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「あーそういえば、クエストを見ておこうかな……」
人にぶつからないように注意を払いつつ、クエスト画面を開く。
受託可能なクエスト
*王城からの脱出!
楽勝ですね、頑張ってください。
*初めての異世界お泊まり。
お勧め宿マップを参照のこと。
*奴隷を買おう!
女性か両性じゃないと駄目ですよ?
*拠点を作ろう。
お勧め拠点マップを参照のこと。
*料理を作ろう。
新しいレシピで無双をしてもいいですよ。
「ん?」
*王城からの脱出! の項目が点滅している。
程なく下に書かれていた文字が変わった。
楽勝でしたね!
おめでとうございます。
*王城からの脱出! をクリアしました。
新しいクエストが発生しましたので、確認してみてください。
ついでに、お勧め優先順に並べ替えてみましたよ。
必ずしも順番を守る必要はないですが、効率良くクエストを発生させるのには、お勧め順の攻略が良いですよ。
「了解です」
自分にしか見えない画面に向かって、敬礼をしながら独り言。
夫には聞こえているだろう。
周囲の人間が無反応なのは、絶対防御が効いているのか、偽装が効いているのか。
どちらにしても、不用意に話しかけられないのは嬉しい。
受託可能なクエスト
*買い物をしてみよう!
偽装が効いているので、非常識な買い方をしても問題ありませんよ。
*初めての異世界お泊まり。
お勧め宿マップを参照のこと。
*偽名を考えましょう。
せっかくですので、覚えやすいこの世界用の名前をどうぞ。
今更ですが、本名の名乗りは不可ですよ。
*拠点を作ろう。
お勧め拠点マップを参照のこと。
*料理を作ろう。
新しいレシピで無双をしてもいいですよ。
*奴隷を買おう!
女性か両性じゃないと駄目ですよ?
確かに微妙に変化している。
「あー買い物ね。そういえば、喬人さんがいない買い物とか……初めてかも? 一人で買うときは基本通販だしねー」
城下は大変賑わっていた。
国が傾いている割に元気だねぇ、と思うも、爛熟期の末期に見られる最後の賑わいかな? とも考え直す。
「まぁ、王様が正気に戻ったら、ゆるゆると回復できるのかな?」
お馬鹿も多そうだったが、そうでない人がそれなりにいた気もする。
何よりリゼットさんがいるしね。
「王宮で美味しい物たーんと食べたから、お腹空いてないのよね。冒険者的に必要な物とか買おうかしらん?」
しかし、物がありすぎて何を購入していいかわからない。
用途が分からない物も多すぎた。
不審者扱いされても逃げるのは簡単だが、最低限の知識は必要だろう。
「あぁ、お勧めマップに買い物マップもあるかな?」
お勧めマップ一覧表示……と思念すれば、自分にしか見えない視界にマップ一覧が表示された。
「あ。あるあるお買い物マップ」
ハートマークのカーソルを目線だけで動かし、買い物マップの所まで移動させる。
「おー」
夫お手製のお勧めマップはやはり完璧だった。
「冒険者として必要な物をっと」
探している項目がピンスポットにあるので、カーソル移動。
「おー。瞬間移動もできるのね」
ゲームシステムの中で、いちいち面倒だなぁと思うカーソル移動。
RPG辺りをプレイしたことがある人なら、大半の人が思ったりするんじゃないだろうか。
念じるだけで希望の項目にカーソルが一瞬で移動するシステムはさすがに難しいだろうが、AI機能的に良く使うアイテムが優先表示されるなんていう機能がついていれば大変嬉しい。
戦闘シーンだけに必要じゃないと思うんですよね、お利巧さん機能。
*冒険者として必要な物一覧。
冒険者ギルドに行くと、初心者向けキットを無料配布しています。
登録するときにもらえますよ。
麻莉彩のことだから、損した気分になると思うので、明記しますね。
初心者向けキットに入っていない物でお勧めは以下の通りです。
*アイテムバッグ
女性向けの可愛いのが売っています。
リュックと肩掛け両方ともに購入がいいですね。
リュックに入手できた資材を、肩掛けには良く使うアイテムなどを入れておくと取り出しが楽かと。
指輪のカムフラージュですので、デザイン重視の安価なラインで大丈夫ですよ。
*保温庫&保冷庫
市販のアイテムバッグは状態維持の魔法効果がありません。
こちらもカムフラージュ用に、携帯用を持っておくと良いでしょう。
大きい物は拠点を得てから購入しましょうね。
*味付きポーション
初心者向けキットのポーションは美味しくありません。
リーベ(苺)味のレッドポーション、ダーソ(ソーダ)味のブルーポーション、フルグレ(グレープフルーツ)味のイエローポーションがお勧めですね。
ちなみに、初心者向けキットは下記の通りです。
一回きりしかもらえませんが、充実している方だと思いませんか?
*初心者向けキット
・浄化石 どんな水でも飲み水にできる。
一回一粒使用でコップ一杯分。
十粒入り。
・松明 一本一時間。
十本入り。
・火打ち石 二個。
一日数回使用程度なら半永久的に使える。
・燃料 かけることにより、見える範囲を広げることができる。
ただし、松明の寿命時間が半分となる。
五回分。
・ナイフ 解体&剥ぎ取り用。
丁寧に手入れをしても三ヶ月程度で買い替え推奨。
・傷薬 怪我をしたときに使う塗り薬。
・レッドポーション 100程度のHP回復 五本
・ブルーポーション 50程度のMP回復 五本
・イエローポーション 100程度のSP回復 五本
・黒パン 一週間が賞味期限。
時間が経過するほど硬くなる。
五個。
・欅の棒 初心者向け罠発見棒。
簡易な罠を発見できる。
「それじゃあ、まずはアイテムバッグから行こうかなぁ……」
点滅して場所を示してくれるハートマークに従って進む。
地図スキルは入手したので迷うこともない。
ありがたやー。
「すみません。見せてもらってもよろしいですか」
「勿論じゃとも」
心の中でガッツポーズをする。
店員さんは、立派な狼耳を持つ老女だった。
たくさん買ったら、おまけに耳をもふらせてくれるサービスがあるか、ちょっと真剣に聞いてみたい。
「あーどれも可愛い! 迷うなぁ……」
小さなテント内に並んでいる商品はどれも心擽る愛らしさがあった。
使い勝手も良さそうだ。
目に見えるポケット以外の収納も多い。
「……もしかして、そなたは時空制御師の御方に縁のある方ではないのかのぅ?」
何で分かったのか不安に思い答えるべきか迷うも、ここが夫お勧めのお店なのに思い至り、口を開く。
「時空制御師最愛の称号持ちです」
「! 最愛! おぉ! まさか本当に訪れてくださるとは思いませんでした!」
「もしかして、夫がそんな話をしていましたか?」
「御方には大変世話になったのじゃが、なかなかお礼をさせてくれぬからのぅ。狼族の誇りにかけて御礼を! とお願い申し上げたら、何時か来るだろう妻に便宜を図ってくれれば有り難いと、おっしゃったのじゃ」
「夫がこちらの世界へ来たのは何時ぐらいなのですか」
「そうじゃのぅ……百年は経っているかのぅ」
さすがは時空制御師。
きっと私の知らぬ間に訪れて、何かこうテンプレチートの、内政万歳的なあれこれを山のようにやって、私が来たときに不自由しないようにと万全を期したのだろう。
愛が時々重い。
とてもとてもとても嬉しいのだけれど。
同じ愛を返せているのだろうか、と存分に与えられるその都度、不安にはなる。
「……御方は元気でおられるのかの?」
「ええ。とても。元気で……幸せそうです」
「ほっほ。それは何よりじゃて。さて……品物の方じゃが……何か好みの物はあったかの?」
「それが……どれも好みで迷っているんです」
「じゃろうのぅ。この商品の基本的なデザインは御方の手じゃ」
「少しだけそんな気がしました」
「どうして、毎回そんなにも使い勝手が良く女性受けする品物が作れるのかと問うた返答が、妻が使うのを想定して作っていますよ! じゃった。愛されておるの」
「はい。時々同じ愛を返せているのか不安になるくらいには」
「ふおっほっほ! 若いのぅ。そなたが、そう思っているうちは、同じ愛を間違いなく返せているじゃろうて」
しわしわの顔が、更にしわくちゃになった。
幸せそのものといった表情だ。
酸いも甘いも噛み分けた末の、破顔。
そんな笑顔だった。
「御方が御自分用にと作られた品物を模して……作ったのがこれじゃ! 性能は遠く及ばぬが、我の渾身の作じゃが……どうかの?」
老女が奥から丁寧に折り畳まれていたバッグを出してくる。
バッグは二種類。
夫オススメの肩掛けバッグとリュックサックだ。
あちらのゴブラン織りが近い。
全体的に緻密な百合の刺繍が施されている。
ぱっと見の色はベージュ系だが、よくよく見ると様々な色糸で丁寧かつ複雑に織られているのが分かった。
ボタンにも全て百合の彫刻が施されている。
丁寧に作り込まれた一点物だ。
リュックも肩掛けも紐部分で調節できるようになっており、ポケットの縫い取りも糸の始末も完璧。
女性らしい小さめに感じるデザインの割に、かなりの容量を持つバッグだった。
「両方ともバッグの重さのみという重量軽減と、三ヶ月保存維持の魔法がかけてあるのが最大のオススメじゃな」
「……それって、凄い作りなのでは?」
「なに。有名な魔導師が偶然訪れた際に甚くデザインを気に入ってのぅ。自分の分を無償で作る代わりに、技術を提供してもらったのじゃ。ま。差別化のために、永久保存の付与は断られたのじゃがな」
「それでも初心者が持つ物ではありませんよね?」
「心配せんでもいい。御方の最愛であるなら、むしろ持っていた方が良いじゃろうて。恩恵に与ろうと高価な物を押し付けてくる無礼な輩は、残念じゃが多くいるだろうからの」
夫の手配が完璧なのは疑いもしないが、それでも想定外は存在する。
当面は夫のお勧めマップ以外では物は買わないと、一人誓った。
「幸い。我のバッグは高性能とそれなりに広く伝わっておる。その……恐らくは偽装されているのじゃろうが、付けているアクセサリーも高価なものじゃ。押し付けはそうそうないとは思うが、心積もりだけはしておくといい」
「分かりました。御助言、ありがとうございます」
「即時使うかの?」
「ええ。早速そうさせていただきます。あ! お幾らになりますか?」
リュックを背負ってから、肩掛けを斜め掛けにする。
老女の対応がすばらしかったせいか、気が緩んでしまったらしい。
せっかくの助言が台無しだ。
私は指輪の中からお金のぎっしり詰まっている小袋を取り出してしまった。
「……御方の最愛よ……」
「うううう。すみません。やらかしちゃいました」
「代金は御方への礼なので、いらぬ。ついでに財布もつけておこう。肩掛けのバッグに入れるといい」
「重ね重ね申し訳ありません。でも、お代は……」
「いらぬよ。どうしてもと言うのならば、名前を伺いたいの」
「名前、ですか……」
本名は止めておくように言われた。
それならば……。
「アリッサ、とお呼びください」
本名に何となく近い。
この世界で一般的にある名前とあまりかけ離れていない気もする。
「アリッサ殿、か。御方はこの世界を堪能されておられたようじゃ。アリッサ殿も、御方のように楽しく過ごされるが良い」
「ありがとうございます。迂闊は……注意します」
「早々に奴隷を手に入れた方がよろしかろう」
「夫からも言われております」
今の状況を見ているならばクエストの順位が変わっている気もする。
買い物クエストに加えて、偽名クエストもクリアしたことだし、速攻で確認してみよう。
「それでは、ありがとうございました。あ! お名前をお聞きしても?」
「名乗りは久しぶりじゃのう……純血の狼族エリス・バザルケットじゃ」
純血と付けるからには希少な存在なのだろう。
オタクとしてはいろいろと、いろいろと尋ねてみたいが、まだそこまで信頼関係は築けていない。
質問すれば気持ち良く答えてくれるのは分かっていたけれど、虎の威を借る狐にはなりたくないものだ。
「また買い物に来ますね!」
「買い物だけでなく、困り事があったら来ると良い。それなりの対処はできよう」
「ありがとうございます。迂闊を発動させてしまったときには、お世話になります」
「ふむ。それでは、再会は遠くなさそうじゃのう……」
呆れた口調にもかからず目が笑っている。
嫌な印象にならなかったのなら何よりだ。
もふもふのおねだりは次回以降としておこう。
軽く手を振ってエリスのそばを離れてから、クエストを確認する。
*買い物をしてみよう! をクリアしました。
*偽名を考えましょう。 をクリアしました。
新しいクエストが発生しましたので、確認してみてください。
……と言うか、麻莉彩。
狼族の老女と言う激萌な存在が相手だったからだとは思いますけど、迂闊ですよ?
やはり指摘された。
反省はしています。
でも後悔はしていませんよ!
悪印象は持たれなかったしね!
今度は輝くハートマークを確認する。
新しいクエストが一つだけ増えていた。
*守護獣と契約をしましょう。
奴隷はこの世界をもう少し知ってからの方が良いので、先にこちらを頑張ってくださいね。
貴女のことだから凄く人気だと思いますが、雄は駄目ですよ!
……揺るぎないなぁ、喬人さん。
しかし、守護獣とはまた萌える。
守護獣屋さんとかあるんだろうか?
お勧めマップ参照だな。
最優先になってしまった、守護獣と契約しましょう。のクエストを大人しくクリアすべく、私はすっかり慣れてきた気もするお勧めマップを展開した。