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#K-Takasaka
K-Takasaka
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#異世界転生
K-Takasaka
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K-Takasaka
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K-Takasaka
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花火の音が、地下施設の天井を震わせていた。
地上では夏祭りが始まっているらしい。遠く離れた街の夜から、遅れて届いた爆発音だけが、厚いコンクリートを抜けてくる。
メバルは、古いカメラを両手で握っていた。
ファインダーを覗けば、夜空に咲く光が四角い枠の中に収まる。赤、青、金色。どの花火も綺麗だった。
けれど、隣にいるK-Tの姿は、その枠の外にあった。
「メバルちゃん、今の花火は撮ったか?」
カキが身を乗り出す。
「撮ったよ。たぶん」
「たぶんってなんだよ! 俺、今すごい顔してたぞ!」
「それは写真に残さなくてもいいやつ」
「ひどいな!」
カキが笑う。
少し離れた場所では、ミステーがピラミッドの被り物を夜空へ向けていた。
「花火は、夜が一瞬だけ開く傷口だ」
「ミステーちゃん、今日ちょっと怖いよ!」
「傷口から光が漏れている」
「だから怖いってば!」
マサカゲは苦笑しながら、屋上の出入口と周囲の建物を確認していた。アオノは端末を操作し、地上の監視網に異常がないか調べている。
K-Tだけが、少し離れた場所で花火を見ていた。
黒髪の短髪が夜風に揺れている。紫色の瞳に、空で開いた光が映っていた。
メバルはカメラを持ち上げた。
シャッターを切る。
画面には、花火を見上げるK-Tの横顔が残った。
三年前にも、同じ写真を撮った。
あの夜も花火が上がっていた。
メバルは何度もK-Tへカメラを向けた。花火を見ている横顔。夜風に揺れる髪。わずかに細められた目。
K-Tは、そのたびに言った。
「撮らなくていい」
「えー、せっかくの花火だよ? 記念にしようよ」
「見ればいい」
K-Tは、そう言った。
当時のメバルは、その言葉を深く考えなかった。
綺麗な瞬間を残したかった。
あとから何度も見返せるように、思い出を形にしたかった。
だから、K-Tが何度も口を開きかけていたことに気づかなかった。
何かを伝えようとしていたことにも。
「メバルちゃん」
マサカゲに呼ばれ、メバルは現在へ戻った。
「さっきから、同じ写真を見ている」
「……うん」
「消したいなら、消してもいい」
「消したくない」
メバルはカメラを胸へ抱いた。
「でも、残しておきたくもないの」
アオノが横から液晶を覗いた。
「画像データは破損している。復元すれば、現在より鮮明になる可能性がある」
「鮮明にしなくていいよ」
メバルは静かに言った。
「もう、写真の中のKさんを見たくない」
その瞬間、施設全体の照明が落ちた。
地上から、ひときわ大きな花火の音が響く。
続いて、地下通路の奥で金属音が鳴った。
シャッターが閉じた。
アオノの端末に、赤い警告が表示される。
「中央管理システムが起動した。施設内の映像記録を消去している」
「誰が操作してる?」
マサカゲが尋ねた。
「内部端末からの命令。場所は地下第四区画」
カキがエレキギターを背負い直す。
「じゃあ、そこへ行こう!」
「待て。罠の可能性がある」
「待ってる間に、俺たちの記録が全部消えるぞ!」
「すでに一部は消えた」
アオノが画面を見せた。
そこには、施設に残されていた映像一覧が表示されていた。
メバル、カキ、マサカゲ、ミステー、アオノ。
五人の映像は残っている。
しかし、K-Tの名前だけが、すべての記録から消えていた。
メバルは息を呑んだ。
「Kさん……」
K-Tは、黒いガラケーを取り出した。
アンテナを伸ばす。
硬い音とともに、端末は警棒へ変わった。
「行く」
「Kさん、ちょっと待って。今の状況、危険すぎるよ」
「問題ない」
「それ、問題がある人しか言わないの!」
K-Tは答えず、通路の先へ進んだ。
六人は地下第四区画へ向かった。
途中、照明が何度も消えた。暗闇になるたびに、どこかでシャッターが閉じる音がする。
一枚。
二枚。
三枚。
施設が、少しずつ彼らを分断しようとしていた。
「進行方向の隔壁が閉じる。残り二十秒」
アオノが告げた。
「全員、走れ!」
マサカゲの指示で、六人は通路を駆けた。
前方のシャッターが降下し始める。
カキとミステーが先に滑り抜け、アオノとマサカゲが続いた。メバルもギリギリで通過する。
最後にK-Tが走った。
その背後から、暗闇の中の影が迫る。
乾いた音が響いた。
K-Tは防弾盾を構え、攻撃を受け止めた。体がわずかに揺れる。
「Kさん!」
「問題ない」
K-Tはトンファーを振り、影を遠ざける。
しかし、シャッターは止まらない。
「早く、Kさん!」
メバルは手を伸ばした。
K-Tがこちらへ踏み込む。
その瞬間、シャッターの横にあった小型の扉が開いた。
K-Tはメバルの手をつかみ、こちら側へ投げるように押し込んだ。
「Kさん!」
メバルが床へ転がった直後、金属の壁が二人の間に落ちた。
K-Tだけが、向こう側に残された。
「Kさん!」
メバルは立ち上がり、シャッターへ駆け寄った。
小さな覗き窓の向こうに、K-Tの姿がある。
防弾盾を構え、通路の奥へ向かって立っている。
その背後には、黒い影がいくつも現れていた。
マサカゲが制御盤へ走る。
「アオノ、開けられるか!」
「遠隔解除を試みる。だが、この扉は中央管理室からしか完全には開かない」
「何秒だ!」
「三十秒」
「長すぎる!」
メバルは覗き窓を叩いた。
「Kさん! そこから離れて! こっちへ来て!」
K-Tが振り返った。
紫色の瞳が、メバルを見た。
その顔はいつも通り落ち着いていた。
けれど、メバルにはわかった。
K-Tは、ここから戻るつもりがない。
「Kさん、何考えてるの!」
「メバル」
K-Tが名前を呼んだ。
普段、K-Tは仲間を呼び捨てにする。だから、それだけなら特別なことではない。
しかし、声が少しだけ柔らかかった。
「カメラを置け」
メバルは、肩から下げたカメラを見た。
「……嫌」
「置け」
「嫌だよ!」
「見ろ」
K-Tの背後で、影が動いた。
K-Tは盾を構え直した。
「今を見ろ」
メバルの指が、カメラに触れる。
三年前の夜が蘇った。
花火。
K-Tの横顔。
写真を撮る自分。
K-Tが何かを言おうとしていたこと。
それを聞かず、カメラの中の美しい光ばかりを追っていたこと。
メバルは、ようやく理解した。
写真を残せば、失わずに済むと思っていた。
けれど、写真にすることばかり考えていたせいで、目の前にいた人を見失った。
思い出を作ろうとして、相手の心を置き去りにした。
「Kさん、戻ってきてよ……!」
メバルはシャッターへ額を押しつけた。
「私、謝らなきゃいけないの。あの夜のこと、ちゃんと聞かなきゃいけないの。Kさんが何を言おうとしてたのか、まだ知らないままなんだよ!」
K-Tは静かに首を振った。
「もういい」
「よくない!」
「メバル。俺は、見られていた」
「え……?」
「写真ではなく、お前の目で」
K-Tは、ごくわずかに口元を緩めた。
「それで十分だ」
背後の影が一斉に動いた。
K-Tは前へ出る。
「Kさん!」
「走れ」
「嫌だ!」
「走れ、メバル」
K-Tが警棒を振った。
影が後退する。
しかし、通路の奥で別のシャッターが落ち始めた。K-Tの背後へ、幾重もの金属扉が閉じていく。
メバルは制御盤を殴った。
「アオノ、まだ!?」
「解除まで五秒!」
「Kさん、あと少しだから!」
「問題ない」
「もうその言葉、聞きたくない!」
K-Tは一歩、また一歩と後退した。
その姿が、閉じていくシャッターの隙間に切り取られていく。
メバルはカメラを外し、床へ叩きつけた。
レンズが割れた。
ファインダーが砕けた。
もう、K-Tを枠の中に閉じ込めることはできない。
「Kさん! 私、ちゃんと見るから! 写真じゃなくて、Kさん自身を見るから!」
K-Tは答えなかった。
ただ、紫色の瞳でメバルを見ていた。
最後まで、目をそらさなかった。
シャッターが落ちる。
金属の向こうへ消える寸前、K-Tの声が届いた。
「なら、忘れるな」
扉が閉じた。
重い音が、地下通路を揺らした。
メバルはその場に崩れ落ちた。
「Kさん……」
誰も、すぐには声をかけられなかった。
マサカゲが制御盤を操作する。
「開ける。必ず開けて、Kさんを連れ戻す」
アオノが端末を見つめる。
「通信が切断された。K-Tの携帯端末も、反応しない」
「そんな……」
メバルは閉じたシャッターに手を当てた。
冷たい金属だった。
あの夜、K-Tは何を言おうとしていたのだろう。
どんな表情をしていたのだろう。
どれだけ近くにいたのだろう。
メバルは、もう思い出せない。
残っているのは、花火の写真だけ。
けれど、その写真の中にK-Tの本当の気持ちは写っていなかった。
写っていたのは、メバルが見たいと思ったK-Tだけだった。
「ごめん……」
メバルは、割れたカメラを抱えた。
「ごめんね、Kさん。もっとちゃんと見ればよかった。もっとちゃんと話せばよかった。写真に残すことじゃなくて、Kさんがここにいることを大事にすればよかった」
上空で、最後の花火が開いた。
その光は地下まで届かなかった。
メバルは顔を上げた。
ファインダーのないカメラを握りしめ、閉じたシャッターを見つめる。
もう、写真を撮ることはできない。
だからこそ、目をそらさなかった。
K-Tが消えた場所を、仲間たちの表情を、震える自分の手を。
すべてを、生身の目で見続けた。
そのとき、閉じたシャッターの向こうから、かすかな音がした。
警棒が床を叩く音。
一度。
二度。
三度。
メバルが息を止める。
「Kさん……?」
返事はなかった。
ただ、シャッターの隙間から黒いガラケーが滑り出てきた。
画面には、短い文字が表示されている。
――まだ、終わっていない。
メバルはそれを拾い上げた。
涙で滲む画面を、今度は写真越しではなく、自分の目で見た。
K-Tは目の前から消えた。
けれど、消えたからこそ、メバルはようやく気づいた。
思い出は、形にして閉じ込めるものではない。
失った人を、都合のいい一枚に変えるものでもない。
その人が何を見て、何を感じ、どんな声で名前を呼んだのか。
それを忘れずに抱えて歩くことが、残された者にできる唯一のことだった。
マサカゲが立ち上がる。
「行くぞ。Kさんを探す」
カキが拳を握った。
「絶対に見つける!」
ミステーは閉じたシャッターを見上げた。
「扉は、閉じるためだけに存在するのではない。向こう側に誰かがいると知らせるためにも存在する」
「ミステーちゃん……」
メバルは、初めてその言葉を否定しなかった。
アオノが施設の地図を展開する。
「シャッターの向こうに、未登録の通路がある。まだ接続可能だ」
メバルはK-Tのガラケーを握りしめた。
「行こう」
今度は、カメラを持たずに進む。
目の前から消えたK-Tを、いつかもう一度、自分の目で見るために。
コメント
1件
花火とシャッター、写真に残すことと“見ること”の対比がとても美しく切なかったです。とくに、メバルがカメラを叩き壊すところ――あの瞬間、彼女がようやくファインダー越しじゃなくてK-Tの目そのものを見ようとしたんだな、と伝わってきて胸が詰まりました。まだ終わっていない、というガラケーの一文も気になります。続きがすごく読みたいです。