黙りこくって戦慄している善悪に代わって、同じくソシャゲ暦二十年を越えるコユキが口を開いた。
「あぁーこれって、あれね、所謂(いわゆる)『無理ゲ~』ってやつだねぇ? いやぁ、難易度から鑑(かんが)みれば、むしろ『クソゲ』かな? 初撃で倒さないと破壊不可能な改変持ちと組んでるのが、鉄壁かぁ! うん、軍隊とかなら兎も角、丸腰の日本人じゃまず倒せないよね~。 現実社会だからねぇ? ゲームってより、運営がゴミなのかなぁ? そうだねぇ、アタシなんか家族全員意識無くて苦しんでるんだし…… ねぇ? 運営? 神様なのかな? ホント『クソ運営』よねぇ? マジムカつくんだけど? 禄(ロク)でも無いネェ『運営神』様ってネェ~」
この魂の慟哭(どうこく)には、善悪もオルクスも只々頷くしか術(すべ)を持たなかった、只一人モラクスを除いて……
そして、モラクスはコユキに言った。
「お気持ちは分かります、ですが、神は越えられない試練は与えないと聞きます。 不肖(ふしょう)、私にも此度(こたび)の顛末(てんまつ)には、不明ながらも思う所も……」
「あ、そう! でも黙っていてね! モラクスっ! どうでもいいからっ! クソ運営の味方するなら出て行っていいからっ!」
モラクスはそれ以上言葉にする事が出来ずに、只俯く(うつむく)ことしか出来なかった。
コユキは善悪に向けて、いつに無く強い口調で言ったのだった。
「善悪! 心配しないで良いよ! 馬鹿な運営なんかに負けないからね! オルクス君もモラクス君も弟妹(きょうだい)連れて帰って来てあげるからね♪ 舐めんな! ここからコユキは本気で本気だ! 送っていって、善悪! あと、お金ちょうだい!」
「う、うん! チョット待っててね」
この観察を始めて以来、遂にコユキが運命に抗い、自らの意思で道を切り開く覚悟を決めた瞬間であった。
と同時に、なろう小説等で良く見る悲劇、調子に乗って強い敵キャラを出し続けてしまい、物語の中版辺りで次なる相手のネタが尽き果てて(大体エンシェントドラゴン辺り)、ピタリと更新が止まり、そのまま永遠、所謂(いわゆる)エターナルな存在になってしまう現象、『エタる危機』を遂に迎えたに見える『運営神』も、このピンチを、どう回避していくのかが試されていたのである。
現実社会の理不尽さに、脳内をアドレナリンでヒタヒタにさせたコユキは、その勢いのまま新幹線に乗って旅立って行った。
喰いっぱぐれ無い様に、チェックイン前に大量の飲食物を買い込んだコユキは、早々にポイ活に向いている、件(くだん)のホテルでベットの上に寝転んで考えた。
――――鉄壁と改癒か…… 全く、強敵過ぎるわよ…… 対してアタシが上回っているのは? 攻撃? もそこそこだけど、やっぱり素早さよね…… 後は幸福寺に残した三人のサポ、か…… まあ、出来る事を出し惜しみ無くやるしかないわね! とにかく動き捲くって撹乱して、後は出たトコ勝負しかないか!
ザックリと方針を固めた後は、体を起こし、買い込んできたお菓子類を食べながら、家族の事を考え、思わず独り言を呟いた。
「それにしても、今の所オルクス君の気配察知では、弟妹(きょうだい)達しか探知していないのよね、モラクス君は『馬鹿』状態でも魂集めする様子は見られなかったし、あの『消えちゃうズタ袋』も持っていなかったしなぁ、いつになったら黒幕に辿り着いて、家の人達を目覚めさせれるのかなぁ……」
言っていて、少し淋しくなってしまったコユキは、誤魔化すようにテレビを付け、丁度やっていたホラー映画を、食い入るように見つめるのであった。
映画を見終わったコユキは、シャワーを浴びている間中、何度も後ろを振り返っては周囲を確認し、眠る際には部屋中の照明を煌々(こうこう)と燈し、見た事も無いバラエティ番組を大きめの音量で流したまま、布団を頭から被ってガチブル状態で目を閉じたのであった。
不慣れなホラー映画で恐くなってしまったからだろうか?
その夜、コユキは不思議な夢を見た。
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