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レイルから淡々と告げられた内容は驚くことばかりであった。
世の中で出回っている情報は誤り。エルドウィンは病死したっというのは国王とその異母弟、パトラス侯爵が仕組んだ裏工作だった。
そうしなければ命を狙われ続けたから。
第二王妃クレストスは自分の子供、アドリアンを王太子にするために毒殺を企てた。
王位継承権は正妃の子供が高くなる。生まれた順関係なく。
それはアドリアンとエルドウィンの関係が表していた。アドリアンが一年早く生まれたのにも関わらず王位継承権は第二位。
自分の子供をどうにかして国王にしたいクレストスは手段を選ばなかった。それが正妃暗殺であった。
ただ、猛毒をもるのではなく、徐々に少量の毒をもり続けた。結果は言うまでもなく、もともと病弱であった正妃にとって常人では気が付かない量の少量でも致命的で、異常を察知した時には時すでに遅かった。
当時幼かった5歳のエルドウィンも急な体調不良が続いたが正妃が亡くなった後、生死の山場を迎えたが、かろうじて生き延びることができた。
この時すでに犯人は特定されていた。だが、形としての証拠がない。
国王と宰相は他国に弱みをこれ以上晒すことは避けたかった。
そのため、パトラス侯爵と国王は死んだことにした。そして、隠れ蓑のためパトラス侯爵家三男として過ごすことになり、エルドウィンは母親と一緒に亡くなったと記録を改竄した。
レイル=パトラスは愛人との間にできた子供というふうにした。
このことを知っているのは国王と宰相の二人と、セバスのみ。
結果は幸いし、レイルは無事健康児として健やかに育つことができた。
髪色は染色し、瞳はコンタクトで誤魔化して。
その容姿でエルドウィンとわかる人はいないだろう。
国王が何故アドリアンを王太子に推したかは第二王妃を抑止するため。
また、国の混乱を直ちに鎮めさせたかったという理由もあるだとか。
「私は恵まれていた。環境も才も。だからこそ生き存えることができた」
なんと言葉をかければ良いのだろう。
このような壮絶な過去を話され反応に困る、それはレイルもわかっているようで、一端を語ったレイルの表情は曇っている。
だが、今のレイルにかけるべき言葉は慰めの言葉でも、励ましでもない。
この気持ちを共有してほしいとも違う。
考えて僕が言うべきふさわしい言葉は、何故今この状況で話したかということ。
「……何故今まで言わなかった?」
聞くべきことがあった微かに浮かぶ疑問。
秘密は誰にだってある。僕だってそうだ。
数秒思考、わずかに俯き話す。
「……母上が残した遺言書、セバスから聞いた真実、復讐するつもりでいたんだ。クレストスも、アドリアンも殺そうと考えていた。……だが、君たちと関わる中でその考えはなくなった。母上も幸せになることを望んでいた、私も今ある環境を大切にしたいと思った。友人に要らぬ心配をかけたくなかった……だから黙っていた。……だが、状況が変わった。このままでは我が国は衰退する」
……現状はかなり悪化しているようだな。レイルなら一人でも対策できるだろう。それだけの手腕がある。でも、僕たちに事実を話してまで協力を得なければいけないという状況に陥っているのだろう。
レイルは何を疑問に思ったのか眉にシワがよる。
「……驚かないんだな」
「いや、驚いたさ」
確かに自分は死んだ王子でした、なんて言われたら驚くよな。
でも、なんとなく何かあるんじゃないかと思っていた。
セバスさんのこと、侯爵の息子にしてもできる範囲が度がすぎていた。
僕や他領の痕跡調べたり、セバスさんの存在。頭が良すぎるし、王女と仲良かったりと。
「僕の過去漁られたりしたらね……」
「……なるほどな」
いや、レイル自覚なかったんかい。それにウェル、睨まないでよ。
だから、その旦那様にご報告するか考えるのやめてくれない?
まぁ、ともかく。
「レイル……エルドウィン殿下とお呼びした方が?」
「好きに呼んで構わない」
「なら、レイルで……」
「随分とあっさりしているんな」
「驚きを通り越しているだけだよ」
呆れたレイルだったが、ゆっくりと深呼吸をしていた。
過去を話し終えスッキリしているように見える。
「ちゃんと驚いたさ。ねぇ、ウェル」
「……まぁ。アレン様のせいで驚きなれたというか」
「……随分と肝が据わっている」
その場にいる者は苦笑いをしていた。だが、先ほどまでの緊張感などなくなっていた。
ひと段落ついた。そこで、僕は気になっている質問をする。
「それで……ギルメッシュたちが実家に帰ったのも」
「ああ、二人にも伝えてある。快く受け入れ引き受けてくれたさ」
「そうか……」
これ以上は何も聞くまい。
まとめて伝えなかったのは一人一人反論や反応が違うため、丁寧な対応をしたかったからなのだろう。
推測でしかないが、レイルが一人一人懇切丁寧に話す機会を設けたということは、それだけ慎重だったということ。
話す前、緊張していた点から予測がつく。
レイル=パトラスは用意周到な人物だから。
……そういえばアリスと結構話し込んでいたんだったな。
今朝のフローラの件も手を回しているかもしれない。
「今朝アリスがフローラと接触してきたが、レイルの根回しかい?」
「なんだ、知っていたのか」
「偶々遭遇したんだよ。どうする気なんだい?暴走されたら困るのはレイルなんじゃ……」
「いや、心配することはない。計画通り根回ししただけだからな」
「……今後の計画を聞いても?」
「そうだなーー」
皆がそれぞれ動き出しているなら僕にも役割があるはずだ。
それからレイルから話を聞くと、驚くべきことがわかった。
まずはフローラを国家反逆罪に嵌めようとしている。そのための証拠集めを始めるとか。
アリスからの情報を逆手にする。
わからない情報が行き交い、ウェルは首を傾げている。
……今後の計画を聞く限り僕の協力は不可欠だろう。何故この場にウェルを同席させたのかもようやくわかった。
今後僕だけでは役者不足だしーー。
「……僕に攻略されろと?」
「あくまで君次第だ。今日メーデン嬢にアリスが逆ハーレムルートは諦めろと伝えた。明日、逆ハーレムルートの最終手段を行使するだろうな」
「さりげなく怖いこと言わないでよ」
「逆ハーレムルート……あの、申し訳ありません。さっきから一体何を仰って……」
ウェルには全てを話しておくべきだろう。
「ウェル、後で全て話すから今は黙っててほしい……。レイル色々と情報が足りないから、説明をお願い」
「ああ。そうだったな」
ウェルはコクリと頷く。
そして、話を進めるためアリスからの情報を得た後、ギルメッシュとクルーガーに順に話をして人材や裏ルートの情報を集めている。
乙女ゲームの裏技でお助けプレースと呼ばれる、カフェテリアがある。
カフェテリアは裏で麻薬や、媚薬を扱う店らしい。クルーガーの十方セバスさんの調べで裏ルートから薬の類の入手、一定条件で使用されていることが判明している。
1年前からフローラはアドリアンとオーラスと時々訪れている時だ。
乙女ゲームの世界では単なるお助けプレースと呼ばれる、カフェに行けば好感度が一気に上げることができるとか。
もう麻薬だな。先日クルーガーが言っていたこともあながち間違ってなかったか。
それでいいのか乙女ゲーム。いや、たぶん運勢のサービスみたいなものなのか?
ただでさえ高難易度の逆ハールート、運営側が後で追加パッケージで増やしたコンテンツなのかもしれない。
レイルが僕に求めているのはスパイとして立ち振る舞うことだ。
攻略されるフリをして情報を集める。
今も証拠を集めているが決定打になるやつがないとか。
なんでここまでやるのかと聞いたらーー。
「このままではこの国は滅びる。それに、母上が大好きだと言ったこの国を守りたいんだ」とのことだ。そう話したレイルは懐かしめるように微笑していたが、目は本気だった。
「……わかった協力しよう。だが、その前にアレイシアとラクシル様に話は通しておきたい」
「わかっている。公爵閣下には私から伝えよう。アレイシア嬢の説得は任せた」
「言い方おかしくない?浮気じゃないんだからさ……とにかく、このまま何もしなかったら内乱が起こるかもしれない。血生臭いのはごめんだね」
「かも、ではなく絶対に起こる。今の学園の姿は他貴族に流れている。不満が募り始めている」
アドリアンが即位することを阻止せねばいけない。
「詳細はこの紙に書かれてある。後で目を通しておいてほしい」
レイルが部屋を出る際、一通の便箋を渡してきた。
帰った後、手紙に目を通して現状の情報を再び整理した。
だが、最後の方に書かれていた内容を見て驚いた。
【追伸、私はアリス曰く。復讐心で国を滅ぼそうとした隠し攻略キャラというものらしい。ゲームでは主人公が寄り添い闇に染まった心を癒すとか。どうやら アレンというイレギュラーでシナリオが破綻したらしいな】
ま、マジですか。
確かにありそうだなその設定。
驚きの連続であったがことなきを得た。
明日はアレイシアに話をしよう。今後のことを。
それはフローラが来た際はしっかりと話し、カフェテリアに行く約束を取り付けなければ。
一先ず明日の朝、講義の始まる前に庭園で一度話したいという旨を記載した手紙を用意する。もちろん学園に通っていたら、無理をしないようにという心配メッセージも加えておいた。
また、今回の話でウェルにはこの世界の乙女ゲームだということ、前世があることを話した。
一瞬目を見開いていたが、そのあとはーー。
「俺より精神年齢高いのに赤ん坊の振りとか……恥ずかしくないんですか?」
「……それはもう言わないでくれないかな?」
過去の黒歴史を掘り返され、就寝した時にはフラッシュバックで過去の記憶が沸いてきて睡眠不足になってしまった。
だが、僕の見通しは甘かった。
もう少し計画を練るべきであった。そのせいで僕は一触即発の修羅場に巻き込まれてしまった。