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「わたしは、第二皇子殿下ではなく第一皇子殿下と踊りたいのです」
そこまで明確に言えば、ヨハンセンはわずかに目を見開いた。視線が絡み合うと頬が赤く染まる。
メリーティアの狙いどおりだ。
どうやらユージーンに劣等感を抱いているようだったため、彼よりもヨハンセンを選ぶと強調すれば気持ちが揺れるだろうと考えたのだ。
ヨハンセンはメリーティアの手を取ろうとしたが、寸前で引っ込めてしまう。
まだ押しが足りないかと頭を悩ませていると、彼は遠慮がちな視線を皇后へ向けた。
「は、母上……っ」
皇后は冷たいまなざしでメリーティアを見据えたあと、ヨハンセンに頷き返した。
(母親の許可がないとダンスも踊れないの……?)
親子の一連のやりとりを見ていて、メリーティアは皇后を誤解していたことに気がついた。
彼女はヨハンセンを溺愛しているからどのような手を使ってでも皇位につかせたいのではなく、自分が権力を握りたいから息子を皇帝にしようとしているのだ。
おそらくヨハンセンは、皇后の許しがなければ何もできないよう躾けられているのだろう。
メリーティアと踊る許可を出したということは、皇后はハイゼンベルグを第一皇子派に引き込む機会が訪れたと思っているに違いない。
ホールトン家が皇帝に忠誠を誓ったいま、第二皇子派はハイゼンベルグが最も強い勢力だ。そのためハイゼンベルグさえどうにかすれば、ヨハンセンの皇位は確実となる。
皇后の許しを得たあと、ヨハンセンがメリーティアに向き直る。
「わたしと踊ってくださるのですか?」
「……誘ってきた女に恥はかかせられないだろ」
「ふふ、うれしいです」
手をすくい取られ、中央のダンスホールにエスコートされた。
ホールドを組み、音楽に合わせて踊る。間近でじいっと見つめられるから微笑んでみせると、ヨハンセンは顔を真っ赤にして盛大にステップを間違えた。
「第一皇子殿下、改めてご生誕おめでとうございます」
「フン、そういう社交辞令はいらない」
そっけなく答えつつも、うれしそうなのが隠せていない。
ユージーンと家族が話している間、メリーティアはひっそりとヨハンセンのことを観察していた。
挨拶にくる貴族は誰もかれもヨハンセン本人ではなく、皇后に対して祝いの言葉を述べているように見えた。贈り物の類も、ほとんどが皇后の趣味嗜好に合わせたものに違いない。
父親のケイリクスは言わずもがな、息子の誕生日を祝うような性格ではないだろう。
彼は今もヨハンセンと踊るメリーティアを、ねっとりと絡みつくような視線で見つめている。
ケイリクスと目が合いそうになり、慌ててヨハンセンに視線を戻した。
彼はもごもごとためらいがちに口を動かしてはやめるのを繰り返す。これまで彼を心から祝ってくれる人間などいなかったのだろう。素直に「ありがとう」と言う方法も忘れてしまったようだ。
「……あんたさ、本気でユージーンより俺のほうがいいっていうのか?」
「はい」
「嘘じゃないよな?」
もあ
44
鬼霧宗作
50
#復讐
りう。
45
さぶれ-SABURE-
1,239
「殿下がいちばんすてきです」
「や、やっぱり嘘だ。そんなわけない」
「どうして疑うのですか?」
ヨハンセンは下唇を噛み締め、口ごもる。
「……そりゃあ疑いもするだろ。だって、みんなユージーンのほうに行くんだ」
「みんな、とは?」
「俺の周りにいるやつみんなだ」
ヨハンセンはユージーンのいるほうを横目で見て、ぎゅっと眉を寄せた。
「あそこにいるグウェンダルだって……あんなに俺を支持してくれって頼んだのに、ユージーンとばかり仲良くしてる。結局父上に忠誠を誓ったけどさ、たぶんあいつは争いを避けたかっただけで、ほんとはユージーンを支持したかったはずだ」
「決してそんなことは……」
「いいや、俺だってわかってるんだ。ユージーンが優秀なことも、いいやつだってことも。あいつは俺にだって親切だ。だからこそ余計にわからない。あんたがなぜ俺を選ぶのか」
うつむいてしまうヨハンセンを覗き込む。彼は拗ねた子どものような表情をしていた。
ただの乱暴な男性なら篭絡するのに苦労するだろうと思っていたが、これなら容易いと心でほくそ笑む。
「完璧な男性って、わたしにはあまり魅力的に思えないんです」
「俺がみんなより劣ってるって言いたいのか?」
尖った目を向けられても、メリーティアは慈愛の笑みを崩さない。
「少しくらい劣っていてもいいじゃないですか。殿下は殿下です」
ヨハンセンの警戒が緩んだのが感じ取れた。
「……でも、がんばらないと誰もこっちを見てくれない。ユージーンよりすごくないと母上は俺を愛してくれない。皇子だから、母上が皇后だからみんな無理して機嫌をとろうと寄ってくるけど、俺がだめなやつだってわかるとすぐに離れていく」
「無理をしてがんばる必要はないと思いますよ」
「でもそれじゃだめなんだよ! なのにがんばっても、俺は何も上手くやれなくて……っ」
「すごくない殿下でも、がんばらない殿下でも、わたしは好きです」
ヨハンセンが弾かれたように顔を上げる。瞳がゆらゆらと揺らいでいた。
ダンスが終わり周囲が挨拶を交わすなか、メリーティアはヨハンセンの頬を両手で包み込む。
「わたしがぎゅーって抱き締めてあげたいと思うのは、あなただけです」
聖母のようなまなざしを意識して見つめれば、ヨハンセンはごくりと生唾を呑んだ。
「……テラスでもう少し話さないか」
「ええ、喜んで」
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