ジリリリリリリリリリリー!
そこまで大きい音でもないはずの呼び鈴が家中に鳴り響く。
今まではナタリーが対応をしてくれていたから、
未だに鳴っても行くことを忘れてしまう。
端末を見てみるとヘルメットを被ったルカが映っていた。
あぁピザか。ちゃんと頼めてよかった。
「はい。アグレストです。そこの荷物入れに入れてください。」
「アドリアン。配達ついでにちょっと君と会いたいんだ?」
はて何故僕と?
僕が返答を渋っているとルカはクスッと笑った。
「丁度君と話したかったし、この大きさのピザ、1人じゃ食べきれないだろ?」
画面に写ったピザはルカのヘルメット5個分くらいの巨大なピザだった。
「うん。開けるね。」
なれない手つきで端末で施錠を開け、再び静かになると自分の無力さが身にしみる。
今まで食卓に宅配のピザなんて出てきたことがなかった。
作り物とはいえ人間と同じように空腹になる。
でも僕は料理ができないし、下手に外に出たら目立つだろうし、下手したらマスコミの餌食になる。
一度だけ父さんに黙ってパーティーをしたとき、マックスが頼んでいたのを真似したら
目の前にあるピザが届いてしまった。
一緒に食べてくれるルカに感謝だ。
「このピザ、持ってくるの結構大変だったんだよね、冷めてなくてよかった」
モデルで鍛えた表情筋でなんとか笑顔を取り繕う。
ルカと他愛もない話を話す。
人と話すのが久しぶり過ぎて声や表情がちゃんとつくれるか心配だったが大丈夫そうだ。
「この後予定空いてる?」
ルカがピザを頬張りながら言う。
「用済みの模造品になることなんて何もないよ」
「そっか…」
あ、失言した。
僕はいとこのグラハム・フェリックスの父、アドリアン・グラハムを
模して作られたセンチモンスターという操り人形だったのだ。
父さんはいったい何をしたかったのだろう。
母さんが死んでからずっと軟禁し、
母さんが生き返るとまるで居ない者かのように見向きもされない。
作った理由を聞きたいが作った父は今の父さんはとても話が通じる状態じゃない。
「あ、そうだ。レディバグ探しはどう?」
レディバグ…僕がずっと想ってきた最愛の人。
今の僕は何もない真っ暗の闇の中にいる。
たった一つの僕の希望の光が彼女なのだ。
「手がかりはこの鍵だけ」
この小さな鍵は彼女が唯一僕に残してくれたもの。
あの時の会話は、いや、彼女とのクレイジーな作戦を立てているときも、
パトロール中の他愛のない些細な会話もすべて覚えている。
確か鍵を貰った時の僕は、
次の日起きたらミラキュラスが回収されてしまうなんて考えてすらなかったな。
『その鍵は私の大切な鍵よ。あっ、家の鍵じゃないのよ?』
そんな冗談を彼女は言ってたな。
でも顔は笑っているけれど疲れたような顔をしてた。
僕は相棒だというのに何もできずに、何も知らずに…。
『もう敵は居ないけど最後まで正体は知らないでおきたいんだ。』
今考えれば彼女はガーディアンだ。
ガーディアンとしてミラクルボックスを守っていかないといけない。
だから僕が知ってはいけないんだ。
でも当時の僕はだめだめだったな。
レディバグになぜかと問いかけた。
そして彼女は、
『あなたの記憶にダメダメな私が残ってほしくないの。最後まで゙完璧で正しいヒーロー゙の仮面をつけさせて、。』
『でもね、貴方に゙ダメダメな私゙も知ってほしいなって…、だめだね、私ってば…。これは最後のわがままっ♪見つけてくれるよね?猫ちゃん?』
最後に見た彼女の涙。今でも思い出すだけで胸が締め付けられる。
彼女は1ミリも見せてくれなかった仮面の下。
相棒じゃなくなっても必ず君を迎えに行く。
そう彼女に誓った。
※アドリアンはレディバグがガーディアンをやめたことは知らない
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