◻︎お母さん
「結衣…よかった、元気そうで」
礼子が連れてきたその女性は、結衣を見ると顔を覆って涙ぐんでいた。
「お母さんは?大丈夫なの?」
結衣に言われて、お母さんを見ると左の頬にアザのようなものが見えた。
私と礼子の視線を感じてか、手で隠したけれど。
「うん、大丈夫。やっとね、やっと、あの人と離婚ができたの、だからそれを報告したくて…」
「そっか…」
そのまま二人は黙ってしまった。
「とにかく、中に入ってください、ね」
礼子がお母さんを部屋に招き入れた。
「あ、じゃあ私は頼まれていたことが終わったので失礼しますね」
私はバッグと上着を持って玄関へ向かう。
「あ、あの、待って、美和子さん!」
私を呼び止めたのは結衣だった。
忘れ物でもしたかと振り返ったら、バッグをつかまれた。
「どうしたの?結衣ちゃん」
「また、来てくれますか?ここに」
「え?それはかまわないけど…」
お母さんが迎えに来たんじゃないのかなと思う。
「礼子さん、お願いです。私、もう少しここにいてもいいですか?」
「え?でもお母さんが…」
「お母さん、私、今はまだお母さんと暮らせない、多分…うまくお母さんと暮らせない…」
結衣の声が震えて、泣いているようにも見えた。
「結衣…」
_____そうだよね、お母さんといるとどうしてもツラいことを思い出してしまうよね
「ねぇ、礼子さん、お母さん。私、しばらくここに通うから、結衣ちゃんの気が済むまでここにいてもらったら?きっと、一人で色々考えたいこともあると思うから」
うんうんと、うなづく結衣。
「そうね、それが結衣ちゃんのためになるのなら。お母さんはそれでいいですか?」
「…そう、ですね、結衣がそう言うのなら…」
二人が私を見たので、私は任せて、という意味でうなづいた。
「やった、私、もっと美和子さんと話がしたくなって、だから、よかった!」
ぴろろん🎶と私のスマホが鳴った。
『晩ご飯、勝手に食べてるよ』
と旦那と息子から写真が届いた。
半分食べた唐辛子入りの肉団子と、泣いてる旦那の写真だった。
_____あ、唐辛子入りって言うの忘れてた!
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