テラーノベル
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「……あ、あの、本当にこれで私の『ストーカー』がいなくなるんでしょうか……?」烏丸神社の社務所で、青ざめた顔でスマホを握りしめているのは、今をときめく超人気配信者の女の子・ルカだった。
「ご安心ください、ルカさん。うちの神主(クズ)は金さえ積めば、どんな泥仕事でもやりますから」
「こらコマ、依頼人の前で身内のリアルな属性を暴露するな。……えー、ルカさん。お祓い代25万、それに『ガチ恋結界スマホケース』のオプション付きで、契約成立ということで」
蓮はいつものビジネススマイルで電卓を引っ込める。
彼がルカのスマホに目を凝らすと、画面の周りには、ピンク色と黒色が混ざり合った、ドロドロとしたヘドロのような怪異がへばりついていた。それはただの悪意ではない。歪んだ「愛着」と「執着」が混ざり合った、最も厄介なネットの穢れ――『ガチ恋の生霊』だ。
ヘドロからは無数の「ハートの形をした目」がパチパチと開き、ルカを四六時中監視するように見つめていた。
『ルカちゃんは僕だけのもの』『なんで他の男のコメント読んだの?』『裏切ったら許さない』
「うわぁ……」と、蓮は露骨に嫌そうな顔をする。
「純粋な悪意より、こういう『歪んだ好意』の方が匂いがキツいんだよな。部屋中が腐ったイチゴジャムみたいな激甘の生ゴミ臭で充満してやがる」
「おのれ、これは重症じゃな! 画面の向こうの男の執念が、完全に呪いとなって彼女を蝕んでおる!」
コマがもふもふの毛を逆立てて威嚇する。
その時、ルカのスマホの画面に「非通知」の着信が入った。
それと同時に、スマホの画面からドロドロのヘドロが溢れ出し、社務所の床に広がっていく。ヘドロは次第に人の形を形作り、巨大な「スマホ画面の顔を持つ化け物」へと変化した。
『ルカちゃァァァん!! どこにいるの!? 配信してよォォォ!!』
「キャーーー!?」
ルカが悲鳴を上げて蓮の後ろに隠れる。
「ひえええ! 執着の念が実体化したぞ!」
「チッ、配信のコメ欄から直接追ってきたか。ストーカーってのはどいつもこいつも距離感バグってやがんな!」
蓮はすぐさま神社のロゴ入りタッチペンを抜いた。
「コマ、荒療治だ! 神力をよこせ!」
「うむ! この無礼者め、神聖なる社務所で推し活(?)をするなァ!」
コマの体が激しく輝き、蓮のタッチペンに神聖な光が充満する。蓮はヘドロの触手を鮮やかに躱しながら、怪異の胸元にある「通知マーク」の形をしたコアを見定めた。
「他人に執着して自分の人生ドブに捨てる暇があるなら、うちに賽銭でも振り込みやがれ!」
蓮がタッチペンを大きく振りかざし、怪異のコアに向かって鋭く振り下ろす。
「――一括ミュート・現実直視(サイレント・ブロック)!!」
ズガァァァン!!!
光の刃が怪異を両断する。怪異は電子的なバグのノイズを上げながら、今度は「大量のハートマークの紙屑」へと姿を変え、床にパラパラと散っていった。
「……はぁ、消えた。これでルカさんの端末へのアクセスルートは完全に遮断した。もう二度と、あの生霊が実体化して現れることはないよ」
蓮がふぅと息を吐き、タッチペンを懐に収める。
ルカは信じられないといった様子で、すっかり静かになった自分のスマホを見つめ、それから大粒の涙を流して喜んだ。
「すごい……! ずっと感じてた嫌な視線が、本当に消えました……! ありがとうございます、神主さん!」
「いえいえ。あ、お支払いは一括で。あと、もしよろしければ、次回の配信で『烏丸神社のお守り、マジで効く』って宣伝しておいてください。投げ銭(スパチャ)の1割をうちに回してくれる設定でもいいですよ?」
「それはシステム的に無理です……」
ルカは苦笑いしつつも、きっちり現金を支払い、晴れやかな笑顔で帰っていった。
夜、社務所で蓮はホクホク顔でお札を数えていた。
「いやー、トップ配信者は羽振りが良くて助かるわ。これで今月の生活費と、来週発売の新作ゲームの限定版が買える」
「蓮、貴様というやつは……。まあ、ルカ殿の身の安全が守られたのは良いことだが、少しは神職としての徳を積むということを……」
そう言いながら、コマは自分の茶碗のドッグフード(ちょっと高級なやつ)を嬉しそうにカリカリと食べ進める。
「神主(オレ)が金を稼いで、神使(おまえ)が美味い飯を食う。これ以上のWin-Winな関係がどこにあるんだよ」
「ふん、詭弁を弄するなクズ神主。……しかし、あのストーカーの念、少しだけ拙者の口に入ったが……」
コマは思い出したように、ペッと舌を出した。
「激甘の腐ったジャムの味がして、ひどく胃もたれがするわい……。次はもっと、あっさりした『裏アカの愚痴』くらいの穢れにしてくれ」
「穢れの味に注文つけるなよ、贅沢な狛犬だな」
現代人の歪んだ愛を力技でシャットアウトし、烏丸神社の懐は今日も少しだけ温かくなるのだった。
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