テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
昼休み。
俺はいつものように、机に突っ伏して寝ていた。
昼飯を食べた後は眠くなる。
それだけ。
別にサボってるわけじゃない。
桃「……いるま、また寝てんの?」
聞き慣れた声がして、薄く目を開ける。
顔を上げなくても誰だかわかる。
らん。
紫「別にいいだろ。昼休みなんだから」
桃「そういう問題じゃないでしょ。午後、体育あるじゃん」
紫「知ってる」
桃「じゃあ起きろよ」
紫「やだ」
そう返すと、桃が小さくため息をついた。
……ほんと、こいつは真面目だな。
俺なんか放っておけばいいのに。
それなのに、わざわざ俺のところまで来て起こそうとしてくる。
桃「……ほんっと自由だな、お前」
呆れたような声。
なんとなく顔を上げる。
目の前にいる桃と目が合った。
……近い。
こいつ、こんな顔してたっけ。
少し困ったような顔。
でも、俺のことを本気で心配してるのがわかる。
なんとなく、もう少し見ていたくなった。
紫「らん」
桃「……なに」
名前を呼んだだけなのに、桃が少し警戒したように俺を見る。
紫「お前、俺のこと気にしすぎじゃね?」
桃「はぁ!?」
一気に顔が赤くなる。
……わかりやす。
桃「そ、そんなんじゃないし! ただ寝てたら先生に怒られるだろって思っただけ!」
紫「ふーん」
桃「なに、その顔!」
紫「別に」
思わず笑ってしまう。
なんだろう。
こいつ、からかうと面白い。
紫「……かわい」
桃「は?」
しまった。
口に出てた。
紫「なんでもない」
桃「絶対なんか言っただろ!」
紫「言ってない」
桃「言った!」
騒ぐ桃を見て、また笑う。
そのとき、少し離れたところから赤が声をかけてきた。
赤「お前ら、昼休みから仲良いな」
紫桃「「仲良くない!」」
……見事に声が重なった。
俺と桃で顔を見合わせる。
桃「……こいつと一緒にすんなよ」
桃がぷいっと顔を逸らした。
その横顔を見ながら、俺はまた笑っていた。
*
放課後。
11
680
教室を出ようとしたところで、窓の外を見る。
雨。
桃「……最悪」
声が聞こえて、振り返る。
桃が窓のところに立っていた。
どうやら傘を持ってきてないらしい。
……あいつ、雨の日に傘忘れるとか。
紫「らん」
桃「……いるま?」
俺が声をかけると、桃が振り返った。
紫「帰んねぇの?」
桃「雨降ってきたから……」
紫「傘は?」
桃「ない」
やっぱり。
俺は赤から借りていた傘を鞄から出す。
本当なら、一人で帰ればいい。
なのに、
紫「じゃあ一緒に帰る?」
自分でも、なんでそんなことを言ったのかわからなかった。
桃「……え?」
紫「俺、傘あるから」
桃「いや、いいよ。俺、雨弱くなるまで待つし」
紫「いつ弱くなるかわかんねぇだろ」
桃「でも……」
紫「ほら」
紫は桃の腕を掴んで玄関まで歩く。
桃「ちょっといるま、なにすんの」
紫「うるせぇ、ほら」
紫が傘を開く。
紫「入れよ」
桃は少し迷ってから、俺の隣に入ってきた。
桃「……お邪魔します」
紫「なんだよ、それ」
桃「だっているまの傘だし」
紫「別に俺のじゃねぇ」
桃「じゃあ誰の?」
紫「なつの」
桃「まさか、とったの?」
紫「違う、快く貸してくれたの」
桃「…なっちゃん可哀想」
紫「大丈夫だよ、あいつはあいつでこさめと帰ってっから」
桃「えっこさめ!?うらやましぃ……」
……なんだよ。
こいつ、そんなに瑞と帰りたかったのか。
……まあ、どうでもいいけど。
そんなことを考えながら歩く。
ふと横を見る。
桃がいる。
いつもより近い。
傘が狭いせいで、肩が触れそうな距離。
なんとなく意識してしまって、俺は前を見る。
……なんだこれ。
別に、桃と帰るだけだろ。
なのに妙に落ち着かない。
すると、桃が少し俺から離れた。
桃「……」
そっちに行くと濡れる。
紫「……らん」
桃「なに?」
紫「そっち行くと濡れる」
桃「え?」
俺は傘を桃のほうへ傾けた。
紫「もっとこっち」
桃「……でもいるまが濡れるじゃん」
紫「俺はいい」
桃「よくないだろ」
紫「じゃあ近づけよ」
言った瞬間。
桃が固まった。
桃「……っ//」
……顔、赤。
少しして、桃が俺の隣に戻ってくる。
桃「これでいい?//」
紫「ん」
近い。
さっきよりずっと。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ――
このままでいい気がした。
*
しばらく無言で歩く。
雨の音だけが聞こえる。
なんとなく、この時間が終わってほしくないと思った。
……なんでだろう。
紫「なぁ、らん」
桃「なに?」
紫「俺らってさ」
桃「うん」
紫「いつからこんな普通に一緒に帰るようになった?」
桃「……知らないよ」
桃が小さく笑う。
その笑顔を見て、胸の奥が少しだけ変な感じになった。
俺は誤魔化すように笑った。
紫「だよな」
それだけ言う。
でも、頭の中では別のことを考えていた。
――明日も、こいつと帰れたらいいな。
そんなことを思ってしまった自分に、少し驚く。
まだ、この気持ちが恋だなんて。
俺は知らなかった。
ただ、
なんとなく、
桃のことが、気になっていた。
コメント
1件
キュン❤️続き楽しみです!