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#復讐
草原草原(くさはらそうげん)

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木風
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#サレ妻
都築七美
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月曜の昼、ラウンジの机に、三社の提案書が並んでいた。
一番上が、アクセル広告のものだった。『小さな式のための十二の約束』。
「十日に決まる」
一ノ瀬は、三冊を揃えながら言った。
「本部の会議室で、三社が順にやる。社長も出る。その場で決める」
「はい」
「君の企画が勝つ」
一ノ瀬は、私を見なかった。提案書の角を、机に揃えていた。
「本部には、私がそう出した。三社の中で一番いい。十年分だからな。当然だ」
「はい」
「名前は、彼のままだ」
「構いません」
「構わないのか」
「十二日まで、彼には高いところにいてもらいます。勝った男の高さが、一番高いので」
一ノ瀬は、提案書の束を、引き出しに入れた。
「名義は、後で請求する」
「はい」
「請求するのは、私だ。君ではない。君は、請求する側に立たなくていい」
私は、顔を上げた。
「……それは、契約書の外ですか」
「中だ」
一ノ瀬は、引き出しに鍵をかけた。
「企画を買ったのは、グランシエルだ。買ったものの名義を確かめるのは、買った側の仕事だ。契約書の中だ」
「はい」
「行け」
私は部屋を出た。階段の途中で、一度だけ、立ち止まった。請求する側に立たなくていい。その言葉を、封筒に入れるかどうか、決めなかった。
◇
夕方、相田法律事務所。
窓のない部屋で、相田は封筒の中身を、一枚ずつ机に並べた。申込書の写し。確認書。四十二枚の一覧。十九時十二分の写真。住所。出金と入金。柴田の記録。エプロンの写真。
並べ終えて、相田はペンを置いた。
「それは一般論ですが」
「はい」
「いつでも、出せます」
私は、息を吸った。十年で覚えた長さの息だった。
「写真は一枚だけですが、住所の一致と、出金と入金の一致と、第三者の記録がある。本人の言葉で『マンスリー』と書いたものもある。一般論として、十分です」
「ありがとうございます」
「ただ」
相田は、机の上の紙を、一枚だけ裏返した。出金の画面だった。
「相手が同意しないと、長引きます。相手が『そんなつもりはなかった』『妻が不安定で』と言い始めると、時間がかかる。時間がかかると、あなたが削られます。見なくていいものを、もっと見ることになる」
「夫は、そう言うと思います」
「言うでしょうね。この手の人は」
相田は、ペンを取り直した。
「だから、聞きます。あなたは、いつ出したいですか」
「十二日の後で」
「十二日に、何があるんですか」
「式があります。私が担当の式が」
相田は、それ以上聞かなかった。聞かない人は、この一か月で三人目だった。
「十二日の後で、彼のほうから、判を押したくなる状況にします」
「……」
相田は、ペンを止めた。
「そんな状況、作れますか」
「作るのが、仕事です」
相田は、私の顔を、少しのあいだ見た。見てから、紙を全部、封筒に戻した。
「では、十二日の後に」
「はい」
「それまで、何も出さない。何も言わない。相手に、何も気づかせない」
「はい」
「一般論ですが。段取りのいい依頼者は、初めてです」
◇
夜、会場の照明を落とした。
スクリーンだけが白く光っている。美咲が操作卓の前に立ち、私は主賓席に座った。入口から十二歩の、その席に。
「通します」
美咲が言った。
画面が、暗くなった。
『3/14』
日付が、先に出た。二秒。
『出会い。彼、『合宿』って言って来てくれた』
居酒屋の座敷。悠人は、私が知らない笑い方をしていた。
五秒。次。
『4/5』
『初デート。彼、残業って言ってた♡』
『6/20』
『彼、奥さんは魚嫌いなんだって。私は好き』
『9/4』
『誕生日の次の日♡ 本当の誕生日はこっち、って彼が言った』
『10/10』
『彼の『ゴルフ』の日♡』
『10/14』
『彼のおうち♡ 奥さんのエプロン借りちゃった』
私のキッチンが、会場のスクリーンいっぱいに映った。鍋。エプロン。歯を見せた笑い。
主賓席から見ると、スクリーンは大きかった。大きすぎるほどだった。十二歩の正面で、逃げる場所はなかった。
『10/20』
『式場の下見♡ 奥さんは今日休みだって』
『11/15』
『マンスリーって嘘ついて、私の部屋に♡』
最後。
黒い画面。
『奥さんから取り戻した日 12.12』
五秒。
画面が、消えた。
美咲は、操作卓の前で、何も言わなかった。私も、何も言わなかった。
会場の照明が、戻った。
「……秒数、全部合ってます」
美咲が言った。
「一文字も」
「足してない。引いてない」
「はい」
美咲は、操作卓の電源を落とした。落としてから、「チーフ、これ、主賓席から見ました?」と聞いた。
「今、見た」
「どうでした」
「逃げる場所が、なかった」
美咲は、うなずいた。うなずいて、「じゃあ、合格です」と言った。
◇
企画室に戻ると、スマホに柴田からメッセージが来ていた。
『佐倉さん、すみません、一点だけ。
部長が、当日サプライズで奥さんに花束渡したいって言ってます。高梨さんの奥さんに。「奥様へ」って札つけて、会の途中で。「裏で頑張ってる奥さんにも拍手を」って。
俺、どう答えればいいですか。奥さん来ないってことになってるし……』
私は、少しのあいだ画面を見た。
部長は、私が裏にいると思っている。裏で、全部を並べていると。その私に、花束を。会の途中で。全員の前で。
それは、部長が自分で持ってきたものだった。
『ご用意します』
私は打った。
『式場で手配します。札は「奥様へ」で。渡す時刻は、進行表に入れます』
コメント
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**みぅ🤍🥀:** 23話、読み終わりました……。 佐倉さんの、静かで正確な仕込みが一つずつハマっていく感じ、本当にぞくぞくしました。特に美咲とのリハーサル、主賓席から見たスクリーンの距離感が"逃げ場のなさ"そのもので。そして最後の柴田からの花束の報告……あれ、部長が自ら持ってきた"逆転の一手"になりそうな気がしてならないです。 12日がどう転ぶのか、息を止めて待ってます。連載、本当に毎回楽しみです🥀🤍