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首都高速道路湾岸線 湾岸環八付近
羽田空港を過ぎた頃、車窓から上空を眺める槇村にキリカが言った。
「定刻通りですね」
「ああ」
槇村はこくりと頷いて、上空を大きく旋回しながら、着陸へ向けて高度を下げていく合衆国空中司令機を見つめていた。
この後、横浜のホテル黎明館で開催される、東京ジェノサイドに関する日米安全保障協議委員会には、日本側からは槇村と、田中防衛大臣代行代理が参加する予定である。
幣原喜三郎にオブザーバーとしての参加を申し入れたが、その説得にはかなりの時間を要し、今回の会議には間に合わないと、先程、倉敷から連絡があった。
幣原の防衛大臣起用は、政策の要になると考えていた槇村は落胆していた。
国土防衛に携われる人間は、彼をおいて他にはいないと思っていたのだ。
米軍、英軍、豪軍に太いパイプを持ち、今回来日する元軍人であるロバート エリオット フォレスタルとも親交が深い。
前防衛大臣がいなくなった今、槇村内閣にどうしても引き入れておきたい人材だった。
思惑を巡らす槇村に、キリカはちいさく呟いた。
「嫌な空ですね…」
合衆国空中司令機の遥か上空に、稲妻が音もなく走っている。
その数秒後、機体がキラキラと輝いた。
今度は槇村が言った。
「後はパイロットの腕次第かな。今日本の上空には…」
「はい。あの機しかおりません」
「すごいおもてなしだね」
無理に笑う槇村の胸に、一抹の不安がよぎる。
黒い棺桶は、光の反射を受けながら徐々に高度を下げていた。
曇天の雲の隙間には、コバルトブルーのオーロラが揺れているのが見えた。