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一旦は席に戻った立里だが、しつこく俺のプライベートについて聞いてきて
やっぱ来るんじゃなかったなと思う。
(米田が俺がSSSランクのαなんて盛って話してなきゃこんなぐいぐい来られることもなかったってのに……っ。はあ、トイレ逃げるか)
そう考えていると、ふと隣で
向かいに見えないように自身の注文したグラスに錠剤のようなものを一粒入れる米田に目がいった。
こいつなにしてんだろ、と思いつつも
これ以上目の前の立里にぐいぐい話しかけられるの面倒だと思って
トイレに行くことを決定事項に適当に酒の注文を先に済ます。
そのとき間違って烏龍茶まで頼んでしまったが、キャンセルするのも面倒なので
酒が到着するまでの間、一人になりたいと思い
「悪い、ちょっとトイレ」
そう言って席から離れ、トイレに向かった。
個室に入りドアを閉めると深くため息をついた。
(…….はあ、やっぱり俺向いてねぇな。)
しかし、このままずっとここに篭ってても失礼だ。
このまま少し落ち着いたら戻ろう。
そう思って個室から出ると同時に、ポケットにしまっていたスマホからピロンっと通知音が鳴った。
誰からのメッセージだろうと思いつつも取り出すと、それは米田からで。
早く戻ってこいって呼び出しか?と思って
目を細めて下に表示されているメッセージ内容を覗く。
そこに表示されていたのは
「先輩、楓くん狙っていいですか?」という文で。
思わず、は?と声に出してしまった。
すぐにトーク画面を開いて「どういうことだ」と打つが、既読は無い。
そこで酔いが覚めたのとほぼ同時に
「帝都企業2社員が性的暴行被害、上司のα社員を強制性交等容疑で捜査」
という昔見た身内のニュースを思い出す。
といっても2年前だ、飲み友達でもあった一人のΩ
ただそれだけだった。
とにかくオドオドしてて
でも酒だけは強くて
見てるとハラハラするような奴
でもそいつはある日
同期に誘われた飲み会の席でαの上司に飲酒強要をされ
その酒の中には発情誘発剤が混入されていたらし く。
挙句の果てには暴行をされて結局、俺の友人は帰らぬ人となった。
そこで、さきほど米田が自身のグラスに錠剤のようなものを入れていたことにヒヤッとする。
それだけならまだしも、最悪を知らせるように
「ヤバいw楓くんハイパーΩらしいんすけど?!レア個体、美味しく頂かせていただきますww」
なんて下劣な酔っぱらいのメッセージが送られてき
もしかしなくても楓くんが危ない
そう思うと急いでトイレから飛び出し、席に向かった。
その途中に通りかかった店員に
「あ、お客様。こちらご注文の烏龍茶とカシスオレンジになります」
と渡され、烏龍茶はそもそもキャンセルしようと思っていたものだったが
断っている時間が惜しい。
俺は2つのグラスを受け取ると楓くんのいる席へと向かった。
すると丁度
「ほらほらー、ぐいっとさ!」
陽気にお酒のグラスを楓くんに押し付けているのが見え、間一髪で止めに入った。
「花宮さん」
内心焦ったが、まだ飲んでいない楓くんに一安心し、呼吸を落ち着かせて再び口を開いた。
「花宮さんお酒苦手でしたよね?これ、誤って烏龍茶頼んでしまったので、よければ飲んでください」
できるだけ不自然にならないように楓くんの目の前に烏龍茶の入ったグラスを差し出し
自分の席に戻った。
直後、隣の米田にだけ聞こえるように声をかける。
「米田、お前何してんの」
すると米田はビクっと肩を跳ねさせたが、続けるように詰める。
「さっきの気持ち悪いメッセージはなんだ」
「え、えっとぉ……」
米田はあからさまに目を泳がせてしどろもどろな様子を見せる。
俺はため息を吐いて
「会計終わったらツラ貸せ」と米田の耳元で呟いた。
「は、はい……っ」
そう返事した米田は、もう完全に酔いが覚めているようだった。
◆◇◆◇
PM7時50分
合コンは無事にお開きとなった。
会計を済ませて店を出て、楓くん含むΩ組と別れると
俺は早速本題に入った。
「お前さ、花宮さんに酒飲ませようとしてただろ」
「い、いや~…あはは…」
「笑って誤魔化せることじゃないよな。しかもお前ら二人で。自分が何しようとしたかわかってん
のか?」
「ちょっとした遊びっていうか…」
「俺、お前が錠剤入れるとこ見てんだわ。それでその後に花宮さんがハイパーΩだって知った途端その酒飲ませようとしたんだろ」
「普通に悪質だしな、今から察行くぞ」
「そっそんな!警察とか大袈裟すぎますって…!!」
「俺、最近やっとスタイリストとして雑誌に掲載されるの決まったとこなんですよ?!」
「知ってるよ。俺も応援してた。でもしたことがしたことだ」
「したことって…まだ何もしてませんよ!楓くんは現になんも飲んでないじゃないですか」
未遂に終わってるんだからいいだろ、という口ぶりに、俺は心底幻滅した。
前々からチャラチャラしたやつだとは思っていたが、仕事できるし
後輩力も高く、可愛いやつだと世話をしてきたつもりだったが
こいつはここまで腐ってたのかと落胆した。
「…お前、呆れるな」
失笑してそう言うと
「なにか害があったなら謝りますし察にも行きます
けど!こんなの若気の至りじゃないですか?」
なんて言葉が返ってきて、俺は深くため息をついて諦めたように言った。
「言いたいことはよく分かった。ほら、さっさと行くぞ、交番すぐそこだから」
「や、やですって!!俺のデザイナー人生どうなるんですか…!」
「あ?壊しかけたやつが何言ってる」
「ま、待ってくださいって!は、反省!反省してますから…!!」
「自分で蒔いた種を今更なに後悔してんだ。被害者面してんなよ」
「…そ、それは……っ」
不服そうな二人をまとめて警察署まで引き連れる。
俺は事情を全て話して、米田が楓くんに対してした悪質な行為を話した。
すると警察官は深く頷きながら話を聞いてくれた
「あとはこちらで対応いたしますので」
すんなりとそう言われ
俺はあとは任せることにして察署から出た。
今の時代、こういうことは厳しく取り締まっているし
米田の特集掲載は確実に中止になるだろうし
どっちも解雇か、最悪業界から追放されるだろうなと考えながら肩を落とし、帰路に着いた。