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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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翌朝、どこか、沈痛な面持ちの使用人達は、調理場控え室で、オーツ麦を水で煮込んだポリッジを、すすっていた。


「ジョン、おかわりあるぞ?」


マクレガーが、声をかけるが、ジョンは顔をしかめたまま、


「あぁー、夕べの、ローストビーフに、マッシュポテト、最高だったなぁー!」


誰に言うわけでもなし、天井を見上げ呟いていた。


「なに言ってんだ!朝食と言えば、オートミールって、相場が決まってんだろう」


「でも、マクレガーさん、水膨れした粥じゃー、味気ないっすよ!」


「塩をかけるといいのよ」


リジーが、口出ししてくる。


だとよ、と、言いつつ、マクレガーは、ビートンを見た。


昨日の乱れ様は、どこへ。完全に執事の顔に戻っていた。


「なあ、ビートンよ」


マクレガーが、言いにくそうに、それでも、どこか興味津々と声をかける。


「……さあ、さっさと、朝食を済ませて!」


午前中の日課に取りかかれと、ビートンは皆を急かした。


そして、それに答えるかのように、玄関ドアが荒々しく叩かれた。


「来られましたね」


ビートンは、静かに立ち上がり、玄関へ向かった。


「マクレガーさん!」


「ああ、始まるぞ!」


「ねえ、何が、始まるの?お客様?お茶の用意はいいの?」


リジーだけは、相変わらずの返答だった。


訪ねて来たのは、ミドルトン卿。そして、手に、あのゴシップ紙を持って、なんだこれは!と、叫び散らすに違いない。


昨日の時点では、レジーナの中に、自己が目覚めていたが、あれは、酔っぱらっていた上でのこと。


果たして、今朝も、あの決意満々の態度は、残っているのだろうか。


マクレガーも、ジョンも、気を揉んでいた。


屋敷が、ミドルトン卿に取り入ったディブに乗っ取られるのか、今まで通り、水でかさ増しした、オートミールの朝食と、後は、くず野菜のスープとパン、という食事で、乗り気って行くのかが、決まるのだ。


皆は、当然、後者を望んでいる。身銭は、今まで切ってきた。そのうち、上等な顧客が付くと信じて。だから、苦行が続こうと今さら、どうこう言うつもりはない。しかし、仮に、ディブが居座ったなら……。すぐに、ここは、ごろつき達の溜まり場になるだろう。あの、妙ちくりんに仕組まれた、パーティーが、それを証明している。


マクレガーとジョンが、沸き上がる、一抹の不安を押さえつけていると、案の定、玄関ホールから、ミドルトン卿の上擦った声が流れて来た。


ビートン、ビートン、と、かなりの剣幕で、それを、ビートンは、執事らしく軽くいなしている。


マクレガーも、ジョンも、裏方の人間である以上、どうしようもない。ここで、じっと耐えるしかないのだが、ただ、一人、


「お客様だわ。客間の埃を取り払わないと!」


焦りながら、壁に吊るしてある羽箒をひったくり、リジーが駆け出して行った。


「マクレガーさん!」


「ジョン、リジーは、ビートンより前には出ない。奥の間の掃除に行っただけだ、何も起こりゃしないさ」


とは言うものの、気になる二人は、つい、控え室のドアから、首を付き出して、玄関ホールの様子を伺うのだった。


「ミドルトン卿、あまり、興奮なさらずに」


ビートンの、最後通告とばかりの、卿への押さえ込みが始まっている。


後は、存じ上げません、の、一点張りで、ビートンも逃げ通すはず。


マクレガーと、ジョンは、ハラハラしながらも、耳をそば立てていた。


すると、

「全く、騒がしいこと!」


レジーナの声がした。


よし!と、マクレガーと、ジョンは、お出ましになったとばかりに、ニタリと笑った。


「レジーナ!これは!」


「そう、まったく、兄妹《きょうだい》揃って、大恥をかくところでしたわ」


レジーナは、落ち着き払って、卿へ言い、そして、ビートンへ、部屋から鞄を運んで来るように言いつける。


「その間に、私が、ディブの不誠実な行動を兄に説明しておきます」


はい、それは、と、ビートンも、レジーナへ返事をしつつ、鞄とは、どうゆうことかと問いただした。


「たってきの、荷造りは終えてます。兄と共に、本宅へ戻ります」


レジーナは、ロンドンを去ると言った。


「いや、おい!」


「マクレガーさん!じゃー、この屋敷、どうなるんすかっ?!」


控え室では、レジーナの言葉に、マクレガーもジョンも、肩透かしどころかの衝撃を受けている。


やっぱり、お嬢さん育ちには、切盛りしようだの、自立しようなど、無理な話だったのか。


二人は、肩を落とし、控え室へ入ると、黙って片付けをし始めた。


そして、その思いはビートンも、同様で、レジーナの言いつけを聞きながらも、呆然と立ち尽くしている。


「ビートン、部屋から鞄を下ろして来てちょうだい」


レジーナの催促にビートンは、はっとしつつも、どこか、やるせない表情を浮かべ、ブルーの瞳は、どうしようもない程、揺れに揺れた。

レジーナ嬢の憂鬱

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