『貴方想い、散りゆく恋』〜身分違いの恋だとしても〜※6話の後の主様とそれぞれの担当執事で
番外編を作ってます。
番外編 〜バスティン side〜
『……。』
庭の木陰で主様が休んでいる。
だが、その表情は暗いまま。
『主様…。』
『バスティンさん。僕、主様になにかしてあげたいです。』
抱えていたムーが俺に話しかける。
『あぁ。俺も同じ気持ちだ。』
(何かいい方法は…。そうだ。)
『主様。少しいいか。』
『バスティン?どうしたの?』
『俺と気晴らしに行かないか?』
『気晴らし…?』
『あぁ。主様と行きたい場所があるんだ。』
『僕も行きますよ!』
『バスティン…ムー…うん。分かった。』
俺は主様の手を引く。
『しっかり掴まっててくれ。』
俺は主様を前に乗せて、後ろから抱き締める様に座る。
『僕、主様にしっかり抱っこされてますね!』
『あぁ。行くぞ。』
パカパカ…ッ。
『あ…。』
(風が冷たくて気持ちいい…。)
『早いです〜!』
『主様、大丈夫か?』
『うん。気持ちいいよ。』
『そうか。良かった。』
俺は馬を走らせ、ある場所に着く。
『着いたぞ、主様。』
『綺麗…。』
『白猫さんです!待ってくださーい! 』
僕は白猫さんを追いかけた。
目の前には透き通る湖が広がっていた。
『俺も落ち込んだ時や、辛い時ここに来るんだ。綺麗な湖を前にすると、心が落ち着くんだ。』
『もしかして、私が落ち込んでたからここに…?』
『あぁ。そうだ。主様に悲しい顔は似合わないからな。』
『バスティン…。』
『なぁ。主様。』
『ん?』
『俺は主様が好きだ。』
『…え?』
『執事としても、1人の男としても。』
『っ……。』
『俺に守らせてくれ。』
『バスティン……でも、わたし…。』
『…分かってる。主様の中ではおれは執事だよな。でも、伝えずにはいられなかったんだ。』
『バスティン……。』
『ずっとモヤモヤしてたんだ。伝えられて良かった。俺が望むのは主様の幸せだけだ。』
バスティンは微笑んだ。まるで、自分に言い聞かせるように。
『ありがとう。バスティン。』
『あぁ。』
これでいい。主様が笑顔なら俺は――
満足なんだから。
番外編 〜ユーハン side〜
主様から話を聞いた時、許せないという思いが強く込み上げてきた。貴族というのは本当に身勝手な存在だと――。我を抑えられる気がしなかった。
『主様。フィンレイ様は貴方を傷つけ泣かせた人です。それなのに何故まだ…。』
『違う、何か事情があるんだよ。フィンレイ様は貴族だから――。』
『貴族はいつも自分の保身のことばかり考える人達ですよ…っ。それは私が1番よく分かっているんです!』
『ユーハン…でも、フィンレイ様は――。』
(あぁ、もう、フィンレイ様フィンレイ様って…私はこんなに貴方を心配して…っ。)
この時の私は冷静さを欠いていた。
『…わかりました。口で言っても解らないなら――。』
グイッ!
主様の手を引き、自室から連れ出す。
『ユーハン、何、どうしたの…っ?わっ!』
ユーハンは私を軽々とお姫様抱っこした。
『っ、どこに連れていく気…?』
『別邸1階です。ハナマルさんとテディさんは依頼でいませんし、ベレンさんとシロさんはメープルワッフルを食べにキッチンにいますから。』
『何する気なの…?』
『……。』
問いかけても返事がない。
ドサッ
私のベットに主様を押し倒し、両手を拘束する。
『離して…っ。』
男のユーハンの力に適う訳もなく…。
『私が忘れさせてあげます。』
私は口で手袋を外す。
スルっ
『!嫌…っ!』
じたばたと暴れてもユーハンには効かない。
『ん…。』
唇に指先を当てられる。
『しー…。』
『暴れると痛いですよ。』
ユーハンは私の唇にキスをする。
ガリっ!
『痛…っ!』
ポタ…ッ
私はユーハンの唇を噛む。鮮血が滴る。
『…ユーハンらしくない。こんな無理矢理…っ。』
痛みで我に返る。
『も、申し訳ございません…主様。』
深々と頭を下げる。
『…ユーハン。顔を上げて。』
『…。』
ペちっ
『え……。』
軽くユーハンの頬を叩く。
『バカ。怖かったんだからね。』
『っ、すみません…でした。』
『ユーハンが私のことを想ってくれてるのは分かってる。ありがとう。でもね。私はフィンレイ様のことを信じたいんだ。本人の口から本心を聞くまではね。』
『主様…。』
貴方が望むなら、従いましょう。
私は主様の前に跪く。
『かしこまりました。主様。』
私は主様のもの。献身的に貴方に仕える。心も、身体も――。
番外編 〜アモン side〜
眠れない夜……私はふと目を覚ます。
フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。
『薔薇の香りだ。こんな夜に…?』
私は羽織を肩にかけて、庭へ向かう。
『真っ暗っす…。でも、主様のため…。』
『アモン。』
『わぁっ!って、主様っすか?びっくりしたっす。』
『ごめんね、どうしたの?』
『あーえっと…。主様のために薔薇をあげようと思って。』
『私に…?』
『はいっす。フィンレイ様のことで落ち込んでたから……。』
『アモン…。』
『明日の大雨で薔薇が枯れちゃうんで今日しかないと思って。』
『ふふ、ありがとうね。アモン。私なら大丈夫だよ。』
主様はニコッと微笑んだ。
『フィンレイ様ともう1回話してみようと思うの。』
『え……?』
『このまま諦めるなんてできないから。』
『…っ。』
どうして…また傷つくかもしれないのに。
どうしたら俺を――。
『そろそろ部屋に戻るね。薔薇、楽しみにしてる。』
ギュッ
『!』
後ろからアモンに抱き締められる。
『行かないでくださいっす。主様……』
『アモン…?』
『どうしたら俺を見てくれるんすか?俺はこんなにも主様のこと……っ。』
『……ごめんね。アモンの気持ちには応えられない。』
『……。』
解ってた。だから聞きたくなかった。
『分かってたっすよ。…応援してるっすから。主様。』
俺はギュッと後ろで薔薇を握り締めた。今だけは華のせいにして、涙を流す――。
次回予告
『落ち込んだ時こそ、俺を頼ってください。』
『俺じゃだめかな。』
『話しましょうか?本当の事を――。』
続く…。
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