テラーノベル
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線香の匂いが嫌いだ。
こんな匂い、今まで何とも思わなかったのに。
鼻の奥にまとわりついて、息をするたびに「もう帰ってこない」と言われている気がする。
帰ってこない。
そんなわけない。
昨日まで生きてた。
昨日まで笑ってた。
昨日まで「また明日」って言った。
“また明日”
俺は何百回も聞いていた
だから今日も会えると思ってた。
明日も。
来週も。
十年後も。
……思ってた。
祭壇の真ん中に、お前がいる。
写真の中だけで笑ってる。
なんで笑ってんだよ。
起きろよ。
その写真どけろよ。
そこ、お前がいる場所じゃないだろ。
立てよ。
いつもみたいに「ドッキリでした」って笑えよ。
誰か言えよ。
「嘘でした」って。
誰も言わない。
誰も笑わない。
俺だけが笑えない。
周りは泣いてる。
静かに涙を流してる。
でも俺だけ違う。
泣けない。
泣いたら終わる。
泣いたら認めることになる。
お前が死んだって。
そんなの無理だ。
無理に決まってる。
「お別れをどうぞ」
その一言で、足が勝手に動いた。
花を持たされる。
白い花。
嫌いだ。
全部白い。
何もかも終わった色。
棺の中を見た。
#岩本照
絶対辰哉
3,271
#深澤辰哉
絶対辰哉
121
3,668
junp
480
……誰だよ。
こんなの。
お前じゃない。
お前はもっと体温があって。
もっと笑って。
もっとくだらないこと言って。
もっと、生きてた。
なんで冷たいんだよ。
なんで返事しないんだよ。
「おい」
声が漏れた。
誰にも聞こえないくらい小さく。
「起きろ」
返事はない。
「起きろって」
頼む。
頼むから。
一回だけでいい。
目ぇ開けろ。
「……なぁ」
手を伸ばしかけて止めた。
冷たい。
触ったら終わる。
本当に終わる。
だから触れない。
怖い。
怖い怖い怖い。
お前が冷たいなんて認めたくない。
なんで俺なんだよ。
なんで俺がここに立ってんだよ。
なんでお前じゃないんだよ。
順番、おかしいだろ。
全部間違ってる。
怒りが込み上げる。
誰に?
知らない。
事故を起こしたやつ?
神様?
運命?
違う。
一番腹が立つのは俺だ。
なんで言わなかった。
なんで「好き」の二文字が言えなかった。
何年あった?
一年?
五年?
十年?
時間なんて腐るほどあった。
なのに。
「今じゃなくていい」
「関係が壊れるのが怖い」
そんな言い訳ばっかり並べて。
その結果がこれか。
馬鹿。
本当に馬鹿。
世界一の馬鹿だ。
今さら言える。
好きだった。
ずっと好きだった。
愛してた。
誰よりも。
家族より。
友達より。
自分より。
なのに。
本人に一度も言えなかった。
何やってんだよ。
棺に花が増えていく。
やめろ。
隠れる。
あいつの顔が見えなくなる。
やめろ。
まだ見てたい。
まだ終わるな。
蓋なんか閉めるな。
「ありがとうございました」
違う。
終わらせるな。
ありがとうじゃない。
返せ。
返せよ。
返してくれよ。
頭の中だけが壊れていく。
帰り道なんか覚えてない。
気づいたら部屋だった。
玄関に、お前の置きっぱなしのマグカップがある。
「今度返して」
そう言ってた。
返せなかった。
返す相手がいなくなった。
スマホを開く。
トーク画面。
一番最後は、お前。
『また来週な』
既読。
それだけ。
送ってみる。
『起きろ』
送信。
当然、既読はつかない。
分かってる。
分かってるのに。
また送る。
『会いたい』
『嘘だって言え』
『頼む』
『帰ってこい』
『好きだった』
『好きだ』
『好きなんだよ』
画面が涙で滲む。
初めて泣いた。
声なんか気にしなかった。
床に落ちて。
息ができなくなるくらい泣いた。
こんなに泣けるなら。
生きてるうちに一回くらい。
「好き」って言えばよかった。
数日後。
部屋を片付けていたら、一枚の写真が出てきた。
二人で笑ってる。
肩を組んでる。
俺は写真を抱きしめた。
紙なのに。
温もりなんかあるわけないのに。
必死に抱きしめた。
もう声も忘れてしまう日が来る。
笑い方も。
歩き方も。
癖も。
いつか思い出せなくなる。
それが一番怖い。
だから忘れないように、何度も名前を呼ぶ。
誰もいない部屋で。
返事なんか来ない部屋で。
「好きだった」
違う。
違うな。
「好きだ」
今でも。
これから先も。
お前だけなんだ。
でも、その返事は。
一生、返ってこない。
コメント
4件
多分💜死で、💛sideな気がする… 普通だったら、その人の心情をつらつら書いていくと確実に歯切れが悪い言葉になったりするはずなのに、全然そんなことない。 さすが絶対辰哉さんだなぁ〜って思いました!
ふぇぇぇ🥲 どっちの目線かわからないけど、どっちの目線でも成り立つ内容🥲
死ネタ地雷だったけどこれは表現美しすぎて好きだわ…