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ネクタイを引いたまま。
玄関の距離。
チャンスの顔が近い。
昼間ずっと思ってた感覚がやっと戻ってきて、俺はちょっと満足する。
……でも。
ふと気付く。
一日中これ考えてた。
ピザ焼いてる時も。
配達してる時も。
バイク乗ってる時も。
ずっと。
ネクタイ。
ネクタイ。
ネクタイ。
……。
それってなんか。
悔しい。
俺はネクタイを指に巻いたまま、チャンスを見る。
「ねえ」
チャンスが低い声で返す。
「何だ」
俺は少し笑う。
わざと。
ちょっと意地悪に。
「俺さ」
くい。
ネクタイを軽く引く。
チャンスの体がまた少し前に来る。
「今日一日さ」
「……ああ」
「ずっとこれ引きたかった」
チャンスは何も言わない。
俺は肩をすくめる。
「仕事中も」
くい。
「配達中も」
くい。
「ずっと思ってた」
チャンスの眉が少し動く。
「今ネクタイ引きたいって」
数秒。
沈黙。
俺はわざと笑う。
「どう思う?」
チャンスは低く言う。
「知らん」
俺は近づく。
ネクタイをぐっと引く。
くい。
顔がかなり近い。
「つまりさ」
俺は小さく言う。
「チャンスのせいで集中できなかった」
チャンスが少し目を細める。
「責任取って」
俺はネクタイをまた引く。
くい。
「しばらくここにいさせて」
わざと軽く言う。
完全に煽ってる。
チャンスは数秒黙る。
そのあと。
低く笑う。
「……お前」
一歩前に出る。
今度は距離が逆に縮まる。
玄関の壁がすぐ後ろ。
俺はネクタイを握ったまま。
チャンスの声が近くで落ちる。
「煽ってるだろ」
俺は笑う。
「バレた?」