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れもん
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#曽野舜太
み!
574
舜side
「あかん……世界が回っとる……」
夏休みの終盤、持ち込みを目前に控えたある日。
俺、曽野舜太は完全にノックダウンしていた。
原因は明らかなキャパオーバー。
ここ数日、寝る間も惜しんでペンを握り続けたツケが、一気に「38.5度」という凶悪な数字になって跳ね返ってきたのだ。
枕元でスマホが震える。
画面には『柔太朗』の文字。
舜「……も、もしもし……」
柔『舜太くん!? 声、ガラガラだけど大丈夫?』
舜「……わりぃ、ちょっと熱出してもうて。今日の作業、おやすみで……」
柔『すぐ行く。鍵は?』
舜「え? いや、うつるからええって……あ、もしもーし!?」
ツープーと無情に切れたスマホを握りしめ、俺は再び意識を失った。
◇
どれくらい経っただろうか。
ガチャ、とリビングの方から物音が聞こえた。
泥棒か、それともお迎えの使者か。
ぼんやりする頭でシーツにくるまっていると、寝室のドアが静かに開いた。
柔「舜太くん……大丈夫?」
そこに立っていたのは、ポカリスエットの束と冷えピタの箱を両手に抱えた、我が相棒・山中柔太朗だった。
相変わらずお顔の作画が良すぎる。
少女漫画の看病イベント、まさかのリアル発生である。
舜「柔太朗……ホンマに来たんか。いや、でも何で鍵……」
柔「前に秘密基地のキーホルダーに、予備の自宅の鍵つけてるの見たから。……はい、冷えピタ貼るよ」
おでこにひんやりした感触。
柔太朗の冷たい指先が少し触れて、それだけで心臓がドクンと跳ねた。
熱のせいか、それともこいつのビジュアルのせいか、もう判断がつかない。
柔「風邪の時は、やっぱりおかゆだよね。俺、ちょっと作ってくる」
舜「え、おかゆ? お前、作れるん……?」
そう、山中柔太朗は「顔面国宝」「プロットの天才」という完璧なステータスと引き換えに、『料理のセンスが壊滅的(というかやったことがない)』という致命的な弱点を持っていた。
引き止める間もなく、柔太朗は「任せて」と頼もしい笑顔を残してキッチンへ消えていった。
ガッシャーン!!ゴトゴトゴト!
舜(……めちゃくちゃ不穏な音が聞こえるんですが)
布団の中でハラハラしていると、15分後、静かになったキッチンから柔太朗が戻ってきた。
その手には、なんとか形になっている(ちょっとお米の形が残りすぎている)おかゆの器。
しかし、俺の目は別の場所に釘付けになった。
舜「……なぁ、その手、どうしたん?」
柔太朗の左手の人差し指に、これでもかと不格好に巻き付けられた絆創膏。
柔「あはは、ちょっとネギを切ろうとしたら、包丁の角度を間違えちゃって。でも、舜太くんのために頑張ったから!」
サラッと。
またこの男は、少女漫画の王道セリフをサラッと言いおる。
いつもなら「不器用か!」とツッコむところだけど、熱で脳がバグっている俺の胸に、その言葉がクリティカルヒットしてしまった。
俺のために、あの綺麗な指を負傷させてまで、慣れない料理を……?舜「――っ、アホかお前は! 手ぇ、大事にせぇよ……!」
柔「ふふ、赤くなっちゃって、やっぱり熱高いね。はい、お口開けて。あーん」
スプーンですくったおかゆを、フーフーと息を吹きかけながら目の前に差し出してくる。
舜「……っ! 『あーん』って、幼児退行か! 自分で食えるわ!」
柔「ダメだよ、病人なんだから。ほら、あーん」
有無を言わせぬ王子様の微笑み。
降伏した俺は、借りてきた猫のように小さく口を開けた。
パクリ。
……あ、味は、普通に美味しい。
ちょっと塩気が強い気がするけど、五臓六腑に染み渡る。
柔「美味しい?」
舜「……おん。美味い。ありがと」
素直にお礼を言うと、柔太朗は嬉しそうに目を細めて、また「あーん」を繰り返した。
器が空になり、柔太朗が片付けようと立ち上がろうとした、その時。
熱のせい、ということにしておいてほしい。
いつもなら絶対にしない行動を、俺の身体が勝手に起こしていた。ぎゅっ。
柔太朗のシャツの裾を、俺の右手が掴んでいた。
舜「……どこ、行くん」
柔「え? あ、食器を洗いに……」
舜「……後でええやん。おいてかんといて」
自分で言って、脳の血管がハジケ飛ぶかと思った。
何言うとんねん俺!? 寂しがり屋のヒロインか!?慌てて手を離そうとしたけれど、熱のせいで力が入らない。
というか、本心では、この心地いい冷気を持った相棒に、もう少し近くにいてほしかった。
柔太朗は一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、今までに見たことがないくらい、優しくて、ちょっと困ったような、愛おしそうな笑顔を浮かべた。
柔「……うん。どこにも行かないよ」
柔太朗はベッドの横に腰掛け、俺の頭を優しく撫で始めた。
大きな、だけど少し不器用な絆創膏のついた手が、髪をゆっくりと梳かしていく。
柔「早く良くなってね、舜太くん。君がいないと、俺の物語は始まらないから」
耳元で囁かれる低音ボイス。
あかん。
看病されとるはずなのに、天下を獲る前に、俺のライフはもうゼロや。
蝉の鳴き声が遠ざかる部屋の中で、俺は柔太朗の体温を感じながら、今度こそ深い眠りに落ちていった。
fin
翌日、すっかり元気になった舜太が、料理のせいで悲惨なことになったキッチンの惨状を見て叫ぶのは、また別のお話-😉
コメント
3件
やばいっすねほんとに(語彙力) 少女漫画はあなた達ですよ?? 次回も楽しみにしてます✨
うわあああもう今回も最高すぎた!!!🔥 熱でダウンした舜太を颯爽と駆けつける柔太朗、しかもポカリと冷えピタ抱えて少女漫画かよ!ってツッコみたくなったわ😂 不器用な包丁捌きでネギ切って指切るの、めっちゃ愛おしいし、その手で撫でられて「ライフゼロ」宣言の舜太、分かる…分かるぞそれ…!!! 「おいてかんといて」って裾掴むとこ、完全にヒロインだったなw 次回、キッチンの惨状も楽しみにしてる📖💕