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明るく、元気でお調子者。
そんな玲奈にも悲しい過去があったんだ。そんなそぶり、一度も見せたことはない。
その強さに改めて尊敬の念を抱く。
未央は悲しみを抱えているのは、自分だけのような気がしていたのが、すごく恥ずかしくなった。
みんな何か抱えながら、必死に生きる喜びを見出そうともがいている。
自分はなんて傲慢で浅はかだったんだろう。玲奈の笑顔は美しい。眩しく光って見えないくらいだった。
「さ、湿っぽい話はこれくらいにして。未央さん、最近肌ツヤが良くなってませんか? さては毎晩年下くんに……」
玲奈はにやにやしながら、じりじりと近づいてくる。
「なっ……なっ、なによそれっ! 玲奈には関係ないでしょ?」
「あるわよ。どうなの? 夜の方は? 若いエキスを吸い取ってるの?」
「やめてーっ!!」
休憩室にゲラゲラと笑い声が響いた。亮介と帰りの時間が同じだったので、未央はスタジオのある駅ビルの入り口で待ち合わせた。
「亮介、おまたせ!」
後ろからぎゅっと抱きつく。
「おつかれさま! お腹すいた。ごはんきょう何にする?」
未央は亮介の背中に顔をぐりぐりっとさせた。きょうのことが思い出されて、このしあわせをいますぐ噛み締めたかった。
「ちょっと、なに? どうしたの? 甘えてる?」
「亮介、だいすき」
未央はにかっと笑って亮介の顔を見る。ありがとう、だいすき、愛してる! と顔が言っているように亮介には見えただろう。
「僕も」
亮介はくるっと向きを変え、正面から未央をぎゅっと抱きしめた。世界中のしあわせを集めたみたいに、穏やかでやさしい気持ちだった。
商店街で晩御飯の買い出しをしながら亮介の誕生日の話になった。
「本当に家で、私のご飯でいいの?」
「未央のご飯がたべたい。その日は仕事だから、家でのんびりの方がうれしいし」
「わかった。何たべたい?」
「未央」
いや、そうじゃなくてね、おぼっちゃま。来週の誕生日、はりきって用意しなくちゃ。
12亮介の誕生日
きょうは亮介の誕生日。
未央は張り切って飾り付けをして、晩ごはんの下ごしらえをはじめた。
メニューは、亮介のリクエストで唐揚げとポテトサラダに枝豆と、とんぺい焼き。いつもと一緒じゃないかと言ったのだけれど、それが一番好きだからということなので、仕方なくそうした。
できることといえば、素材にこだわることくらいで、高級スーパーや、オーガニックスーパーをはしごして、いつもよりいい肉、いい野菜を買いこんだ。
あとはケーキを作る。この時期イチゴが売っていないので、ケーキのフルーツ盛りを作ることにした。
昼過ぎから作れば、夕方にはできるだろう。腕まくりして早速作り始める。
朝晩は涼しくなったが、日中はまだまだ暑い。エアコンを入れても、ガスオーブンでケーキを焼きはじめると汗が噴き出す。
それでも好きな人に食べてもらえるのならこれ以上の幸せはない。作っている時から心はほわほわ、温かく感じた。
思いのほか下ごしらえは早くでき、ケーキも盛り付け完了。まだ16時。亮介が帰ってくるまで3時間はある。
18時ごろ唐揚げをあげ始めればよっぽど間に合う。さて何をしようか。
亮介がよろこぶこと、亮介がよろこぶこと……。
そうだ、あれだ!! 今年まだ着てなかったし。あれならきっと喜んでもらえるだろう。未央はあれを押し入れから引っ張り出して、脱衣所に隠しておいた。
「ただいま、きょうはあつすぎるよー」
「おかえり! シャワー浴びてくる? いまちょうど唐揚げもできあがったとこ」
元気よく亮介が帰ってきた。汗びっしょりなので、家でシャワーを浴びてからくるとのこと。
さっぱりした亮介が部屋に戻ってきて、ふたりでちゃぶ台の前に座った。