テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#み!るきーずと繋がりたい
れもん
4,460
#曽野舜太
み!
574
舜side
締め切り当日の夕方。
赤く染まり始めた街並みを、俺――曽野舜太と山中柔太朗は、駅前へと急いでいた。
俺の胸には、厚みのある角形2号の封筒がしっかりと抱えられている。
中身は、一昨日の看病イベントを経て、文字通り二人が命を削って完成させた『マジカル・バディ』第1話の原稿だ。
舜「……あった。あそこや」
駅前のロータリーの片隅にぽつんと佇む、真っ赤な郵便ポスト。
いつもなら何気なく通り過ぎるだけのただの鉄の箱が、今日ばかりは、俺たちの未来をジャッジする巨大な門番のように見えた。
ポストの前に立ち、封筒を差し入れ口に近づける。
――けれど、あと数センチというところで、俺の右手がピタリと止まった。
舜「……なぁ、柔太朗」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
心臓が信じられないくらいの早さで、ドクドクと警報のように脈打っていた。
指先が、自分の意志に反して小刻みに震えている。
舜「これ、入れたらもう戻ってこおへん。ホンマに……ホンマにこれで良かったんかな。俺の絵、もっと直せるところあったんちゃうかって、急に怖くなってきてもうた……」
もし、一ページ目で見向きもされなかったら。
もし、大好きな相棒の最高のプロットを、俺の画力のせいで台無しにしてしまったら。
ネガティブな妄想が頭を駆け巡り、足がすくんで動けない。
そんな俺の様子を、隣で静かに見守っていた柔太朗が、一歩歩み寄ってきた。
柔「舜太くん」
すっと伸びてきた柔太朗の手が、震える俺の右手を、包み込むように上からそっと重ねた。
看病の時の冷たさとは違う、夕日に温められた優しい体温。
柔太朗は、人指し指についた不格好な絆創膏を俺の手の甲に少し擦れ合わせながら、あの日と同じ、絶対に揺るがない王子様の微笑みを浮かべた。
柔「大丈夫だよ」
耳元に届く、心地いい低音ボイス。
柔「俺、舜太くんが描いてくれた原稿、何回も何回も読んだよ。ネームの段階でも面白かったけど、君が命を吹き込んでくれたキャラたちは、今にも紙から飛び出してきそうなくらいキラキラしてた」
柔太朗は重ねた手に、きゅっと少し力を込める。
柔「自信持って。俺たちの漫画は、絶対に世界一面白い。……ね? 一緒に入れよう」
柔太朗の真っ直ぐな瞳が、俺の不安を綺麗に溶かしていく。
あぁ、やっぱりずるいな、こいつは。
そんな風に言われたら、もう前を向くしかないじゃないか。
舜「……おん。そうやな。俺らの漫画、天下獲るもんな」
フゥ、と深く息を吐き出し、覚悟を決める。
重ねた手に二人で力を込めて、差し入れ口の奥へと封筒を押し込んだ。
トスン。
静かな音を立てて、俺たちの夢が、ポストの闇の中へと吸い込まれていく。
手が離れた瞬間、なんだか肩の荷が下りたような、だけど同時に最高にワクワクするような、不思議な高揚感が身体を駆け巡った。
柔「よし、これで第一歩だね」
満足そうに微笑む柔太朗。
俺は、まだ少し熱が残っている気がする自分の右手をグッと握りしめ、真っ赤なポストを見つめながら心の中で強く誓った。
待っとれよ、少女漫画界。俺たちの時代が、ここから始まるんや――。
fin
コメント
1件
**はる。だわ** うわああ…第6話、めっちゃ沁みた……! ポストの前で足がすくむ舜の気持ち、痛いほどわかるし、それを「一緒に入れよう」って手を重ねて後押しする柔太朗の台詞がズルすぎるだろ…! 「俺たちの漫画は絶対に世界一面白い」って言い切れる相棒、最高じゃん。 赤いポストに封筒が吸い込まれてくラスト、こっちまで胸熱になったわ。少女漫画界、待ってろよ🔥 続き、全力で待つ!!