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今日も毎月の支払いのため、アタッシュケースに一ヶ月分の稼ぎを詰めて間医院へ向かう。施錠のされていない扉を潜って中へ入る。受付には誰もいないので、奥に来訪を伝えるために声をかける。
出てきたのは間先生だった。今日はキリコは不在なのかと思いながらアタッシュケースの中身を取り出して支払いを済ませていると、奥からキリコが出てきた。俺の存在にも気付いていないのか、真っ直ぐにデスクに向かい、そのままバタっと倒れ込んだ。
「おいっ、大丈夫か?」
糸が切れたマリオネットのように倒れ込んだ彼女に駆け寄ると、突っ伏したままの顔を僅かにあげた。濃いクマを添えた目が弱々しく開かれ、こちらを見据える。
「あーーーここここここのいくんだ。かねはらいにきたの?」「…………………お前、大丈夫か?」
「あさから2つもオペして…つかれたぁ。ここここここここのいくんはげんき?」「こ こ の い な…」「こここい……こ、こ、の、ひ………あれ?…げんかいとっぱして、したまわらない…」「もうココでいいから…」「ココくん……ココくん……へへ〜」
面倒臭い酔っ払いの相手をしている気分になってきた。
それにしても働きすぎじゃないか?学校と闇医者の両立とはいえ、ここまで疲れているのは初めてみた。キリコに聞きたい事があったのだが、日を改めた方がいいんだろうか…。
ぐきゅるるるる………!!!
突っ伏したままの彼女から断末魔のように聞こえた腹の虫。飯も食ってないのか?
昼のピークも終わって落ち着いた時間だったからか、電話して30分程で頼んだものは届けられた。医院の入り口で荷物を受け取って金を払う。ビニールに包まれた寿司桶をキリコの頭の横にドサっと置いた。
気配を察した彼女はムクっと起き上がると、隣の桶を覗き込んだ。
「ほら、食え」「んー…食欲ない」「さっきからずっと腹の虫が大合唱してうるせぇんだよ」
睡眠不足のせいで食欲がないんだろうが、寝起きでまだ開かない目を擦りながら船を漕いでいる彼女の体を起こして椅子の背もたれに預ける。割り箸を手に取って、桶から取り出しやすい位置にあった玉子焼きの寿司を挟むと、彼女の口に近づける。
唇に寿司が触れると彼女は口を開けたので、1貫丸ごとを口に押し込んだ。頬を膨らませてモッモッと咀嚼しているが、まだ目は開ききっていない。
同じ調子で3貫ほど彼女の口に押し込んだところで、やっと彼女の目に生気が戻った。
「ん?お寿司?」「ほら、自分で食え」
割り箸を差し出すと、キリコは「ありがとう」とヘニョっと笑った。それからもう3貫程食べたところで彼女は箸を置いた。
「もう十分です…お腹いっぱい」「は?そんだけしか食わねぇのかよ」「必要なエネルギー分は摂取したと思うけど……っていうか、これ何人分あるの?」「5人分頼んだ。残ったら俺が食えばいいと思ったし」「え?……九井くん、そんな大食いなの?」「ココでいいってさっき言っただろ」「…………なんか言われた気もする」「っていうか5人前くらいは余裕だろ?」「は?その細い体のどこに入るの?ちょっと食べる前と後でレントゲン撮らしてよ!」
食ったら急に元気になりやがる。元気なうちに聞きたいことを聞いてしまおうか。
「お前さ、渋谷の教会とか行ったりしてねぇよな?」「教会?私は無宗教だけど…」「そうか、それなら良かった」
ボスから頼まれている女医探し、都内の病院は虱潰しに探したが一向に見つかる気配もなく行き詰まっている。解決したい気持ちはあるが、目的の人物がキリコだったら余計に面倒になることは目に見えている。違っていて欲しいという思いが届いて、ホッと胸を撫で下ろした……………のだが
「でも、ちょっと前に無料診察で行ったことがあるよ」
「お前ぇぇ!!!ふっざけんなよー!!!!」
「え?なんで突然キレたの?」
呑気な顔で食後の茶を啜る姿も相まって、思わず叫んでしまった。
はぁぁーーっ…とクソデカため息を漏らして、がっくりと肩を下げる。
「………ちょっと面貸してもらおうか」「え、…私、校舎裏とかでボコられる?」「違ぇよ……会わせたい人がいんだよ」「いや、そういうのは面倒くさいって学んだんでお断りさせていただく方向で……」「は?無理矢理拐うぞ?」「えー……ガチなやつ?」「こっちも切羽詰まってんだよ……はぁ」「んー………全く気乗りしないけど、私の予定に合わせてくれるなら」「それでいい……で、いつなら行けんだ?」
キリコの予定がヤバかった。休みもなく働き詰めで、寝るのは学校だけという無茶なスケジュールの組み方だった。しかも学校がテスト期間に入ったので、睡眠時間を確保できなくてここ数日は寝ていないのだと。
「なんでそんなに仕事入れてんだよ?借金は返しただろう」「いや、新しく借金しちゃって……友達のオペを師匠に手伝ってもらっちゃって……」「………そうなのか」「いや、でも詰めて働けば年内には返済できるから頑張ろうと思って…」
一体いくらの借金なのかまでは詮索しなかったが、間先生の手術代なら端金であるはずはない。それを年内に返済しようとしているとか、闇医者ってそんなに儲かるのか?
いや、今はそんな事ではなくて………
「別に利息とかは取らないんだろ?こんな無茶なスケジュールだとお前が先に倒れるぞ」
内容を確認しながら、後に回せるものは日程を変えたり、往診も移動距離を調整したりとスケジュールを引き直した。
「凄いっ!!ココくん秘書みたい!!」「ほら、これで休みも取れるだろ。その休みでうちのボスn…」「休みあるなら温泉行きたいなぁ♪♪」
「…………クソッッ……これでいいかよ!温泉はこの日、こっちはボスに合わせる日だから予定入れんなよ!」「……うん…でも温泉とかって今からでも予約できるのかな?」「…………あぁ、俺が知ってるとこ予約しといてやるから!」「さすが、有能美人秘書❤️」
…………美人って付ける必要あるか?
もう面倒くさくなって疑問は放置して、馴染みの温泉宿に電話をかける。
「ボスに会う日だけは絶対予定入れんじゃねぇからな」と何度も念を押して、キリコの疲労を肩代わりした気分で間医院を後にした。
ココくんが帰った後、予約してくれたという旅館を調べてみると、有名な温泉街にある老舗の旅館だった。HPもなく、ブログなどの情報によると一見さんお断りな雰囲気があり、どうも裏社会御用達の宿のようだ。しかも基本的には1日1組だけの貸切営業のみだそうだ。
裏社会御用達ということは、体にお絵かきした方々も遠慮なく温泉に入れるということだろうから貸切も納得ではあるが、一人で貸切旅館に泊まるのは…さすがに寂しすぎる。
「エマちゃんとヒナちゃんも誘ってみようかな…」
ーーーーーーーーーーーーーーー
二人にメールをすると、即レスで「行きたい」と帰ってきたので女子会温泉ツアーという楽しみな予定がスケジュール帳を彩った。旅行に必要なものも一緒に買いに行きたかったが、私の休みと二人の予定が合わなかったので一人で買い物に行く。
仕事で着ている服も汚れることが多いので、この際一気に買ってしまおうと六本木まで足を伸ばした。闇医者の仕事着としてはできるだけ大人っぽく見えるように気をつけている…つもりだなので渋谷ではなく六本木まで来たのだが…………六本木には彼らがいるのを忘れていた。
「ねぇ〜オネェさん一人?」「買い物なら一人よりも一緒の方がいいよな?」
駅を降りて、1軒目の店を出たらすぐに捕まってしまった。
なんで?監視カメラとかハッキングしてる?それともGPSとか付けられてる?逃げ出しても監視されてたら、また捕まるだけか………
「私の行きたいとこに付き合ってくれるなら、一緒でもいいですけど…」
やむなく出した妥協案。とはいえ、この二人のセンスは間違いないから買い物なら同行してもらってもいいかも。狂っているのは金銭感覚と倫理観と……あっ、センスと見た目以外全部だった。
そんな失礼なことを考えていると、二人からジーッと視線を向けられたので、誤魔化すように近くのセレクトショップに逃げこんだ。
「ここいいじゃん♪キリコならこういう服とか似合いそう」「俺はこっちの方が…」
何も考えず入った店だったが、確かに揃えている商品はどれもお洒落で良さそうだ。でも……仕事着にするには勿体なさすぎるお値段だった。治療で汚れたら捨てなくてはいけないことも多いのに、こんな高級品を着ていきたくはない。もちろんTPOに合わせて必要な時もあるが…今日は使い捨ててもOKな服を買いに来たのだ。
「なぁ〜いっそ、ここからここまで買っちゃう?」「いいなぁ、それなら靴もこの棚まとめて買った方がいいな」
………マイケルなジャクソンですか?
「………このお店でそんなこと出来ませんよ。UNI○LOとかならまだしも……あ、でもUN○QLOで棚買いしちゃうと全部同じ形の色サイズ違いが大量になっちゃいますね」「ブハッッッ…それヤバいな」「いつも同じ形の色違い着てるとか…ウケるわ」
思わず口にしただけなのに……兄弟にはなぜか刺さったらしい。「よし、じゃあU○IQL○行くか」とノリノリで店を出て行ってしまった。
このまま付いていかなければ解放されるのでは…と思ったが、きっと後から色サイズ違いの大量の服が渡されてしまう……。仕方なく止めるために後に続く。
店を出たところで、私が止める前に他の人達が止めに来てくれた。見るからにセンスの悪い…いや、柄の悪い人達の集団だった。
私の周りも柄も顔も悪い人達に取り囲まれた。リーダー的な人が二人に何か話しかけているようだ。こちらをみた蘭ちゃんと竜胆くんのコメカミに青筋が浮かんでいる。
…もしかして私って人質?それで蘭ちゃんと竜胆くんは怒ってる?あー…それは申し訳ない。
って…あれ?元々二人のせいで巻き込まれてるだよな……。自業自得じゃん!私にキレられても困る!!
そのまま裏路地のようなところをぬけた駐車場に連れていかれた。
開戦の火蓋も知らぬ間に切って落とされていた…というか、気付いた時には既何人か倒れていた。
私の周りの人達も加勢に離れていったのだが…これは逃げた方がいいのかな?いや、蘭ちゃんと竜胆くんが優勢だから終わるまで待ってろってことなのかな……。
喧嘩には興味がないので、暇だなとしゃがんで待っていると、ドサッと目の前に人が降ってきた。蘭ちゃんに警棒で殴られて吹っ飛ばされてきたようだ。頬が擦れて血が滲んでいる。あと打撲後も多数…。
…することないしな。いつものバッグから消毒薬やら包帯を取り出すと治療を始めた。簡単な手当だけなのですぐに終わる。
周囲には暇潰し用患者が無数に転がっていた。
近くの患者の元にトコトコと歩いていく。この人はさっき竜胆くんに腕を締め上げられてた人だな…肩と肘が脱臼してる。バッグを下ろして腕を持ち上げて、外れた骨を元の位置に戻して、肩と肘に湿布を貼る。
「さて、次はー…」エンドレスに患者が増えていくので、とりあえず目についた者から順に対処していく。
ゴキッと大きな音を立てて、股関節に骨が嵌った。さすがに股関節は湿布を貼ってあげられないので、湿布だけ渡しておく。
次の人はどこだー?っと周りを見回すと、蘭ちゃんと竜胆くんの顔が並んでこちらを見ていた。
「あっ、終わった?」
「キリコ、何してんだ?」「………暇だったから治療してた」「そっかぁ、じゃあ治療費貰わねぇとな〜」「よし、回収してくるか」
全員分の財布がドサドサっと目の前に降ってきた。……全員の治療はしてないけど、まぁお仲間の分ってことで貰っておくことにする。
お札だけ抜いて、小銭とかカードはそのまま財布に残しておく。全部合わせると結構な額になった。
「キリコセンセ、結構稼げたー?」「はい、お二人の分け前抜いてください!」
「ブハッ、ハハッ…マジで言ってる?」「え?」「分け前ってことは仲間ってことだろ?怪我させて、怪我の治療して、金巻き上げるって…どんなビジネスだよっ…ンハハッ…ヤベェ…」
「それ…めっちゃ効率的に稼げますね」「ん?じゃあ俺らと組んでやるー?」「……………………謹んでお断りさせていただきます」
金は大事だけど、そんな稼ぎ方はしたくない。というか二人と組むとか有り得ない!!!丁重にお断りを入れると、二人はそれに対しても笑っている。この人達ってゲラだよな…。爆笑する顔すら美しいとか……腹立たしい。
蘭ちゃんは無傷だったけど、竜胆君はまたお顔にすり傷があったので手当してたら、横で「ズルい!竜胆ばっかズルい!!」って五月蠅かったので、怪我もしてない手に絆創膏だけ貼ってあげたら喜ばれた。
「これで俺も治療費払わなきゃいけなくなっちゃった♡」「いえ、治療費はもういただいてますので結構です」
先程巻き上げたお金を見せつけてから、雑に鞄に突っ込んで拒否した。
なんか色々疲れたのでもう今日は買い物も諦めて帰ろうと思ったのに、二人に掴まれたままズルズルと引き摺られる。到着したのは……………UN○QLOだった。
………忘れてなかったんだね?
久しぶり〜
最近さ、体験入部行ったりと忙しくて、今日は家庭訪問だったから投稿が遅くなりました!家庭訪問で先生が言ってたんだけど、弓道部があるのは私が通ってる学校だけらしい!私はテニス部に入るけどみんなは何の部活に入りますか?
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