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#怪異
イキリ火の玉
1,443
翌日。この村に来て二度目の満月の日。
努は朝から梶の説得に色々と言葉を使ったけど、そのほとんどが無視された。
日中は村の仕事にかり出されていたが、その間も気が気ではない。
梶は自分を信頼している。この村に来てから手下達より信頼されていた。その自信はあった。それでも次の生け贄に選ばれたら。そう思うと恐怖で目眩がした。
「あのぉ……」
わずかな時間を見つけて今度は討伐隊の一人に話しかけた。10年前にこの村に迷い込んだ村人だ。
「……」
しかし無言で手を払われるだけだった。
なんの確証もないまま夕方になった。いつもの祝詞をあげると拷問屋敷に入る。実際に生け贄が殺されるのを見るのは初めてだ。
中に入ってすぐに気がついた。ォォォォォォ……地の底から聞こえてくるような唸り声。
「なんですか、これは?」
「アオ様の声じゃ。血を注ぐとこの声はおさまる」
奥原はつまらなさそうに答えた。
「ぁぁぁ……やめてくれぇ……」
力ない沢村の声。最後の拷問が始まる。
「沢村ちゃーん、よかったねぇ、今日で最後だって」
下着の上に野良着を羽織っているだけのミサは誰よりも楽しそうだ。奥原の手下は中年男が一人いるだけで、あとは若者のセイジとホタルだけ。
「たすけてぇ……たすけてぇ……」
いつかの老婆のように言葉を繰り返す沢村。
「坊や、頭をおさえていてくれる?」
ミサは楽しそうな笑顔を向けて努に言った。
「ぼ、僕がですか?」
「嫌なの?」
「い、嫌とかじゃ……」
もちろん嫌だった。でも、次の生け贄のことを考えると村人に気に入られているらしいミサには逆らえない。
「ご、ごめんなさいっ」
後ろから沢村の頭をおさえる。もう力がないのか沢村の抵抗はなかった。
「じゃあ、まずイッポーン」
ミサはそう言うと沢村の顔に取り付けられたクギのついた器具、その右目のほうを押した。
「グギャアアアアアッ」
さすがに痛いのか沢村の頭は大きく動いて努の手から離れた。首を前後に振って暴れている。
「ちょっと、ちゃんと持っててよ」
ミサは不満そうに努を睨んだ。
「すみません、すみません」
努は慌てて沢村の頭をおさえた。暴れていたので手の平だけでなく腕全体を使っておさえつけた。
「いいわよぉ、そのまましっかり持ってなさい」
ミサはペロリと舌なめずりをすると今度は左目のクギをゆっくりと押す。
「ヤダッ! ヤダッ!」
沢村は子供のように叫んだが今度はしっかりとおさえていたので頭は動かせない。
ゆっくりと、ゆっくりとクギ先が目玉に刺さっていく。努は沢村の叫び声を聞きながら頭をおさえることに必死だった。
「ふぅ、いいじゃない」
両目が潰された沢村を見てミサは満足そうに言った。
よほど興奮しているのか下着の上から指先で自分を慰めている。さすがの努もこの状況ではミサのそんな姿を見てもなんとも思わなかった。
「どれ、次はワシがやってやろう」
奥原は手に30センチほどの棒を持っていた。棒には所々金属が埋め込まれている。奥原は沢村の前まで来ると、おもむろにその棒で沢村の顔を殴った。
「イダイ! もうやめてぇ……」
沢村は泣き声だが目から涙はなく血しか流れていない。
奥原は一発殴ったあと、じっとそのまま突っ立っていた。長いな。努がそう思った時さっきとは逆側の頭を殴った。
奥原の顔は嬉しそうだ。視力を失い、いつ殴られるかわからない恐怖に怯える沢村の姿を心底楽しんでいるのだ。
―クズだ。こいつら人間のクズだ。
以前ならそんなことを思っただろう。しかし今の努は。
――こんな奴らに拷問されたら。
もはや自分のことしか考えられなくなっていた。ただただ怖かった。だから奥原から棒を渡されると、ほとんど躊躇なく沢村の頭頂部を殴っていた。
「ははは、お前もすっかりここの村人らしくなってきたのう」
そんな奥原の言葉にも努は愛想笑い。続く奥原の手下の拷問。再びミサの拷問。そして最後に奥原が沢村の喉を切り裂くまで努は張り付いた笑顔のままでいた。
狂乱が落ち着くと、いつの間にか唸り声がなくなっていた。
「セイジ、ここの処理は任せたぞ。坊主、お前はワシと来い」
「はい……」
奥原の命令でセイジとホタルがここに残った。二人だけは拷問の手伝いはしていない。
二人以外が拷問部屋を出るとミサは奥原の手下に腕を絡めてどこかに消えていった。努は奥原と一緒に集会所に向かう。その間、お互いずっと無言だった。
集会所には梶と、そして討伐隊の生き残りの三人の村人がいた。
他にも奥原の手下が3人。さらにはちぃこと安田もいた。ちぃこは努に気づくとニコッと笑って小さく手を振ったけど努にはそれを返す余裕はなかった。
「次の生け贄は決まったかのう?」
囲炉裏に近づきながら奥原は梶に訊いた。
「ああ、そいつだ」
梶は躊躇無く答えた。梶が指差した先、そこには驚愕と絶望がまじった努の顔。
「ウソでしょ? い、嫌だ!」
努は涙目で梶に訴える。だが、まるで声が聞こえていないかのように無視された。他の村人を見た。しかし自分じゃないなら残り三人の村人が反論する理由はなかった。
「待って下さいっ!」
努は叫んだ。全員の視線が努に注ぐ。
「僕は……」
なにか言わないと。そう思う。での何も言葉が出てこない。
「決まりじゃのう。連れて行け」
「嫌だっ!」
努は暴れて必死に抵抗した。でも安田を含む何人もの男たちにおさえられて手足を縛られた。そのまま安田に抱えられて拷問屋敷まで連れて行かれる。
拷問屋敷には沢村の死体も若い二人もいなくなっていたが血の臭いはまだ濃く残っていた。
「椅子に縛れ」
奥原の命令で部下たちが努の服に手をかける。努はここでも暴れて抵抗したが、それも虚しく服を剥ぎ取られて全裸であの椅子に拘束された。
そして怪力の安田に頭をおさえつけられると顔にあの器具がつけられる。まだ沢村の血と目玉の破片がクギにこびり付いていた。
「明日から拷問じゃのう。心配するな、死なないように最初は軽めからじゃ」
奥原はニィっと笑うとみんなを連れて出て行った。
「イヤダ。イヤダ。イヤダアアアアアアアッ」
努の叫び声だけが誰もいない拷問屋敷に響いた。
コメント
1件
第40話、読んだわ……胸糞悪いを通り越して、心臓がギュッてなった。 努がついに村のルールに染まりきって、自分も沢村を殴ってしまうところが本当に辛かった。「こんな奴ら人間のクズだ」って思ってた自分が、恐怖で同じことをするっていう流れが、この物語の一番エグいとこだよな。 そして次の生け贄に選ばれたときの絶望。あの拷問器具が自分に付けられるシーン、血と目玉の破片がこびり付いてるって描写で更にリアルで……。次どうなるんだろう、マジで気になる。続き待ってる🔥