取り乱す。
エトワール様が現われる前の殿下は、冷たくて心のない人だと思っていたけれど、彼にもちゃんと心があったのだと、分かった。
そんなことが分かったとことで、僕は殿下の事が好きになれなかった。
暴君、冷酷非道……殿下にまとわりついているレッテルがすぐに剥がれることもなく、増して、殿下自体、人との関わり合いを嫌っていた。ただ一人、孤高の存在としてそこに君臨していた。
僕はそう言うのが苦手だった。
弱いと云われてしまえばその通りなのだが、僕は人と関わり合い、温かい輪の中で強さを高め合っていく方法でこれまで自分を高めてきた。だからこそ、圧倒的な力を前にして、電化を前にして、自分のやり方が否定された気がしていたのだ。
それは今も変わらない。
(かといって、自分がそう……といえるわけではないのですけど)
僕も、ファウダーという弟、混沌が弟であると言うことを隠しながら生活をしてきたせいで、他人を頼ることをしなくなっていた。嘘をつくことが当たり前になっていて、そのたび心をすり減らしてきた。
そんな時、現われたのがエトワール様だった。
彼女は、閉ざしていた僕の心に入ってきて、光を与えてくれた。初めこそ、魔法の師匠と弟子という関係だったが、僕は次第に彼女に惹かれていった。今オm、彼女がいてくれると安心する。彼女の顔が曇るたび心配になってしまう。
(かすかに感じる魔力……もしかして、それを感じ取ってエトワール様は?)
周りに被害が及ばないようにと、エトワール様はわざと出ていったのではないかと思った。彼女は普段、ふんわりしているが、いざとなったら出来る人だと知っている。こういう変化に人一倍気づく人だった。だからこその決断だったのかも知れない。
けれど、感じた魔力は凄まじいものだった。隠しても隠しきれないようなもの。いいや、わざとそうやってかもしだしていたのかも知れないが。
一度感じたことある魔力、それはラヴァイン・レイのものだ。
(もし、このままエトワール様が攫われたりしたら?)
そうなったら、僕達に勝ち目はない。
もう、彼女が聖女だろうが聖女でなかろうが、関係無い。僕は彼女を守りたかった。
目の前で繰り広げられている戦いは、レベルの高いものだ。だが、こちらも、それなりの人選で守りを固めてきている。ならば、今僕がやるべき事は。
僕は、従者に無理を言ってエトワール様を追いかけることにした。
その途中で、紅蓮が目の前を通り過ぎていくのが見える。
(レイ卿も?)
彼も、エトワール様の行動を見ていたのだろう。それに、あの魔力を感じていたら、尚更動かないわけにはいられないだろうと思った。
自分の弟に、エトワール様を奪われるわけには行かないと思ったのかも知れない。
レイ公爵家がどのようになっているかは知らないけれど、二人の中は最悪だと聞いていた。なら、尚更。
「ああ、もうしつこい! アンタ、魔法以外も出来たのね!」
「そりゃあ、兄さんに勝つためには色々やるでしょ。手は抜いたりしないよ?」
「そんなに、ブラコンなら、アルベドと戦ってなさいよ!」
深い森の中に入れば、エトワール様と、案の定あのくすんだ紅蓮が戦っていた。エトワール様は、前に見たときよりも身軽に動いていて、その適応力の高さに驚かされた。
エトワール様は、レイ卿に教えて貰ったと言っていたけれど、それをすぐに自分のものに出来るなんて、やはり凄い人だと思う。
しかし、慣れているラヴァイン・レイには負けるのか、劣勢になり、絶体絶命にまで追い詰められていた。
(間に合うか……)
魔法を放てば間に合うかも知れないと、イメージを固めている間に、目の前で誰かが、ラヴァイン・レイの攻撃を防いだ。見慣れた紅蓮。
「やば……」
「……だから、一人で行動すんなっつったろ!」
「アルベド」
「たっく、お前一人でラヴァインに勝てるとでも思ってたのか、ああ?」
さすがというか、僕では到底たどり着けない境地に入ると思った。そこが、憎たらしくて、憧れでもあったが。
レイ卿は、エトワール様を抱きかかえて、その攻撃を防いだ。
ラヴァイン・レイは、それを見て、不愉快そうに眉をひそめる。どうやら、僕の魔力も感知したらしく、一人では勝てないと見切ったのか。それとも。
「兄さん一人だったら、面白かったけど、そっちの黒髪もいるんじゃあねえ」
「え……」
「エトワール様は渡しませんから」
「ブライト」
「驚きました。勝手な行動しないでくださいね。エトワール様」
「え、ああ……うん」
ちょうど出て行くタイミングがあり、僕はエトワール様の元へと歩み寄る。エトワール様は、僕まで来ているとは思わなかったのか、驚いたように目を丸くしていた。そんな姿も可愛いと思ってしまったが、そんなことを思っている余裕はないと、ラヴァイン・レイを見る。
何だか嫌な予感がする。
そう思ったのは、僕だけではないようだった。
「何が可笑しいのよ」
「言ったじゃん。これは、上の命令だって、何としてでもエトワールを連れて帰るようにって。だから……」
そう、ラヴァイン・レイが言うと、彼が森の奥から現われた。嫌な予感の正体は彼だったのだ。
「久しぶりです。エトワール様」
「グランツ……」
エトワール様の顔が険しくなる。
つい、この間まで共闘していた彼が敵側に寝返っていたのだ。だが、この間のエトワール様の顔を見れば、それも容易に予想がついて。
「グランツさん、エトワール様を裏切っていたんですね」
「勘違いしないで頂きたいです。ブリリアント卿……俺は裏切ったわけではありません」
そうグランツさんは首を横に振った。これを、裏切りと言わず何というのか教えて欲しいぐらいに。
けれど、彼は彼の意思であちら側について、心はエトワール様にあるのだと分かっていた。きっと、僕と同じだと。
それから、僕達と、ラヴァイン・レイ、グランツさんの五人で戦うことになったが、どちらも譲れない戦いを繰り広げることとなった。エトワール様のとある言葉によって、彼女の作戦を実行することとなり、僕はグランツさんと対峙することになった。
だが、結果は見ての通りだ。
魔法を防ぐことが出来る相手に対して、僕はあまりにも無力だった。彼が、急所を外しつつ、僕に的確に攻撃を当ててきているところを見ると、やはり、彼はまだ黒に染まりきっていないものだと思った。
だからといって、こちら側に戻ってくれる様子もない。
(……言葉では何も変わらないのか)
何故、彼が裏切ったか、少しだけ予想はついたものの、それでも、理解したくなかった。主を裏切るなんて、そんなこと騎士としてどうかしていると。
それを、今の彼に言ったところで何も変わらないことを分かっているのに。
そうして、僕は、アルバさんを連れて、再びグランツさんと対峙することになる。
今度は、アルバさんがいる。だからこそ、少しだけ勝算はあるのではないかと思った。数では有利だが。
「グランツさん」
「何ですか、ブリリアント卿」
「……エトワール様に、謝る気はないんですか。こんな裏切りをして」
「……」
「話す気はないと言うことですか。ならばこちらが、勝ったらエトワール様に謝るって事でいいですね?」
「勝てると思っているんですか?」
「はい。僕とアルバさんは、負けませんよ」
僕はそう、グランツさんに宣言した。