テラーノベル
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静まり返った部屋に、2人の重なり合う荒い呼吸だけが響いている。
春菜に覆いかぶさった佐久間が、肩で大きく息を吐き出した。
まだ熱の冷めない眼差しで、春菜の顔をじっと見下ろしている。
「……はる、な? だいじょうぶ?」
掠れた声で気遣う佐久間の引き締まった胸元から、熱を帯びた汗の雫が、春菜の鎖骨へとポタリと滴り落ちた。
春菜は、まだ行為の余韻から抜け出せず、頭の芯がふわふわとして意識も虚ろなまま、小さく身体を痙攣させている。
「……あっ……ぅあっ、んっ……」
「……春菜? おい、大丈夫か……?」
春菜の様子に、佐久間が少し焦ったような表情をする。
佐久間は彼女の負担を減らすように、重なり合っていた熱を、そこからずるりと、ゆっくり離していく。
「んぁあっ……んぅっ……!!」
何かが抜けていく感覚に、春菜がゾクゾクッと全身を身震いさせると、佐久間はシーツへと身体を沈め、壊れ物を扱うようにそっと抱き寄せた。
「……ごめん、俺、全然止まれなくて……無理させちゃった……」
力の入らない春菜の身体をぎゅっと抱きしめ、優しい手つきで何度も彼女の背中を撫でてくれる。
その温もりに包まれているうちに、激しかった痙攣も荒い呼吸も、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「……だ……い、す……け……」
「うん……ここにいるよ」
「……ありがとう……」
重だるい腕をなんとか持ち上げて彼の背中に回し、ぎゅっと抱きしめると、佐久間はさらに愛おしそうに力を込めた。
「……春菜も、ありがとう」
彼のその温かい声を聞いた瞬間。
「……っ、……ふ……ぅっ……!」
堪えきれず、春菜の目元から涙が溢れてシーツを濡らした。
「は、春菜!? 大丈夫!? 体、痛い? 辛い……?」
佐久間が焦ったように身体を少し離し、春菜の顔を覗き込む。
「……っ、違うの、そうじゃ、なくて……」
春菜は恥ずかしくて、佐久間の胸に再び顔を埋めた。
「私、こんな……幸せで、いいのかなって……」
あまりの幸福感に胸が苦しくなった春菜の言葉に、佐久間は一瞬目を見開いた。
そして、愛おしさに満ちた顔で彼女の頬を両手で優しく包み込み、ゆっくりと額を合わせる。
「……俺も。俺も幸せ」
佐久間の睫毛が濡れ、その頬に一筋の涙が流れた。
お互いの距離があまりに近くて、彼の頬から滴り落ちた涙が、春菜の涙で濡れる頬へと落ちて、交ざり合っていく。
「ありがとう、春菜。俺に出会ってくれて。俺の恋人になってくれて。俺を愛してくれて、ありがとう」
囁くような言葉のあと、唇に優しく、深いキスが落とされた。
お互いの涙の味がする、けれど世界で一番甘いキス。
唇が離れると、2人は自然と目を合わせ、泣きながらお互いに笑い合っていた。
それから、ベッドの上でしばらく抱き合って静かな余韻を味わった後。
佐久間が春菜の髪を優しく整えながら言った。
「風呂入ろうか」
「うん」
「……一緒に入る?」
「そっ……、れは、まだ、ちょっと……っ」
春菜の答えに、佐久間は「ははっ、じゃあお先にどうぞ」と楽しそうに笑って、シーツから身を起こした。
「ありがとう、じゃあお先に……っ、え」
ベッドから出ようとした瞬間、春菜の身体がピキッと固まった。
「うん? どうした?」
「……あ、あの……た……立てない……」
腰から下に全く力が入らず、生まれたての小鹿のようにベッドの上で固まって焦る春菜。
その様子を見た佐久間は、片手で顔を覆いながら、「あー……」と低く呟いた。
「ごめん、俺のせいだわ……」
「え?」
「やっぱり、無理させちゃったみたいだね」
くっくっ、と笑いを噛み殺しながら、困ったような、それでいてどうしようもなく可愛らしいものを見つめるような表情で言葉を紡ぐ。
春菜はきょとんとした後、その言葉の意味を理解した途端、顔を爆発しそうなほど真っ赤に染めた。
「なっ…そっ…!~~~っっ!!」
ぱくぱくと、声にならない言葉が口をつく。
「~……っ!! やばい、可愛い……!!」
佐久間は顔を覆っていた手を下ろし、ニヤつく顔を隠しきれない。
「だっ……大介のせいじゃん!」
「ごめん……! でも、俺のせいでそうなってると思ったら余計に……っ!」
佐久間は嬉しそうに声を弾ませ、ニコニコと悪戯っぽく笑っている。
「~っ! 初めてだったんだから、仕方ないじゃん! ってか、大介も初めてだったんじゃないの!? なんでそんな上手くて余裕あってかっこい……」
恥ずかしさのあまり思わず大声で叫んだものの、途中でとんでもない口滑らせに気がついて、春菜はとっさに口を塞いだ。
しかし、時すでに遅し。佐久間の口角がニヤッと跳ね上がる。
「……へぇ? 俺、上手くて余裕あってかっこよかったんだ?」
「~~っ! 知らないっ!!」
春菜のうろたえぶりに、佐久間は「あっはっは!」と大爆笑した。
そして、春菜の手首をグイッと引いてベッドに引き寄せると、自身の胸に彼女の耳をぴったりと押し付けた。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――。
耳元で、信じられないほどの早さで、激しく脈打つ佐久間の心臓の音が聞こえてくる。
「……俺、ずっとこんなんだから」
驚いて顔を上げると、佐久間はほんのり顔を赤くしながら、照れたように笑っていた。
「……カッコつけるのだけは、得意だからね」
「大介……」
「まぁ、上手いと言ってくれたのは嬉しかった」
「あっ……あの……!」
「気持ちよかったってこt」
「あー! もう黙って……!!」
両手で佐久間の口を塞ぐと、彼は春菜の手の下でケラケラと嬉しそうに笑った。
その瞳には、彼女への愛おしさがこれでもかと溢れている。
「じゃー、一緒に風呂入るかー」
「え?! なんでそうなるの!?」
「だって、春菜、立てないから俺が運んで連れていくしかないじゃん」
「お風呂まで運んでくれたらそれで……っ!」
「だーめ。溺れたら大変でしょ」
佐久間は春菜の抗議をさらりと受け流すと、彼女の身体の下に腕を滑り込ませ、ひょいっと軽々とお姫様抱っこで抱え上げた。
「はーい、諦めて一緒に入るよー」
「もぉぉぉ……!」
彼の首に腕を回し、顔を真っ赤にして胸に顔を埋める春菜。
佐久間はそんな春菜を愛おしそうに腕の中にしっかりと抱き締め、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、湯気の立ち上るバスルームへと歩き進めるのだった。
コメント
1件
ああ、もう…読んでてこっちまで泣きそうになりました。行為後の余韻から、互いの涙が交じり合うシーン、最後のコミカルなやりとりまで、感情の流れがすごく自然で丁寧に描かれているなあと。「俺も幸せ」って言葉に、春菜の不安がほどけていく感じが伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。二人のラブラブな空気感がたまらないです。るるさん、素敵なエピソードをありがとうございます。
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