テラーノベル
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仕事が終わった。
店のシャッターが半分閉まる。
「おつかれー」
「おつかれ」
同僚の声を聞きながら、俺はさっさとサンバイザーを被り直す。
頭の中はもう一つだけ。
ネクタイ。
昼間ずっと落ち着かなかった。
ピザ作りながらも。
配達しながらも。
ずっと思ってた。
「今引きたい」
バイクに乗る。
エンジンをかける。
夜風が少し冷たい。
でもなんか、妙に楽しみで。
アクセルを回す。
チャンスの家の前。
バイクを止める。
ヘルメットを外す。
金髪が肩に落ちる。
深呼吸。
……なんで緊張してんだ俺。
ドアをノック。
数秒。
ガチャ。
ドアが開く。
チャンス。
黒ジャケット。
白シャツ。
黒ネクタイ。
サングラス。
その瞬間。
あ、これだ。
昼間ずっと足りなかったやつ。
チャンスが少し眉を上げる。
「早いな」
俺は一歩近づく。
言葉より先に手が動く。
ネクタイをつまむ。
くい。
チャンスの体が前に傾く。
距離が一気に近くなる。
昼間ずっと空振りしてた感覚。
ちゃんとある。
俺は思わず笑う。
「……落ち着いた」
チャンスが小さくため息。
「何だそれ」
でも逃げない。
俺はネクタイをもう一回引く。
くい。
顔がかなり近い。
チャンスの声が低くなる。
「エリオット」
「昼間さ」
俺はネクタイを指に巻く。
「ずっとこれやりたかった」
数秒。
沈黙。
チャンスの口元が少しだけ笑う。
「重症だな」
「うん」
俺はネクタイを離さない。
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