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#怪異
イキリ火の玉
1,443
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ただ息を吸って吐いているだけなのに苦しい。
暗い。暗いはずの部屋なのに小窓から入る月明かりが目の前にあるクギの先端を照らす。
ついさっき、このクギ先が沢村の眼球を突き刺した瞬間を見た。次は自分の番。そう考えるとますます息が苦しくなる。
「いやだあああああっ」
叫んで体を動かしても手足は椅子に固定されている。
「助けてっ! 誰か助けてっ!」
努は叫んだ。喉が枯れるまで何度も叫んだ。しかし誰も来ない。
「うわあっ」
顔を揺すった瞬間、目の前のクギが近づいた気がした。怖い。だから目を閉じた。
……。
無音。ドクッ。ドクッ。ドクッ。無音の中で聞こえるのは自分の鼓動。
……。
「うわあっ!」
何かがすぐ後ろにいる気がして叫んだ。
怖い。だから目を開けた。目の前にクギの先端。目を開けても閉じても恐怖しかない。気が狂いそうだった。いや、いっそ狂ったほうが楽になれるだろう。
「うう……あぁ……ぅぅぅ……」
恐怖に疲れて静かに泣いていると……コト。物音がした。
気のせい? 努は暗闇に目を凝らす。そして耳を澄ますと扉がゆっくりと開く音。
「誰? お願い、助けて!」
暗闇から現れたのは……。
「ちぃこだよ?」
ちぃこだった。手には明かり。松明ではなく貴重品であるはずの懐中電灯を持っていた。
「ち、ちぃこ、た、助けて、紐をほどいて」
「無理だよ?」
表情とは裏腹にちぃこは即答した。
「ちぃこだったら村人は逆らわないから! お願い! 助けてよ!」
「あははー、ほどいてもこの村から逃げられないよ?」
「うっ……」
努は言葉につまる。例えいま開放されたところで再び捕まるか森に入って妖怪の餌食だ。そんなことも気づいていなかった。
「うっ……うぅ……」
自分の愚かさと絶望感に涙があふれる。
「泣かないで、ちぃこが慰めてあげるから」
ちぃこはそう言うと努の股間に手をのばす。
「元気になぁれ、元気になぁれ-」
ちぃこは優しく揉みしだくが、さすがにこんな状態で元気は出ない。
「あれぇ、ダメだねぇ?」
しばらく続けてそう言うと、ちぃこは拷問屋敷を出て行った。
「うう……ううう……」
ちぃこがいなくなると余計に悲しくなった。
――考えろ。
いまさらになって梶の言葉が重くのしかかる。
自分が次の生贄の最有力候補だったのはわかっていたはずだ。それなのに怖いから考えることを放棄していた。その結果がこれだ。
「どうすればよかったのだろう?」
暗闇で一人つぶやく。
生贄候補は5人いた。努と梶と三人の村人だ。怪我をしているとはいえ梶は奥原に気に入られているから候補から外されるだろう。残るは三人の村人だが、二人はこの村出身で一人は10年ほど前にこの村に迷い込んだ。
その辺を利用してなんとかすれば助かる方法があったのだろうか? 例えばこの村出身の二人に取り入って外来の一人に生贄を押しつける。
あるいは外来の一人と協力して村出身のどちらかを……。梶も入れれば村出身と外来は2対3で数の有利がある。そうだ外来者で協力して……。
そんなことをグジグジと考える。考える時間はいくらでもあった。
コメント
1件
第41話、読ませていただきました…。もう、胸が締め付けられるような回でしたね。暗闇の中でのクギの描写が本当に生々しくて、努くんの恐怖が手に取るように伝わってきました。そしてちぃこちゃんの登場…一瞬「助けてくれるのか」と思ったのに、あの「無理だよ?」の即答と、慰めようとして全く違う角度から触れてくる不気味さ。幼い見た目とのギャップで、背筋がぞっとしました。最後の「考えろ」と自分に言い聞かせるシーンで、ようやく努くんが動き出すのかな…と少し希望も感じました。物語の先が気になりすぎます…!