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かんすい
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宮川――みやがわは、今日も走っていた。
放課後の校庭。
誰もいないトラックを、ただひたすらに周回する。
足音だけが響く。
一定のリズム。
呼吸と心拍が、きれいに噛み合っていく。
(この感じ、好きなんだよな)
ゲームみたいだ、と思う。
レベルを上げるみたいに、少しずつ速くなる。
無駄な動きを削っていく感じ。
「……あと一周」
小さく呟いて、加速した。
そのとき。
視界の端に、“何か”が映った。
トラックの内側。
白線のすぐ内側に、小さな光。
「……?」
走りながら、ちらっと見る。
それは――
丸い、ボタンのようなものだった。
地面に埋まっている。
明らかに、普通じゃない。
(……ゲームなら押すやつ)
考えるより先に、体が動いた。
足を少しだけ内側に寄せる。
――踏んだ。
カチッ。
◇
「……は?」
気づくと、スタート地点に立っていた。
トラックの一番最初。
さっきまで走っていたはずなのに、息が整っている。
疲れもない。
「……え?」
振り返る。
さっきの場所。
そこに、あのボタンは――
ない。
「……なんだ今の」
とりあえず、もう一度走る。
同じペース。
同じリズム。
そして、同じ場所に来たとき――
あった。
また、あのボタン。
今度は、ちゃんと見る。
丸い。小さい。ほんのり光っている。
そして、表面に文字。
『RESET』
「……はは」
思わず笑った。
「まんまじゃん」
踏む。
カチッ。
◇
また、スタート地点。
息は乱れていない。
体は軽いまま。
でも今度は、分かる。
「……戻ってる」
完全に、時間が巻き戻っている。
さっき走った分も、なかったことになる。
「……へぇ」
みやがわは、少しだけ目を細めた。
面白い、と思った。
ゲーム好きの血が騒ぐ。
「じゃあさ」
軽く屈伸する。
「どこまで詰められるか、やるか」
◇
それから。
何度も、何度も走った。
フォームを変える。
腕の振りを調整する。
呼吸のタイミングをずらす。
少しでも遅いと思ったら――
カチッ。
やり直し。
また走る。
また修正。
またリセット。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
◇
どれくらい繰り返したか、分からない。
でも――
「……これだな」
みやがわは、確信した。
無駄のない一歩。
完璧なリズム。
自分の中で、すべてが噛み合っている。
走り出す。
軽い。
速い。
今までで一番、いい。
ボタンの位置が近づく。
でも――
踏まない。
そのまま通り過ぎる。
ゴールラインへ。
一直線。
そして。
――ゴール。
「……よし」
息が上がる。
でも、それが心地いい。
ちゃんと“走り切った”感覚。
そのとき。
後ろで、カチッと音がした。
「……え?」
振り返る。
誰もいない。
でも、確かに音はした。
そして。
視界が、暗転する。
◇
「……あと一周」
みやがわは、走っていた。
いつもの放課後。
いつもの校庭。
さっきと同じ状況。
でも――
違う。
(……あれ?)
なんか、知っている。
この感覚。
このリズム。
この一歩。
無意識に、体が“最適”を選んでいる。
「……なんだこれ」
少しだけ笑う。
理由は分からない。
でも――
「まあ、いっか」
走るのは楽しい。
それで十分だ。
そのまま、加速する。
トラックの内側。
白線のすぐ内側に、小さな光が――
一瞬だけ、見えた気がした。
でも、みやがわは気にしない。
ただ前を見て、走り続ける。
――リスタート地点は、もう踏まなくていいところにあるから。