テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#コメディ
#モキュメンタリーホラー
ひのめこがね
23
156
かんすい
35
宮川――みやがわは、今日も走っていた。
放課後の校庭。
誰もいないトラックを、ただひたすらに周回する。
足音だけが響く。
一定のリズム。
呼吸と心拍が、きれいに噛み合っていく。
(この感じ、好きなんだよな)
ゲームみたいだ、と思う。
レベルを上げるみたいに、少しずつ速くなる。
無駄な動きを削っていく感じ。
「……あと一周」
小さく呟いて、加速した。
そのとき。
視界の端に、“何か”が映った。
トラックの内側。
白線のすぐ内側に、小さな光。
「……?」
走りながら、ちらっと見る。
それは――
丸い、ボタンのようなものだった。
地面に埋まっている。
明らかに、普通じゃない。
(……ゲームなら押すやつ)
考えるより先に、体が動いた。
足を少しだけ内側に寄せる。
――踏んだ。
カチッ。
◇
「……は?」
気づくと、スタート地点に立っていた。
トラックの一番最初。
さっきまで走っていたはずなのに、息が整っている。
疲れもない。
「……え?」
振り返る。
さっきの場所。
そこに、あのボタンは――
ない。
「……なんだ今の」
とりあえず、もう一度走る。
同じペース。
同じリズム。
そして、同じ場所に来たとき――
あった。
また、あのボタン。
今度は、ちゃんと見る。
丸い。小さい。ほんのり光っている。
そして、表面に文字。
『RESET』
「……はは」
思わず笑った。
「まんまじゃん」
踏む。
カチッ。
◇
また、スタート地点。
息は乱れていない。
体は軽いまま。
でも今度は、分かる。
「……戻ってる」
完全に、時間が巻き戻っている。
さっき走った分も、なかったことになる。
「……へぇ」
みやがわは、少しだけ目を細めた。
面白い、と思った。
ゲーム好きの血が騒ぐ。
「じゃあさ」
軽く屈伸する。
「どこまで詰められるか、やるか」
◇
それから。
何度も、何度も走った。
フォームを変える。
腕の振りを調整する。
呼吸のタイミングをずらす。
少しでも遅いと思ったら――
カチッ。
やり直し。
また走る。
また修正。
またリセット。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
◇
どれくらい繰り返したか、分からない。
でも――
「……これだな」
みやがわは、確信した。
無駄のない一歩。
完璧なリズム。
自分の中で、すべてが噛み合っている。
走り出す。
軽い。
速い。
今までで一番、いい。
ボタンの位置が近づく。
でも――
踏まない。
そのまま通り過ぎる。
ゴールラインへ。
一直線。
そして。
――ゴール。
「……よし」
息が上がる。
でも、それが心地いい。
ちゃんと“走り切った”感覚。
そのとき。
後ろで、カチッと音がした。
「……え?」
振り返る。
誰もいない。
でも、確かに音はした。
そして。
視界が、暗転する。
◇
「……あと一周」
みやがわは、走っていた。
いつもの放課後。
いつもの校庭。
さっきと同じ状況。
でも――
違う。
(……あれ?)
なんか、知っている。
この感覚。
このリズム。
この一歩。
無意識に、体が“最適”を選んでいる。
「……なんだこれ」
少しだけ笑う。
理由は分からない。
でも――
「まあ、いっか」
走るのは楽しい。
それで十分だ。
そのまま、加速する。
トラックの内側。
白線のすぐ内側に、小さな光が――
一瞬だけ、見えた気がした。
でも、みやがわは気にしない。
ただ前を見て、走り続ける。
――リスタート地点は、もう踏まなくていいところにあるから。