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「ハルハル大丈夫かな?」
「何がだよ」
リビングでたべりながら、ふと空がそんなことを口にする。言った意味がいまいち理解できず聞き返せば、空は何でもないというように首を横に振った。
明智は最近変わった気がする。だがそれは、神津が死んで半年がたとうとして、ようやく明智も気持ちの整理がついたということなのだろう、と俺はほっと胸をなでおろしていた。明智は「お前たちのおかげだな」的なことを、この言葉をそのままいったわけではないが、伝えてくれたため、本当に前を向けたんだと思った。明智は神津を忘れたわけではない。だが、彼奴の分も生きようと思ったのだろう。それがとても嬉しかった。
だが、それが違うというのかと、空の言葉に疑問を覚える。
「うーん、無理しているわけじゃないと思うけど、うーん」
「はっきりしろよ。何なんだよ」
空は、なぜか言いよどんで、言葉を濁していた。何なのかはっきりさせてほしいと睨めば、びくっと肩を大きく上下させる。
「いや、だってハルハルって嘘はつかないけど、何かあると賢そうな顔になるっていうか、考え込むんじゃなくて全部わかっているから清々しい顔になるというか。説明が難しいけど」
「普通に、神津のこと乗り越えたんじゃね?もう半年も経つからな」
「そういう、ものなのかな?」
「そーだろうよ。ずっとうじうじなんてしてられねぇだろ。一か月も事務所閉じてたし、生活費を稼がなきゃってのもあるんじゃね?」
俺はそう軽く返した。
空はまだ何か引っかかるという顔をしつつも、深く考えないようにしようと切り替えたのか「それもそっか」と笑顔を向けた。余計な心配をするよりもそうやって、前向きにとらえたほうがいいと俺は思った。その方が、神津も嬉しいだろう。
「オレの気にしすぎだよね」
「そーだぞ、俺達も楽しいこと考えればいいんだよ」
「例えば?」
と空はノリノリで聞いてきた。例えば? と聞かれたらどうかえせばいいかわからなかった。取り合えず思ったことを口にしただけでそこまで何も考えていなかったなあと考える。楽しいことなどいくらでも浮かんでくるだろうし、それこそやりたいことはいっぱいある。神津がいなくなったが、明智にはいろんなところに連れて行ってやりたいし、空の車ではどこかに行くことはできないが、レンタカーでも借りて遠出をするのもいいだろう。まあ、時間があればの話だが。
「ふぁあ……ねむぅ」
「そういや、お前昨日帰り遅かったな。何か事件でもあったのか?」
「何でもかんでも事件につなげな~い。でもまあ、そんなところ」
と、空は眠そうに目をこする。時計の針は五時を指しており、寝るにはまだ早いが、夜勤疲れの空はもう体力的にも限界なのだろうと思った。
「少し寝るか?」
「ん~お言葉に甘えてそうさせてもらう」
空はそう言いながら、おぼつかない足取りで寝室へと向かう。その途中本気で倒れそうになったため、さっと空の腰を抱いた。
「お、おい、危ないぞ。空」
「あっ、あ……ありが、とう。ミオミオ」
ぎりぎりのところで抱き留めて、空の顔を見れば、彼は顔を赤くしていた。熱でもあるのかと思ったが、空は大丈夫だから。と言って俺の胸板を押した。まあ、醜態さらした上に腰抱かれていたら、恥ずかしいと思うのも無理はないだろう。
(何つぅか、乙女みたいな顔したか? よくわからねぇけど)
そもそも乙女の顔とは何なのかという話になる。だが、空がいつも以上に可愛く見えて離したくなかった。しかし、そんな俺の思いとは裏腹に「寝るから、起こしてね!」とばたんと寝室の扉を閉めた。もう少しからかいたいと思ったところで、ドアノブに手を掛けるとリビングのほうに置いておいたスマホがけたたましく鳴り響いた。
いったい誰だと少し苛立ちながらも電話を取れば、また上司からの電話だった。頻繁にかかってくるため、「またか」と事件だろうと、俺はスーツに手を通す。いつもなら空と一緒に行くが、彼奴を連れまわすわけにもいかないと、俺は一人で外に出る。場所も遠いわけではないし、走ればつく距離だろうと、上司に言われた場所まで向かう。
何でも爆発音が聞こえたとか。嫌な予感はしつつも、廃ビルだったらしいし、どこかの誰かがいたずらでもしたのだろうと思った。だが、上司から直接電話がかかってくるということは。
(事件か? まあ、何でもいいが、空の夕食作るっつぅ仕事もあるし、早く解放されたいが)
そんなことを思いながら現場に着くと、救急車やパトカーやらが思った以上に泊まっており、目を剥いた。ドクンと強く脈打つ心臓。
現場で聞こえる様々な情報が織り交ぜられている声に頭が痛くなる。
何があった? ただの爆発じゃないのか?
呼び出した上司と合流し話を聞けば、爆発があった後、銃声が鳴ったそうだ。それを近隣住民が通報し、中に入ると拳銃で撃たれた跡が見られる男性が倒れていたのだとか。通報があった時点でもう亡くなっていたらしく、今身元の確認をしているのだそうだ。黒い喪服のようなスーツに身を包んだ二十代前半の男性だと。
「先輩、その被害者に会わせてください!
「あ、ああ、いいが……もう少しで身元が」
俺は上司の言葉を無視し、タンカーで運ばれていく男を見つけ待ってくれるよう叫んだ。身元は、彼の手帳から分かったみたいで、確認する必要がないんじゃないかともいわれた。だが、知り合いかもしれないといえばその顔を見せてくれることになった。
「……ッ!」
白い布を取り、その顔があらわになれば、予想が現実に、想像が確証となる。
「……あけ、ち?」
そこに眠っていたのは、幸せそうに息を引き取った、警察学校時代の同僚であり、友人の明智春だった。