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孤児院での戦闘から数日後。

「汝の魂は、母なる女神の導きを受け天に昇らん。汝の肉体は大いなる父の祝福を受け、大地へ還らん」

シャーリィです。あの日から数日、ルミの遺体は教会に運ばれて安置され、そして今日シスターの祝福を受けています。参列者は農園関係者一同、ターラン商会からはマーサさんが参加してくれました。

「さあ、シャーリィ」

シスターに招かれ、私は棺の前に立ちます。色々考えましたが、他の眼もありますし手短に。二人きりで話は出来ますから。

「我が生涯の友、ルミ。願わくば、貴方の眠りに永久の安らぎが訪れますように」

私はそっと花束を棺に乗せて、深く頭を下げるのでした。

「寂しくなりましたなぁ。ルミ様の元気な声を聞くことが出来ないとは…。」

多分、農園の中で私の次に悲しんでいたのはロウですね。ルミを孫のように可愛がっていましたから。

「はい。ですが泣いてばかりだとルミに笑われてしまいます。私はもう泣きません」

「お嬢様…」

「ロウ、私は強くなります。大切なものを二度と奪われないように。その為には、更なる収益による組織の拡大が急務。忙しくなりますよ」

「お嬢様、どうかご無理をなさらずに」

「無理などしていません。休む暇はありませんよ、世界は意地悪なので、いつまた私の大切なものを奪いに来るか分かりませんから」

それに、忙しければこの寂しさを忘れさせてくれるような気がします。今は、これで良いんです。

「それより、ロウ。良い知らせです。セレスティンが見付かりましたよ」

「何と、セレスティン殿が!?」

「バルザックファミリーに捕まっていました。正確には売り払われたのだとか。その線を辿れば、あの日の黒幕に近付けるかもしれません」

セレスティンを捕まえた連中がそれを売り払った。そのラインを辿れば、黒幕にたどり着けるかもしれません。何よりも、セレスティンは頼りになりますからね。

「セレスティン殿がお嬢様のお側にお仕えするならば、これほど頼もしいことはございませんからのぉ」

「今は療養を言い渡していますが、思う存分に働いてもらいます。もちろん、農園も大切な資金源。管理はお願いしますよ?」

「もちろんでございます。畑の拡張も順調で、更なる増産を見込めます」

「結構」

教会の客室へ足を運んだ私は、セレスティンと対面します。

「よもや、シェルドハーフェンで生きる決意を固められているとは。常に生命の危機に晒されることになりましょう」

「ノコノコと帝都に戻っても、活路はありません。ここなら身を隠しながら力を蓄えられます。これ以上の好条件はありませんよ?」

「同意します」

「今は休んでください、セレスティン。復帰したらこき使うのでそのつもりで」 

「望むところ、如何様にもお使いくだされ」

「セレスティンの知恵と実力には期待していますからね。ちゃんと長生きしてくださいよ」

「まだまだ、若いものに遅れは取りませぬよ」

セレスティンと言葉を交わし、私はホールへと向かいました。

「お嬢、その…大丈夫か?」

壁に背を預けていたベルが声をかけてくれました。

「大丈夫です。ルミには悪いですが、彼女をゆっくり偲ぶのは全てが終わった後だと決めましたから。それよりベル、貴方の伝手を頼りたく思います。お金に糸目はつけません。腕利きを揃えてくれませんか?」

「傭兵仲間を集めようと?つまり、兵隊が欲しいんだな?」

「はい、これから私は組織を立ち上げて勢力拡大を目指します。そうなれば、他の勢力とぶつかるのは必定。今回の戦いでも、余裕さえあればあんなに時間を掛けることはありませんでした」

「確かにそうだ。兵隊が居れば、物量を気にする必要もなくなるからな。警備の人数も増やしたいんだろ?」

「良くも悪くも今回の戦いは私達を有名にしました。農園を狙う相手も現れる筈ですから」

「わかった、命知らず共に声をかけてみよう。その代わり、もうあんな無茶は…出来るだけ避けてくれよ?」

「私が出る状況を作らなければ良いんですよ。貴方とセレスティンが居るなら安心です」

「あのじいさんか。知り合いみたいだな?」

「昔馴染みですよ。詳しく知りたいですか?」

「いや、いいさ。過去を聞くのは野暮だからな。これからも頼むよ、お嬢」

「こちらこそ、ベル」

私達は握手を交わし、互いに分かれました。裏口へ向かうと。

「はぁい、シャーリィ」

今日は喪服を着たマーサさんが居ました。うん、喪服でもその豊満な果実は映えますね。えくせれんと。

「マーサさん、葬儀に参列してくれてありがとうございます」

「良いのよ、お得意さんだしね。お友達の事は、残念だったわね」

「はい……ままなりません。今回は自分が如何に未熟か思い知らされました。もっと早く動いていれば。情報を早く仕入れていれば。兵隊が用意できていたら。考え出したらキリがありません」

「貴女はまだ子供なのよ?むしろその年でここまで出来るのが異常なの」

「そうでしょうか?」

「自分が規格外だって自覚を持ちなさいよ、シャーリィ。しばらくはうちが護ってあげるから、満足するまでやってみなさい。その代わり、納品だけは遅れないように」

「はい、もちろんです。収穫量の増加が見込めますから、納品の数も増えると思いますよ」

「それはありがたいわね。最近は帝室御用商人が接触してきてね、更に稼ぐわよ」

「それは良い知らせです。お金はたくさん必要ですから、よろしくお願いします」

「任せなさい」

マーサさんと別れ、最後に大樹の傍に佇むシスターに、声をかけます。 

「シスター」

「シャーリィ、埋葬はここで良いのですか?」

「はい」

ルミのお墓は農園の大樹の根元にしました。何となく、そこにいて欲しかったからかもしれません。ロウに命じて周囲を色取り取りの花畑で囲み、華やかさを添えます。

「そうですか……シャーリィ」

「はい」

「死なないでくださいね」

ただ一言告げてシスターは離れます。どんな言葉より、気持ちが込められた一言の方が胸に響くものですね。大丈夫、死ぬつもりはありません。絶対に。

「ルミ、そこから見ていてください。私の復讐劇と…今は想像も尽きませんが、幸せを得られるその日を。そしてその先を」

私はシャーリィ=アーキハクト、復讐とその先の未来を掴み取るために足掻くもの。全ての復讐をやり遂げて終わりではありません。アーキハクト伯爵家を断絶させないためにも、素敵な旦那様を探す使命が残っています。うん、復讐より、難易度が高そうなのが不安ですが。

シャーリィ=アーキハクト十二歳、良く晴れた秋空の日でした。そして、私はある一人の男の子と出会うことになりました。それはまた次の機会に。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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