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「ああ、心配いらないよ」
戸惑い、慟哭する彼等を他所に、ノクティスが投げ掛けた言葉。
一体何が心配いらないのか?
瞬間ーーノクティスの掌に在る心臓が光に包まれ、やがて消える。
『ーーっ!?』
三人は驚愕。それと同時にアミの左胸の血溜りは一瞬で塞がり、否ーー最初から無かったかのように。
「えっ? わ……私、どうして?」
同時にアミの意識も戻る。勿論、彼女自身も困惑していた。
「姉様! 良かったぁ」
「アミ、大丈夫? 何ともない?」
ミオとユーリはアミが無事だった事に安堵するが、ユキはーー違った。
「キ、キサマぁぁ! アミにーー何をした!?」
激怒するユキ。これが何事も無い筈がないからだ。
「彼女と私の心の臓をシンクロさせた。簡単に云うと、彼女は私と一心同体になったという事だよ」
ノクティスは涼しげな表情で、アミの身体に起きた事を説明した。
「何……だと?」
ユキはその事実に、言い様の無い憤りを感じる。ノクティスの言っている事が事実だとすると、最早取り返しがーー。
「悠久の命を与えるだけならここまでする必要は無いし、あまり誉められた方法ではないけど、君を納得させる為に必要な事だと思ってね」
淡々と語るノクティスに、漸くユキ以外も気づいたーー思い知らされた。
「そ、そんな……姉様が」
「私が……悠久の?」
「冥王ーーノクティス様! それは幾らなんでもあんまりです!」
アミが既に狂座の者と同じ存在となった事を。しかも彼等とは決定的に状況が異なる。
「さあこれでチェックメイト、将棋で云う詰みだ。彼女は生きるも死ぬも私と共同。君は彼女の為にも、選べる道は一つしかない」
最早状況は完全に詰んだのだ。仮にノクティスを倒した処で、それはアミの死も意味する事を。
それが分かっているからこそ、ノクティスは確信を以てユキへ問い掛けた。
狂座ーーノクティスと共に歩むしかないという道を。
*
“こうなってしまった以上、もうどうしようもない。ユキにも分かるはず……”
この状況にユーリは無念そうに奥歯を噛み締めた。現状は自分自身が一番理解している。形は違えど、自身も悠久の刻に囚われているのだから。
“キミがノクティス様と共に行く事は、誰にも責められない。ううん、責めちゃいけない。ボク達は受け入れなきゃいけないーー”
ユーリはこれからの事に想いを馳せる。これからは最強の軍団育成の為、自分達はユキの子を孕み、産み落とし続けるだけの存在となる。
“彼が神を超越する、その時までーー”
その事で彼を責めたりも、ましてや軽蔑もしてはいけないーーと。
不意にユキが立ち上がり、決意したのかノクティスの方へ身体を向ける。
「ユーリ、ミオ」
彼は決意したのだ。それが痛い程に分かっているから、誰も口出ししなかった。
「アミを頼みます。巻き込まないよう側へ」
『えっ!?』
だからこそ、次にユキが発した言葉は驚愕するしかなかった。これではまるで、完全に詰んだこの状況で尚、抗い闘うつもりとしか。
ユキは一度振り返り、アミの下へ腰を降ろす。そして彼女の手をそっと握る。
「アミ……済みません。こんな事に貴女を巻き込んでしまって」
そして深々と彼女へと詫びた。
「ユキ……」
“謝らないで”
悲痛な表情で詫びるユキ。アミとしては謝っても、ましてや自分を責めて欲しくはなかった。これは抗えぬ運命。なら彼が望むなら、自分は何処までも着いていくーーと。
「少しだけ……待っていてください。貴女を悠久の刻に縛り付ける事も、死なせる事も“絶対”にさせませんからーー」
何かを決意したかのように再度立ち上がり、ユキはノクティスの方へ向けて歩み出す。
アミはその姿に涙する。行かないで欲しかった、闘わないで欲しいーー。その願いが聞き入られる事は、きっと無い。
“それが他の何者でもない、ユキだからーー”
だからこそ三人はーーアミはユキの行く末を見守り、見届ける以外を“してはいけなかった”。
*
“身体はボロボロ、相手は強大。更には悠久に縛られたアミ。普通に考えて、この選択は無謀だし有り得ない……”
ユキはノクティスへ向けて歩みながら、現状を冷静に思考する。
ノクティスの言う通り、状況は完全に詰んでいる。
「これは意外だ……。君が取るべき道は一つしかない筈だが?」
ノクティスもユキの抗う姿勢に意外そう。それでも、玉座から立つ事はない。
「何度も言うように、私が取るべき道は一つーー」
ユキの居合いの構え。それは明確な臨戦態勢。
“だけど後悔はしない。自分で選んだ道だから”
「アナタを倒し、アミも必ず助ける」
“アミを守るーーその誓い。それだけは……絶対に”
「いざ、参る」
重心を前へ。神速の居合いで一瞬で決めるつもりだ。対するノクティスは未だ玉座に居座ったまま。
「どんな状況でも、その瞳に絶望の色は無い……か。やはり君こそが私の伴侶に相応しい。それに、この状況をどうするのか興味が湧いた。いいよ、抗ってごらん」
ノクティスは玉座に居座ったまま、ユキの戦闘意向を受け取った。その金銀妖眼を期待に輝かせながら。
絶対に“有り得ない”と確信しているが、仮に自分を倒せても、自身とシンクロさせている以上、守るべき者も死ぬのだ。
「君の全てを込めてーーね」
だからこそ俄然興味が尽きない。不可能に臨む、ユキの姿勢に。