「永瀬さん……」
唐突に呼びかけられ、会話の切っ掛けを見つけられないまま手持ち無沙汰にスプーンでくるくると掻き回し続けていたカップから、私は「はい…」と顔を上げた。
「……あなたには、初めは興味があっただけでした……。……私を避けるのならと、興味本位で誘惑をして、落としてしまいたいと思っていました……」
ソーサーからカップを持ち上げた彼が、湯気を散らすようにふーっと息を吹きかけた。
「落ちてしまえば、いくら初めは避けるような素振りを見せようとも、あなたも他の誰とも変わらないのだと、そう自分にも納得が付けられるようで……けれど、あなたは容易には落ちなくて、ただ責めるようなことしかできずに、私は……」
コーヒーの一口を含んで、
「……自信を、失くしていたんです。……私に落ちない女性などいなかったので、もう本当にあれで終わりにしてもいいかと、そう思っていました……」
彼は、ついぞ明かしたことのない心の内を、私にポツポツと語った。
コメント
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素直な気持ちを話せるのはいい事だよね。 本心を知ってもらって😊