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aohana
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まぁ
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#政略結婚
常陸之介寛浩
146
「五百万ドゥレだ」
ギルド長パウエルは、円卓の上に一枚の書類を放り投げた。
「シード。貴様が拾ってきた娘に、ギルド・|黄金秤《リブラ》が投じた金額だ。さて──この損失、どう落とし前をつけるつもりだ?」
聴聞室に集められた幹部たちの視線が、一斉に俺へと向けられた。
円卓の中央には、小柄な少女──ミアが立たされている。
今年十五になったばかりのミアの手首には、債務者を拘束するための鉄の枷が嵌められていた。
俯いた顔は青ざめ、握り締めた指先が小さく震えている。
「損失……というのは?」
「とぼけるな! 『鑑定の儀』の結果が出ただろう!」
パウエルが吠えた。
鑑定の儀。教会が主導する儀式で、大陸中の子どもが十五歳になる年に受けるものだ。
そこで初めて、天より授かったスキルの名とランクが判明する。
どんなスキルを授かるかによって、その後の人生は大きく左右される。
──そう、今のミアのように。
「ランクDマイナス。【空っぽな器】──保有魔力をゼロとする正真正銘の外れスキルだ!」
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
ミアの唇から、掠れた声が漏れた。それでも彼女は顔を上げ、縋るようにパウエルを見る。
「お願いします。もう一年だけ、稽古を続けさせてください。雑用でも、盾役でも何でもします。今まで以上に頑張りますから……!」
「ふん。五年も待った結果がこれだ。これ以上、何を待てという」
少女の必死の訴えを聞き、パウエルは鼻で笑った。
「努力したところで、空の器に魔力が湧いてくるわけではないだろう」
「ですが、私は──」
「黙れ!」
鋭い一言に、ミアの肩が跳ねた。パウエルは彼女から興味を失ったように、再び俺へと目を向ける。
「貴様が将来有望だと強く推薦したからこそ、ギルドはこの娘の生活費と訓練費を立て替えた。だが、その見込みは完全に外れたわけだ」
「……まだ外れたと決まったわけじゃないだろう」
「戯言を。シード、貴様も鑑定されたスキルを見ただろう?」
パウエルの嘲るような言葉に、俺は言い返す。
「この五年、ミアの剣術成績は常に上位だった。模擬戦では、魔力を使える連中にも勝っている」
「だから何だ?」
パウエルは冷たく言い放った。
「魔力を持たぬ剣士など、実戦では何の役にも立たん。貴様のくだらん情に付き合って、これ以上損失を増やすつもりはない」
傍らに控えていた事務官が、別の書類を掲げた。
「育成契約は本日をもって解除されます。未返済となっている五百万ドゥレについては、奉公契約をヴァルドール伯爵家へ譲渡することで清算する予定です」
ミアの顔から、さっと血の気が引いた。
「奉公、契約……?」
「ええ。伯爵家が所有する魔鉱山で働いていただきます。君のような者でも、可愛がってくれる者が大勢いますよ」
事務官は、薄い笑みを浮かべた。
魔鉱山送り。崩落と魔物被害が絶えない坑道で、身体が潰れるまで働かされる。
若い女であれば、鉱夫たちの慰みものにされることも珍しくない。
どちらにせよ、まともに生きて帰れる場所ではなかった。
事務官は、そんな惨たらしい末路を平然と語っている。
それどころか、その瞳には隠しきれない嗜虐の色が見え隠れしていた。
少女の未来が失われる姿を、楽しんでいるのだろう。
(──ハゲタカ野郎が)
俺は内心で吐き捨て、口を開いた。
「少し待て」
事務官の笑みが、一瞬だけ固まる。
「鑑定結果が出たのは、今日の朝だったはずだ。どうして、もう譲渡先が決まっている?」
パウエルが苛立たしげに、円卓を指で叩いた。
「手続きが早いことに、何か問題でもあるのか?」
「普通なら、まずはギルド内の下働きに回して返済させる。そこで新しい適性が見つかる可能性もある。それが、いきなり魔鉱山への奉公契約とは──随分と手回しがいいと思ってな」
「黙れ、シード」
パウエルは、不快そうに言い放った。
「これはギルド長である私の決定だ。貴様は、自分の見立てが外れた責任だけを考えていればいい」
──見立てが外れた。
本当にそうなのだろうか。
俺はミアへ視線を向け、密かに鑑定を発動する。
(……原石鑑定!)
俺が念じると、他人には見えない淡い文字が視界に浮かび上がった。
到達予測:紫紺の剣聖
到達予想値:120億ドゥレ
実現度:82パーセント
このスキルは、十年後に大成した姿を、そのポテンシャルを測定できるものだ。
長年の経験でスキルの効果を確信した俺は、ギルド・|黄金秤《リブラ》では将来有望な人間を発掘するスカウトとして働いてきた。
俺とミアの出会いは五年前。
孤児院で木の棒を振っていた十歳のミアを初めて鑑定したとき、実現度は66パーセントだった。
それが今では、16ポイントも上昇している。
ミアは毎朝、誰よりも早く訓練場に立っていた。
手の皮が破れても、剣を振ることをやめなかった。
この五年間は、何一つ無駄になっていないのだ。
「……やっぱり、間違ってない」
俺が呟くと、パウエルが眉を寄せた。
「何がだ?」
「俺の見立てだ。ミアの価値は、五年前から一度も下がっていない。それどころか、順調に上がっている」
「まだ戯言を言うか!」
パウエルは円卓を叩いた。
「そこまで言うのなら、貴様が責任を取れ! この娘の負債五百万ドゥレを、貴様自身が支払ってみせろ!」
幹部たちの間から、嘲るような笑いが漏れた。
五百万ドゥレ。一般的な冒険者なら、十年以上働いても返せるか分からない金額だ。
俺にとっても、決して軽い額ではない。
払えば、これまで蓄えてきた資金が丸ごと消えてお釣りが来るレベルだ。
それだけではない。
ギルド長の決定を覆せば、十年かけて築いた立場も、取引先も失うことになるだろう。
だとしても──。
「シードさん」
ミアが小さく首を横に振った。
「もう、いいです」
身体は震えているのに、無理に笑おうとしていた。
「私が駄目だったんです。これ以上、シードさんにまで迷惑をかけるわけにはいきません」
その言葉を聞いて、迷いは消えた。俺は懐に手を入れ、商業ギルドが発行した預金証書を取り出した。
「五百万ドゥレ。”それっぽっち”でいいんだな?」
もう一度、その値段を口にする。
「シード……さん?」
ミアが目を見開いた。
目の前にいるのは、将来120億ドゥレ払っても手に入らなくなる剣聖の原石だ。
しかも、この五年間で実現度は順調に育っている。
それを、たったの五百万ドゥレで手放すだと?
同情を抜きにしても、答えは一つしかないというものだ。
「……安すぎる」
俺は預金証書を、円卓の中央へ叩きつけた。
「シード?」
「喜んで払うさ」
パウエルの表情が固まった。
「トチ狂ったか? それとも、商品に情でも湧いたか?」
「いたって合理的な判断だ」
「ふん。慧眼のシードも衰えたか」
パウエルの言葉に、聴聞室に失笑が響く。
俺の原石鑑定で見つけた人材を使い、こいつらは散々利益を上げてきた。
それなのに教会の鑑定結果が一枚出ただけで、本人の努力も、これまでの成果も、すべて無かったことにされるとはな。
こいつらは、はなから俺の目利きなんてものを信じてはいなかったのだ。
そう気づいた瞬間、目の前で俺を責め立てるパウエルが、ひどく滑稽に思えた。
「ミアの負債は、俺が全額肩代わりする。育成契約も奉公契約も、俺が買い取る。それで問題ないよな?」
「なっ……!? 問題大ありだ!」
俺が確認すると、パウエルが椅子を蹴って立ち上がった。
「魔鉱山を管理しているヴァルドール伯爵家とは、すでに話がついているのだぞ!」
「いつ話をまとめたのやら」
どこまでもきな臭い話だ。俺は立ち上がり、事務官が持つ書類を指さした。
「負債を全額返済すれば、契約は解除できる。それが|黄金秤《リブラ》の規則だろう」
事務官の顔が引きつった。パウエル共々、口を開いたまま何も言えずにいる。
反論はない。それが答えだった。
「聞いたか、ミア」
俺はミアへと向き直る。呆然と俺を見つめる少女に、手を差し出した。
「そういうわけで、ミアはこれまで通り訓練を続ければいい」
「っ! ど、どうして、そこまで……?」
「お買い得だったからな」
俺は笑った。
「あまりにも安すぎた」
ミアが、大きく目を見開いた。
「認めんぞ……!」
そのとき、背後からパウエルの怒声が響いた。
「何をだ? ギルドの規則に従ったまでだが」
「黙れえっ! ギルド長である私の決定を公然と妨害し、ヴァルドール伯爵家との関係まで損なった恩知らずめ! この代償は高くつくぞ!」
「ヴァルドール伯爵家との関係、ねえ……」
たった一人の奉公人を取り戻した程度で、太客との関係が壊れる。
どうやら、ただの人材斡旋では済まない取引があったらしい。
「もう我慢ならん! シード、貴様を我がギルドから追放──」
「その必要はない」
俺はパウエルの言葉を遮った。
「今日限りで辞める」
聴聞室に、重い沈黙が落ちる。
「才能を見つけても、育てるどころか、値札をつけて売り払う。そんなギルドに、これ以上残るつもりはないからな」
「貴様……!」
「追放扱いにしたければ、好きにしろ」
十年かけて手に入れた、大手ギルドのスカウトとしての地位。
ギルドの取引網も、施設を利用する権利も、これですべて失うことになる。
俺は一度だけ、聴聞室を見回した。
才能の価値を量ることを仕事にしながら、目の前の原石すら見抜けない連中だ。
未練など、残るはずもなかった。
「好都合だ」
俺はミアのもとへ歩み寄った。
外れスキルを授かってからは、随分と雑に扱われたのだろう。
ミアの身なりは、すっかりボロボロだった。俺は外套を脱ぎ、ミアの肩にかけてやる。
「こんな節穴だらけのギルド、こっちから願い下げだ」
「っ! シードさん、そこまでしなくても!」
「……すまない。確かに、ミアはせっかくの訓練場を失うことになるな──だが安心して欲しい。ミアにとっての最適な環境は、こちらで責任をもって用意するつもりだ」
「そうでは、なくて……!」
なおも何かを言いかけたミアを手で制して、俺はミアに付けられた枷を外していく。
(逃げる素振りもない十五歳の子どもにに、枷まで嵌める必要があるか?)
手首に嵌められていた枷を外し、その場へ放り捨てる。鉄の輪が床を跳ね、カラン、カランと小気味よい音を立てた。
「お前の価値を、こんな連中に決めさせる必要はない。行こう」
俺は立ち尽くしていたミアの手を引き、扉へ向かう。
ミアは答えなかった。
ただ、聴聞室を出る直前。
震えていた指先が、遠慮がちに、俺の手を強く握り返した。
コメント
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うわ、これめっちゃ熱い展開ですね…!「外れスキル」ってレッテル貼られたミアちゃん、でもシードさんは「原石鑑定」で彼女の本当の価値を見抜いてる。自分の貯金全部叩いて負債肩代わりするところ、痺れました。「安すぎる」の一言がカッコよすぎる…!ギルドの連中がミアを魔鉱山送りにしようとしてたの、マジ許せなかったけど、シードさんがまともに見えてスカッとしました。続き気になる〜🔥