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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「いやー。恩恵が形になるとこんな美しい花なんだな。やっぱ実物が一番綺麗だ」

僕が花屋で感じていた事を、同じ言葉で表現する彼。

それは家族のような、言葉が似通っていく友人のようなものだった。


「貴方が奇跡の色を秘めた花だと教えてくれてから、ずっとこの花を探していました」

僕とおじさんの間に咲き誇るブルーローズ。

「そうだな、この色は奇跡だ。自然界だけではこの色は生まれなかった」

彼のブルートパーズ色の瞳。

青い薔薇の生き写しのように見える。

彼は花を見つめたまま、色んな思いが交差しているようだった。

嬉しいとも驚きにも似つかない表情で。

「今日は父の日ですから。貴方にこれを渡したかった」

僕の言葉を聞いて、思いを噛み締めるようだった。

「あぁ…嬉しいよ。うん…それはほんとに…言葉にならないくらいだね」

彼はブルーローズの一つ一つの花弁に触れながら、確かめるように見ていた。

「花好きとは知りながらも中々渡す機会がなかったものですから。今回渡せて良かったです」

僕はプーアル茶を飲み干すと全身がじんわりと温かくなっていることに気付いた。

それは身体だけでなく、心にも満たすものだった。

彼は全てのブルーローズに触れ終えると、僅かながらに微笑んだ。

「大切にするよ。クインテッドからの贈り物なんだ」

自分に言い聞かせるように、おじさんは言う。

「いやー…困ったな。花を好きでいて良かったと今の間に何度思ったことか…」

彼は静かな幸せを感じているようだった。

それが僕には嬉しかった。


おじさんが戻ってきてから一週間もしない頃。

「あぁ、俺は今日遅いからな。先にメシ食べてていいぞ」

朝出かける前におじさんはそう言った。

僕は十七時を過ぎた頃。

ようやく自分のご飯に手をつけた。

一人で食べるのは、今に始まったことではなかった。

けれど食卓の一人分の空間が、寂しく感じる。

「一人で寂しい…か…」

おじさんの出張はついこの間だった。

数週間ぶりの再開に至るまで、今と同じような寂しさに苦しんでいた。

でもそれは、一週間も経たないうちに忘れていたはず。

「寂しさを思い出すには数日もかからないって事ですか…」

僕の正面には、いつも彼が座っているはずの机。

その背後を飾る書斎は、あまりにも静かで温度を感じられない。

部屋全体をくまなく一周する頃。

視線が彼を探している事に気付いた。

僕は食器を片付け 意味もなく、窓際の傍に立つ。

漆黒のカーテンから薄ら光がぼやけている。

外からの街灯だろうか。

僕は闇の下、ベールのようなレースカーテンをめくる。

しかし、光はぼやけたままだった。

やけに明るいそれは、窓に貼り付けられた目隠しシートで隠されていた。

まるで正体を伏せるように。

「ただ明るいだけか…」

僕は目を閉じ、その明かりに身を委ねていた。

一人きりの世界で特別何かが起こる事はない。

寂しい時間は、ただ寂しいまま。

窓の向こうの光が希望に見えたって、

幻影かどうか判別することも出来ない。

僕にはおじさんと過ごせる平和があればいい。

情報屋として身を隠す生活になろうが、関係ない。

大切だと思う人の傍にいるということは、

そういうことだ。

窓からの冷気が僕を包む。

漆黒と純白のカーテンが僕を隠すように、 被さる。

太陽のような光は、少しも温かくない。

夜に見える灯は、やはりただの街灯なのかもしれない。

僕はいつの間にか眠りについていた。

氷を抱きしめるような寒さに目を覚ます。

「っ…」

深い眠りに落ちたのか、瞼は酷く重かった。

霧にかかったような視界の中。

目に映る赤に染まる手。

冷えを感じなくなっていたそれは、霜焼けになっていた。

鉛のように言うことを聞かない身体を起こし、

窓の縁に背をかける。

「どうして…こんなにっ…眠いんだ…」

振り絞った声は、唐突にかき消された。

「おーいっ出てこい。早くしろっ」

扉を叩かれる音。

重く沈む音。

「聞いてんのかおらっ」

怒声とともに響いてくる振動。

誰かが扉を壊そうとしているようだ。

僕は脚に力を入れるが、神経が抜けてしまったように虚しかった。

氷ついた手を庇っていては立ち上がれない。

窓に爪を立てるように立ち上がる。

「おい、ホントにいるんだろうな。あ?」

扉を殴るような音がする。

または蹴りか。

朝露の降りた街を歩くような視界の中、

扉を破壊するような音はハッキリと聞こえていた。

「ドアを、覗きに…行きますか…」

僕は力の入らない脚を引きずり、玄関へ向かう。

意識ははっきりしていた。

ただ身体が上手く言う事を聞かない。

なぜなのか分からなかった。

玄関の扉は、この部屋に入って来るための出入口。

つまり声の主は、

BARのマスターの鋭い眼光を通り抜け、

薄暗の壁に引き返す事がなかった人物だ。

この場所を知っているのは、僕とおじさんだけのはず。

同じ情報屋でも人を入れた事は一度もない。

そもそもここを部屋だと訪れる人はいない。

それなのになぜ…。

思考はぐるぐると回転していた。

僕は机や椅子に手をかけながら、扉の目の前に来る。

扉の奥は不自然なほど静まり返っていた。

僕は今にも倒れてしまいそうな身体を、壁に持たれかけさせる。

一度倒れてしまったら、再び立ち上がる事は出来ないと思ったから。

その時、身体とぶつかった衝撃が音をならしてしまったのだと気付く。

「おい、やっぱいるんじゃないか。さっさと開けろ」

目の前で扉が蹴られるような音が響く。

今にも扉が割れてしまうような振動が、

僕の心臓を揺らす。

朦朧としていた意識は、あっという間に消え去った。

それと同時に、

この場から逃げなければ

という恐怖心にかられる。

僕が引き返そうとした時。

「おーい、いるのかクインテッド?」

背後から聞こえてきたのは紛れもない

おじさんの声だった。

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