キィ‥‥キィィ‥‥
高くまで漕いだブランコからは錆びた金属の音が響く
もうすぐ夕日が沈み、闇夜が訪れる
友達はみんな家に帰った
誰もいない公園
かじかんだ手は赤くなっている
「もう‥‥帰っても良いかな」
ブランコを止めてベンチに座った
帰るか迷っていると辺りがどんどん暗くなる
冬の夕方は駆け足で過ぎて行く
「よっ!」
「あ、お兄ちゃん‥‥」
ベンチに腰を掛けながら俺の頭をポンポンと撫でる
お兄ちゃんと呼んではいるが、俺の兄なんかではない
「ほら、これやるよ。どうせ今日も食べてないんだろ?」
「俺‥‥お腹空いてないよ 」
「でも食べな?」
「うん‥‥ありがとう」
コンビニで買ったであろう鮭のおにぎりと温かいコーンポタージュの缶
お兄ちゃんはここに居る俺を見つけては、おにぎりとコンポタを買ってくれた
名前も何処に住んでるのかも知らないお兄ちゃん
「今日はすぐに帰れそうか?」
「わかんない。でも帰ってみる」
「そうだな‥‥俺達‥‥大変だな」
「‥‥‥‥?お兄ちゃん大変なの?」
「‥‥いや、大丈夫だよ」
「ふーん‥‥俺も別に大変じゃないよ」
「‥‥‥‥でも、もしお前が必要なら‥‥お前を助けられる場所に連れてってあげるよ?」
ここじゃない、別の場所?
でも俺はここしか知らない
きっと何処に行ったって変わらない
俺はお兄ちゃんの言葉に小さく横に首を振った
「こんなお前‥‥残して行くのが不安だな」
「‥‥え、どっか行っちゃうの?」
どのくらい経つんだろう
ここで会うだけの関係
お兄ちゃんの側は居心地が良かった
だから‥‥‥‥大好きだった
俺の隣で立ち上がるお兄ちゃん
二度と会えないと思うと、勝手にお兄ちゃんの腕の裾を掴んでいた
「なんでだろう‥‥お前の事がこんなに気になるなんて‥‥」
「もう来ないの?」
「そうかも。お前の事、連れてってあげたいのに‥‥俺には何もない」
「‥‥わかんないよ。どういう事?」
「‥‥‥‥‥‥」
何も言わずに優しく微笑む
自分で着けていた手袋を俺にはめてくれる
そして何度も頭を撫でてくれた
あぁ‥‥
この人も俺の側からいなくなるんだ
何を望んでいたんだろう
俺は俯きながら立ち上がり、公園の出口へ歩き出す
「‥‥おい」
「‥‥‥‥‥‥」
振り向く前に笑顔を作る
「もしも‥‥大きくなって会えたらおにぎりのお返しするから‥‥‥‥バイバイ」
「え?あ、おいっ!‥‥」
走り出す視界にチラチラと雪が舞い落ちる
雪は嫌いだ
雪が降るとみんな俺からいなくなる
だからいらない
何もいらない
最初から持ってなければ失うことはないから
そう思いながらギュッと手袋を握りしめた
.
コメント
2件
どうなるか気になる(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク