テラーノベル
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小さい橋を越えて村に入ってすぐに村長の家がある。その家の前に村人らしき人が五人集まっていて奥原と話しをしている。努と梶に気づくと奥原と五人がやってきた。
不安になった努は梶を見た。梶はメガネをかけた目で男たちを鋭く睨んでいる。
「村の連中にも紹介してやろうと思っての」
奥原は笑顔を作っていたがその目が笑っていないことにすぐに気づいた。奥原の後ろにいるのは全員男で中年が二人と老人が三人だ。全員もんぺに半纏のような防寒着を羽織っている。
男達は挨拶もなく誰も笑っていない。ただ二人を値踏みするように見ているだけだ。
「ほう、それはそれは。出来れば村人全員に挨拶したいですね」
梶は不敵に答える。ただならぬ雰囲気に努はただ梶と奥原の顔を見比べることしか出来なかった。
「集会所として使っている大きい建物がある。そこにみなを集めよう」
そういって奥原は背を向ける。梶が奥原についていったので努も後を追った。
並んで歩く努と梶を挟むように中年の男が左右を歩く。老人の三人は努たちの後ろを塞ぐようについてきた。
集会所は奥原の家から少し歩いたところにあった。あの拷問屋敷がある広場の少し手前、道の右側に建っていた。
集会所は奥原の家に比べて倍以上の大きさがあった。木と土、そしてかやぶき屋根で作られている。クギらしき金具は所々に見えるがコンクリートやゴム部品だけでなく瓦もなかった。この村が外から隔離されているのなら瓦すら手に入らないのだろう。
集会所の中は板張りで、ここにも中央に囲炉裏があった。中年の一人が村人を集めに行って、もう一人が囲炉裏に火をおこしている。
三人の老人は努たちを逃がさないようにするためか入り口に立っていた。
「まあこっちに来て座って待つがいい」
村長の奥原が手招きをしたのは入り口から見て囲炉裏の反対側。一般人の努でも扉から遠い位置、つまり出口から遠い場所に案内されていると理解できた。
梶は表情を変えずに奥原に指定された場所に座った。不安だったが努も梶の隣に腰を下ろした。
村人を待つ間、誰もしゃべらなかったので努は手持ち無沙汰で室内を見渡した。集会所だからか生活感はなく、ホウキなど掃除道具と何が入っているかわからない大きな木の箱があるだけの寒々とした室内だった。
待つこと5分ほどで集会所の中に数人の村人が入ってきた。他の村人が集会所の前に集まるのに結局20分ほどかかった。
集会所の戸口から外を見ると笑顔もなく不安そうな村人に注目されて居心地が悪かったけど、梶はずっと表情に出さずに冷静な顔をしていたので努は内心すごいと感心していた。
「待たせたのう。体が悪くて動けない者以外はこれで全員じゃ」
奥原が話し始めるとヒソヒソと喋っていた村人達は一斉に口を閉じた。目で数えた限りでは集まった村人は40人くらいだった。ほとんどが中年と老人の男で女性は50~60代に見える4人がいるだけだ。
若者はもっと少ない。中学生くらいの男子が二人いるだけであとは若くても40歳前後の男が何人かいるだけだ。
そして違和感。最初の五人と呼び出してすぐに集会所に入ってきた五人の併せて10人は奥原のようにアンバランスなものもあったが、まだまともな格好をしている。
だが外にいる村人は中学生くらいの二人以外この寒い季節なのにすり切れて穴の空いたみすぼらしい服を着ていた。
「女が少ないな」
梶がポツリと言った。努も気になっていたことだ。
「こんな村じゃから女性には生き辛いのかもしれんのう……」
奥原の言葉はどこかウソっぽかったけど梶は何も言わなかったので努も黙っていた。
#怪異
イキリ火の玉
946
「そう言えば名前を聞いてなかったのう。そっちの若いのは長岡とか呼ばれておったか?」
何度か梶から呼ばれていたからだろう、奥原は努を見て訊いた。
「ああ、はい」
「で、そちらさんは?」
奥原と共に村人の視線が梶に集まる。黒いスーツにメガネをかけた梶の姿は一見するとエリートビジネスマンに見える。
「梶と言います。職業はヤクザ……と言ったほうがわかりやすいですかね?」
あまりにも丁寧に、あまりにもあっさりと言ったので努は思わず梶を二度見した。村人が息を飲んだのがわかる。ただ奥原に動じた様子はなかった。
「鋭い目をしておるからのう、かたぎじゃないとは思ったわ。それで、二人はどんな関係なんじゃ? 若いほうはヤクザには見えんが」
奥原と村人の目が努に向けられる。梶は……なにも答えない。努にゆだねられたのだ。
――考えろ。答えを間違えるな。考えろ。
努は自分に言い聞かせる。村人に助けを求めるか梶の味方をするか。
「あ……アルバイトで……いいお金の仕事があるからって……」
なんとか絞り出した答えは梶の側でも村人の側でもない、あくまで巻き込まれた第三者の立場だ。そして、どうやらそれは正解だったようで途端に村人の興味が努から消えていくのがわかる。再び視線は梶に注がれた。
「仲間は何人いるんじゃ?」
奥原の質問はなんてことないものに思えたが、すでに車のことや仲間がいることは村人に知られているということに気づく。
言葉通り隔絶された村への訪問者なのだから興味があるのは当然だが、どこか不自然だと思った。奥原の問いかけは興味からというより調査のように思えたからだ。
「まあ、何人かいますよ」
梶は曖昧に答える。こちらの人数や構成を知られたくないのだなと思った。奥原も梶も言葉こそ穏やかだがどちらも笑顔はない。
「この村だが」
梶が質問をしようとして少し眉をしかめた。その理由はすぐにわかった。車が近づいてきているのだ。
コメント
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このエピソード、すごく緊迫感がありましたね。村人たちが笑顔ひとつなく値踏みするように見てくる感じ、そして奥原さんの「目が笑っていない」という一文で、一気に不穏な空気が伝わってきました。梶さんがヤクザだと名乗った瞬間の空気の変化、よく描けていてゾクゾクしました。それに、女性が極端に少ないとか、みすぼらしい服装とか、小さな違和感が積み重なっていくのが巧みだなと。最後の車の音……これからどうなるのか、気になって仕方ないです。