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15 - 第15話  旦那様は守護獣もコンプ済み。前編

2024年01月12日

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鬱陶しいほど粘着質な目線に追い掛けられながらも、何とか声はかけられずに『守護獣屋 なんでもござれ!』と古臭い木の看板がぶら下がっている店の前までたどり着けた。


「やっと着いたし……」


額に浮かんだ汗を軽く袖口で拭う。


そういえば、このワンピースはどんな偽装が施されているのだろう。

一般的な冒険者風の服装が無難だが。

まぁ、その辺りはさて置き。

夫のプレゼントなので、大切に着たい。

むしろバッグに丁寧に畳んで仕舞っておきたい。

この世界にクリーニング屋さんに似た店があると良いのだけれど。


「守護獣屋さんの次は衣類一式購入かなぁ……」


扉を軽く押すと、かろんかろんと可愛らしい鐘の音がして扉がゆっくりと開く。

ドアベルは蜘蛛をモチーフにしていた。


「ま、マニア仕様だ!」


守護獣というので、もふもふしか想定していなかったのだが、もしかして昆虫とか、爬虫類とかもいるのだろうか?


Gと呼ばれるあいつが守護獣だったらどうしよう。

や。

昆虫の場合は守護虫というのだろうか。

だとしたら、爬虫類は?

虫とつくからにはこれもやはり、同じカテゴリになるのか。

小さいのは問題ないけれど、巨大だったり極彩色が過ぎたりする蛙なんかは勘弁してほしい。


思い切り眉を顰めながら店内へ足を踏み入れる。

ペットショップ特有の獣臭は一切感じられない。

というか、臭いがない。

消臭の魔法でもかかっているのかもしれないが、強い臭いが苦手な私には有り難い仕様だ。


「いらっしゃいませ!」


元気な女性が声を掛けてくれる。


「か、蟷螂?」


「はい、そうです。蟷螂人《とうろうじん》ですね。初めて御覧になりましたか?」


にこにこと笑う瞳は淡い緑色の複眼。

基本的には人間の体躯。

二本の腕は普通にあり、肩から鎌が生えていて刃先が正面を向いている。

常に周囲を威嚇しているようにも感じた。

恐らく羽もあるのだろう。

尻部分には昆虫の腹に似た形状のものが付いている。

足は人間と同じだが、靴の中は蟷螂の足なのかもしれない。


「ええ。突然不躾な態度を取ってしまって申し訳ありません」


獣人は予測していたけれど、昆虫人は意外だった。

謝意を込めて深々と頭を下げる。


「お気になさらず! お客様の声から侮蔑の色は一切感じ取れませんでした。純粋な驚きなら無理からぬことと思いますよ。私も鳥人に初めて出会ったときは、真剣に捕食される心配をして悲鳴を上げましたから!」


それはまた事情が違う気もするが、寛容な態度はとても有り難い。

今後、失礼をしないように注意せねば、と思いつつ用件を告げる。


「大変な経験をなされましたね。お気になさらずと言っていただけて有り難いです。それで、ですね。守護獣を求めに来たのですが……こちらはどういうシステムになっているのでしょう?」


「はいはい。初めてということですね? それでは、こちらに座って、お読みください」


店の片隅に置かれているソファに誘われ、勧められるまま腰を下ろす。

テーブルの上には、薄い本が一冊置かれている。

タイトルは『初めて守護獣を求められるお客様へ』と書かれていた。


本には要約すると以下な内容が書かれている。


*守護獣は、守護獣の指名によって成り立つ。

拒否は可能。

お客様からの指名は基本的に不可。

守護獣の指名がなき場合は、店員の指示に従って指名可能。


*基本的にお客様一人につき、守護獣は一体。

ただし守護獣の指名が複数であった場合、最大十体まで受け入れ可能。


*支払いは時価。

お客様にお支払いいただく場合も、守護獣が支払う場合もある。


*守護獣が亡くなった場合は、守護の証を保管しておくこと。

証がない場合は、新たな守護獣は得られない。


*守護獣が逃亡した場合は、速やかに店へ連絡のこと。

守護獣に非がある場合は、慰謝料を受けとり新たな守護獣が得られる。

お客様に非がある場合は、違約金を支払い新たな守護獣は永遠に得られない。


*守護獣が犯した犯罪は、お客様が責任を取る。

守護獣が暴走した場合は、店が責任を取る。


*守護獣を守護獣らしく扱うべし。

怠った場合は、守護獣の返還を要求されることもある。


「えーと? この最後の守護獣はらしく扱うべし、についての詳しい説明はないのですか。あ! このお茶、美味しいです」


「守護獣の種類によっても変わってきますね。ゆえに、決定したら、守護獣別の説明冊子をお配りしています。お茶は、今が旬のピルンの茶葉になります。王宮御用達のお店の茶葉を使っていますよ」


「あーそれは美味しいはずですね」


「お口にあったようで何よりです」


「お店と守護獣の関係はとても深いのですね?」


「そうですね。うちはこれでもかなりの老舗ですから、守護獣との関係性の良さは自負していますよ」


照れているのだろうか、鎌の先で髪の毛を掻いている。

髪の毛が切れたりはしないようだ。

よくよく観察すれば鎌の先はきめ細かい櫛のように繊毛がついている。

鎌を櫛代わりに使ったりするのかもしれない。


「意思の疎通などは、どうなっているのでしょう?」


「守護獣として契約すれば、問題なく思念で通じる感じになりますね。中には人語を操る者もいますし、人化できる者もいますよ。人語はできる者も多いですが、人化できる守護獣は希少ですね」


「それでは、説明書も拝見しましたし。私とともにいてくれる守護獣を呼んできていただけますか?」


「了解いたしました。少々お待ちくださいませ」


昆虫腹をふりふりとしながら去っていく女性を見るともなしに眺めながら、籠の中にあったクッキーを一ついただく。

こちらもほんのりピルン風味だった。

桃のクッキーは珍しいかも? と思いつつ、女性の戻りを待つ。


「……お待たせいたしました」


「普通逆だよね!」


「……そこが突っ込みどころとは思いませんでした」


女性の背後からしずしずと現れたのは、人が乗れるサイズの蜘蛛と掌サイズの蛇。


「えーと? それが本来の姿でよろしいのかしら?」


驚きは言葉にも出た。

妙な丁寧口調には自分で突っ込みを入れたくなる。

でもまぁ、責めないでほしい。

普通は驚くでしょう?

下手したら失神レベルだと思うよ。

ミニ蛇は大丈夫としても、巨大蜘蛛はさ。


『うむ。これが本来の姿じゃ』


『でも、人化もできますよ!』


契約をしていないのに話ができる。

蛇と蜘蛛に人語を話される不思議。

しみじみと異世界を感じた。


「人化ですか! 心身に負担がないなら、拝見したいです!」


『主になる身じゃ、そんなにへりくだる必要もなかろうて』


『でも、好感度は高いよね? 私たちに驚きはしても嫌悪しない女性は希少だよ』


『確かにな』


「うっわー! 美人さんに、そうキュート!」


SO CUTEが異様に怪しい発音だったが気にしない。


「虹糸《こうし》蜘蛛の彩絲《さいし》じゃ」


清楚系美女の腰まである髪の色は虹色。

瞳も虹色。

華奢だけれど出る所は出ている、女性として羨ましい体型。

とてもじゃないけど蜘蛛には見えません。

超絶な美人さん。


「守護獣になれる蜘蛛は下から、銅糸《どうし》、銀糸《ぎんし》、金糸《きんし》、白銀糸《はくぎんし》、虹糸ですね。虹糸蜘蛛は蜘蛛族の頂点に位置していますよ。人化できる蜘蛛は、現在彩絲しか確認されていません」


「言葉が話せる者は他にもおるんじゃがのぅ……」


「人化になると、途端にレベルがあがるよね。蛇族は白蛇なら皆人化できるけど、生まれる確率がそもそも低いからなぁ……あ! 私は白蛇《はくじゃ》の雪華《せっか》よろしくねー」


元気系美少女。

ロリ巨乳。

ロリ巨乳。

喬人さーん、ロリ巨乳だよ!

思わず夫に報告するほど、素敵な萌体型だ。

純白な髪の毛はゆるふわセミロング。

瞳は廚二病配色の紅。

可愛さを極めた容姿だった。


「取りあえず、二人とも服を! 服を着てください! 雪華さんには、ゴスロリ所望です!」


「……失礼ですがお客様、時空制御師の御方に縁のある方でいらっしゃいませんか?」


思い当たる節はゴスロリ表現だ。

夫も同じ発言をしたらしい。


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