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花桜月華
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#サレ妻
都築七美
723
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ある日、竜馬が学校の更衣室の自分の身長ほどあるロッカーを開けると、一枚の封筒がヒラヒラ竜馬の足元に落ちた、その封筒はピンク色で、封を閉じている所にハートのシールが貼られていた
竜馬は生まれてはじめて「ラブレター」を貰った
。 .:・.。. .
ハハッ「返事なんか書かなくていいだろ、勝手にお前に恋して、くっせぇ体操服とか入っているロッカー勝手に開けて、勝手に手紙入れてる女なんか、会ったりなんかしたら、勝手にお前のパンツずらすぞ」
竜馬が返事を書いた方がいいかとジャスティンに相談すると、彼はそう言って笑った、今ジャスティンは、逞しい筋肉の盛り上がった二の腕に、刺青タトゥーを入れていた
ジャスティンの選んだデザインは、オールドイングッシュのロゴにそれは勇ましい「鷲(イーグル)」だった、鷲は鳥の王者とされており、太陽王権神々の象徴として「権威、強さ、勝利、自由」を表しているとジャスティンは誇らしげに言った
しかし、今彼は何度も顔をしかめている所を見るとやはり、そうとう入れ墨は痛むのだろうなと竜馬は思った
「そこの女みたいな色男さん、今手が離せないから、マックスに餌をやってくれ、冷蔵庫に入っている」
彫師のロックハウンドがジャスティンの二の腕から目を離さずに竜馬に言った、ジャスティンはロックハウンドが竜馬を「男女」と呼んだので爆笑していた、デジタルタトゥーの針の、シュィーンという音が店中に響く
このホールストリートの「タトゥーショップ」のオーナーのロックハウンドは、歩くキャンバスと言っていいほど、体中にタトゥーを彫り込んでいた、今や彼の体ではどこも彫る所が見当たらないほどだった、上半身裸のロックハウンドの背中に、彫られているマリア像が、彼がしゃべるたびに不気味に動く
「マックスって?」
「今は、外で日光浴している、表につないでいるよ、冷蔵庫の鶏をやってくれ」
「うん!わかった!」
竜馬は最後の仕上げに余念のない彫師の肩越しに、その作品を覗き込んだその鷲は綺麗にジャスティンの左の二の腕で、羽を広げていて、鷲の目がまるで生きているかのように、こっちを見ていた、ふとロックハウンドが竜馬の腕をジロジロ見て言った
「おまえ、しっろいなぁ~・・・彫りがいがありそうだな、どうだ?モデルにならないか?新しいデザインを試したいんだ」
ロックハウンドが目をキラキラして竜馬に言う
「ぼ・・・僕はいいよ・・・マックスに餌をあげてくるね!」
慌てて竜馬はロックハウンドの言う通り、店の隅の冷蔵庫の場所へ向かって扉をバカッと開けた、するとそこには、なんと羽をむしられた鶏が一羽、丸々入っていた
不思議に思いながらも、マックスは大型犬なのかもしれないと竜馬はその鶏の首を持ってショップの表に出た
「うわぁ~~っっ!」
そこで見たものに驚いて、竜馬は腰を抜かして地面に座り込んだ
その獣は尻尾を入れると3メートルもする長さで・・・鎧を着た胴体は木製のビールの樽ほどもあった
爬虫類の生き物の頭が竜馬を見てわずかに1センチほど動いた、そこにいる鎖に繋がれた、「アリゲータークロコダイル」が、悲鳴を上げて尻もちをついた竜馬など、気にもしないと言う風に、気持ちよく太陽にむけて、日光浴をするように顔を上げていた
ワニのマックスに度肝もを抜かされて、尻もちをついたお尻が痛い・・・竜馬の心臓は激しく鳴り、手も足もガクガタしていた、太陽に向かって上げられているマックスの鼻面・・・下顎にかけて、獰猛に突き出た刃物のような裂肉歯・・・どこか笑っているようにも見え、残忍でありながら、滑稽な印象を与える
「なんだなんだ?」
「どうした?」
ロックハウンドとジャスティンが、竜馬の叫びを聞いて慌てて表に出て来た、よく見ると、この巨大なワニは、首輪と鎖で繋がれていた、そして竜馬は彼?彼女?がロックハウンドが飼っている、ワニのマックスだと初めて教えられた、ロックハウンドは言う
「心配いらないぜ、コイツらが襲うのは腹が減ってる時だけだ、本来は大人しい生き物なんだ、腹さえ満たしてやればな、ほら、マックス食えよ!」
ロックハウンドが一羽の鶏をポーンと宙に放った、するとマックスはその黒曜石のような瞳をキュルッと一本の縦線にし、左右に広げた四肢を踏んばり、パカッととんでもなく大きな口を広げ、獰猛なズラリと並んだ歯が丸見えになった
「ヒィッ」
思わず竜馬は叫んだ、するとクロコダイルの顎がガシッと音を立てて閉じた、鶏は見事にマックスの口の中へ納まり、再びあたりに静寂が訪れた
「これで、コイツはあと3時間は身動きしないよ」
そう言って何事もなかったとロックハウンドとジャスティンは店の中へ入って行った、なんとか竜馬は落ち着きを取り戻したが、こんな野生の動物を飼うなんて・・・竜馬には自殺行為にしか思えなかった
ロックハウンドは本当にこの獰猛な生き物と心が通い合うなんて思っているのだろうか?竜馬ならいくらコイツが大人しくてもマックスにとってロックハウンドは飼い主なんかではなく、いつか食える餌にしか見えていないような気がした
「ぼ・・・僕はきっと美味しくないよ!」
竜馬がそう言うと、マックスは返事の代わりにキュルッと瞳孔を縦線にした
「お~い!竜馬!来いよ」
タトゥーを入れ終わったジャスティンが、まだマックスに度肝を抜かれている竜馬をタトゥーショップの倉庫に呼んだ、そこには旧型のハーレダビッドソンが置いてあった
「ロックハウンドさんがお前にくれるって!」
竜馬は信じられなくて言葉を失った、ロックハウンドが笑顔で言った
「ずっと乗ってなかったから、お前が乗ってくれたらコイツも嬉しいだろうよ、ただし、壊れたらお前が直せよ」
竜馬はジャスティンに勧められて車と自動二輪の運転免許を取得していた、免許はあまりにもあっけなく簡単に取れた
試験当日、ジャスティンが試験場に連れて行って、ジャスティンが後ろに乗ったまま、この車で試験督を助手席に乗せて、試験を受けた、あらかじめジャスティンから交通ルールと、運転の仕方を習っていたので、竜馬は一発合格し、その日に運転免許を取得した
後は車を買うために、何かアルバイトをしようと考えていた所だった、ジャスティンが言った
「お前が足にマウンテンバイクしかないと言ったら、譲ってくれるって」
「ありがとうー!!ロックハウンドさん!」
竜馬は感激に震えていた、まるで羽が生えた気分だ、これでどこへでも好きな所へ行ける
「いいってことよ、ずっと倉庫に置きっぱなしだったんだ」
そしてロックハウンドはじーっと竜馬を見つめて言った
「その変わり・・・タトゥーを彫る気になったらいつでも言ってくれ!お前にぴったりのデザインがあるんだ!」
どうやらロックハウンドは、竜馬の東洋人特有のきめ細かい肌をとても気に入ったようだ、彼の頭の中でどういう色の墨を入れたら映えるだろうと、グルグル考えているのが丸わかりだった
竜馬は顔を引きつらせながら「高校を卒業したらタトゥーを入れたくなるかもしれない」と誤魔化した
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赤い夕陽を背に・・・荒野の中をどこまでも続く一筋の道・・・
ゆらゆらと立ち昇る陽炎の向こうから、青のコンバーチブルと一台のハーレーが並んで姿を現わした
オープンカーのコンバーチブルには髪をなびかせたジャスティン、おんぼろのハーレーにはゴーグルを付けた竜馬が運転し
この二台は檻から解き放たれた、野生動物のように疾走していた
その日の夕方・・・二人はひたすら地平線目指して
ひとけのない一本の道をどこまでも突っ走っていた
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コメント
1件
うわ、第142話、一気に読んじゃいました!ラブレターの話から始まったのに、まさかワニのマックスに餌やりする展開になるとは思わなくて度肝抜かれました(笑)。それにしてもジャスティンのタトゥー、鷲のデザインが「権威と自由」の象徴ってめっちゃ彼らしいなって思いました。あとロックハウンドが竜馬の肌見て「彫りがいありそう」って目をキラキラさせるシーン、不気味だけどなんかほっこりしました。ラストのハーレー譲ってもらって荒野を駆ける疾走感、すごく気持ちよかったです!竜馬がどんどん新しい世界に足を踏み入れていく感じがたまらないですね。