テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ドアが閉まる音が、やけに大きく聞こえた。
「……ここ、使うから」
いるまの声は低くて、短い。
感情を切り離したみたいな言い方だった。
リビングの隅に置かれた段ボール箱。
らんの荷物だ。
昨日「今日から家族」と言われたばかりなのに、家の中にはもう“境界線”がいくつもできていた。
「……うん、わかった」
らんは小さくうなずく。
笑おうとしたけど、口元だけが動いて、目がついてこなかった。
「洗面所は朝かぶるな」
「部屋、勝手に入るな」
「俺の物、触るな」
いるまは壁に寄りかかりながら淡々と言う。
まるで契約書みたいだった。
らんはメモ帳を取り出して、本当に書き始める。
「……そこまでするか?」
「忘れたら嫌でしょ」
その返事が素直すぎて、いるまは一瞬言葉を失う。
(……なんなんだよ、こいつ)
怒るでもなく、反抗するでもなく、
ただ「わかった」って受け取る。
それが逆に、落ち着かなかった。
段ボールを運ぶらんの腕は細い。
持ち上げるたび、少しふらつく。
(重いなら言えばいいのに)
思うだけ。口には出ない。
らんはいるまの視線に気づいて、ぱっと笑う。
「だいじょうぶ。軽いから」
強がりが下手だった。
いるまは目をそらす。
夕方。
部屋のドアが閉まる音がして、家が静かになる。
なのに、落ち着かない。
テレビをつけても、内容が頭に入らない。
(……いるな)
廊下の向こうに“誰か”がいる。
それだけで空気が変わる。
今までこの家には、母親と自分だけだった。
静かで、決まりきった空気。
そこに、もうひとつの呼吸が混ざっている。
壁一枚向こうの存在が、やけに近い。
夜、
水を飲もうとキッチンに行くと、明かりがついていた。
らんがグラスを両手で持っている。
「……」
「……」
沈黙。
冷蔵庫のモーター音だけが響く。
「先、どうぞ」
「いや、いい」
同時に言って、同時に止まる。
らんが小さく笑った。
「なんか、タイミングかぶるね」
その言葉に、いるまの胸が妙にざわつく。
(かぶるなよ)
生活も、呼吸も、時間も。
重ならないように線を引いたはずなのに。
自分の部屋に戻る。
ベッドに横になって、目を閉じる。
……静かじゃない。
遠くで床がきしむ音。
ページをめくる音。
誰かが動く気配。
(うるさい)
なのに。
(……安心するの、なんでだよ)
意味がわからない。
他人だ。
弟でもなんでもない。
ただ同じ家にいるだけのやつ。
そう思ってるのに。
眠る直前、いるまは小さく息を吐いた。
「……らん」
呼んだわけじゃない。
ただ、頭に浮かんだだけ。
それに自分で気づいて、眉をしかめる。
壁の向こうで、
らんもまだ起きていることを、
いるまは知らない。
そして、らんもまた、
(怒ってるよね、きっと)
そう思いながら、静かに天井を見ていた。
コメント
8件
すごい...なんなんだろう...やばいというか...なんというか...
…りゅ~せ~くん、どうしてそんなにかみねたがこうりんしてくるんですか((