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あたしは沢田舞架。春から女子大生になる。大学生になったら、どうしても実家を出て独り暮らしをしたかった。だけど、家はあんまり裕福じゃないから、親には反対された。
だからがんばって安いアパートを見つけてきた。あんまり部屋はきれいじゃないし、場所も不便だし、古いけれど、セパレートのお風呂付なのにかなり安い。ここで頑張るから、と言って両親を説得した。
「うわー……」
目の前にあるのは、思った以上にボロボロの建物だった。本当にこんなところでいいのかなぁ? 不安だなぁ。だけど仕方ない。あたしが自分で決めたことだもんね。えいっ! と気合いを入れて中に入った。
「……あれ?」
誰もいない。まだ管理人さんは来ていないみたいだ。とりあえず、自分の部屋に荷物を運ぼう。それから、隣の部屋にも挨拶しておかないと……。でも、ちょっと薄気味悪いんだよね。この部屋の住人ってどんなひとだろう。まさか幽霊とか出ないよね!?…………えっと。どうしよう。まずは隣りの部屋に行ってみたんだけど、ノックしても返事がない。留守なのかなぁ? 困ったなぁ。もう一度だけ叩いてみようかと思ったとき―――。
ガチャッ。扉の鍵が開く音がした。中から出てきたのはお婆さんだった。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
よかった。やっと会えたよ。
「あのぉ、今日からここに引っ越してきたんですけど……よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げた。すると、お婆さんが言った。
「あらまあ。そう、あの部屋にねぇ」
なんだか意味深な言い方だ。
「あのぅ、どうかしましたか?」
訊くとお婆さんが答えてくれた。
「いえね、あなたの部屋、出るんですよ。妖怪が」
「妖怪ですか!?」
びっくりしてしまった。妖怪? 幽霊や事故物件、とかじゃなくて? 妖怪ってどういうことなんだろう。
「あなた、妖怪見たことある?」
「え?……いえ、ありませんけど……」
「じゃあ信じてないでしょう」
そりゃそうだ。いきなりそんなことを言われても信じられない。
「いいですよ。住んでいれば、いずれわかることですから……」
そういってお婆さんは扉を閉めた。うーん、妖怪? なんだか信じられないな。もしかして、お婆さんの方が、ちょっとぼけちゃってるんじゃないのかしら? ……なんて失礼なことを考えてしまった。
まあいいや。そんなことより、荷物を片付けないと。まずは掃除をして、それから部屋のレイアウトを考えよう。この扉は……お風呂場か。
そこには大きな鏡があった。少し汚いけれど、これなら十分使える。……と思っていたら鏡の奥にぼんやりとした影が見えた。えっ!? 何これ? 怖くて悲鳴をあげそうになった。でも我慢する。
よく見るとそれは浴槽の中に光の加減で出来たただの影だった。妖怪、なんて話を聞いたから、臆病になっているのかも。落ち着いて考えれば、何もおかしいところはない。それにここはお風呂場なのだから、湯船があるのは当たり前だ。うん、きっとそうだ。気にしない気にしない!
次に洗面所を見た。洗濯機があって、水道もある。それから台所へ行ってみた。そこは六畳くらいの広さで、小さな流し台があり、コンロもついていた。そして一番奥には窓もあった。外を見ると、すぐ隣りは空き地になっていた。その向こうは道路だ。
「ふうー」
一通り見終わって安心した。当たり前だけど、おかしなものは何もない。さあ、片づけるぞ!まずは持ってきた荷物を開けて整理することにした。洋服箪笥の中にあった服を取り出してクローゼットに入れる。机の上には教科書を置いた。あとは本棚が必要だ。ベッドには布団を敷こう。これでよし。次は……お風呂場の掃除だ。シャワーを使って床を洗い流していく。それからついでにお風呂のお湯を溜め始めた。掃除ですっかり汗をかいたので、ついでにきれいにしてしまおうと思ったのだ。
部屋があらかた片づくころには、お湯は十分溜まっていた。
「よいしょっと」
服を脱いで裸になる。それから浴室に入って座った。蛇口を捻ると温かいお湯が出てくる。気持ちいい~。疲れた身体にはこれが最高だよねぇ! しばらく温まっていると、だんだん眠くなってきた。思わずうとうとしていると……――ガタンッ!という音で目が覚めた。えっ、何の音? 慌てて辺りを見回す。だけど誰もいないし何もない。気のせいかな? そう思って再び目を閉じた。するとまた音が聞こえた。今度はもっと大きかった。
ガタンガタンッ!!
「きゃあああっ!!」(続く)