32 嫌な予感
『 ……先生』
「……ん、悪ぃ、」
『 ……いや、全然。』
何この空気。
いや、嬉しいんだよ。先生にハグされてるんだから。
でも、無理やり感しかないじゃん。
『 …すいません、わがまま言って』
「いいよ。なんかあったんだろ」
ない。なにもない。
ただ、寂しくなったから。
先生に「成長したな」って言われたらもう、会えないんじゃないか、って心配になったから。
『 …ありがとうございます』
「うん」
『 帰りますか?』
「だな。」
一瞬にして先生が離れていった。
先生の匂いがまだ残っている。
優しい香りが心地よかった。
「送ってく」
『 …大丈夫』
「え?」
『あ、いや!家…近くなので!?』
「ふふっ、じゃあまたな。」
『はい、また』
「送っていく」と言われて
『大丈夫』と答えてしまった私に後悔はない。
だって、今送って貰ったら、泣いちゃうから。
今日は、「ハグの日」とカレンダーに書く。
・
『いらっしゃいませー』
私の声と同時にカフェに入って来た先生が私の顔を見て微笑んだ。
あれ、はなかった事なのか。
「いつものコーヒー1つ」
『はい』
「さんきゅ」
「顔緩んでるよー」
『うわっ!』
手塚さんがいた。
『…もー、ビックリするじゃん、』
「え、タメ語!?」
『……違います、!』
「そんなキッパリ言わなくてもー」
手塚さんは私と友達になりたいらしい。
友達になるのは全然いい。
でも、仕事場で友達感覚で話しかけてくるのは、いや。タメ語も、いや。
そんなことを話していると先生の隣に1人の人がいた。
「翔太ー!隣いい?」
佐久間くん、?は先生の教え子。
「おい、誰がいいなんて言ったよ」
「ねぇ、何してんのー?」
「見ればわかるだろ、静かに読書してんのー。つい、さっきまではな。」
カウンターから出て、机を片付けながら、先生と佐久間くんの会話を覗く。
「うわー。字しかない」
「ふふっ、当たり前だろ。佐久間はどんな本読んでんの」
「ほぼ絵。で、吹き出しがあって、周りにドカーンとか効果音があるの」
「それ、漫画だろ」
もしかしたら、先生が前行くって言っていた
教え子、は佐久間くんなのかもしれない。
よかった。
「お前は、1人?」
「違うー!!デートの待ち合わせしてんの!」
嬉しそうに話す。
「あー。祭りでも行くの?」
「正解!!すごエスパーじゃん」
「うん、だな。」
「…ってお前浴衣着てんだから祭りってわかるわ。」
「はははっ、確かに!」
ふざけてるだけだと思っていた佐久間くんは、ホントに自分が浴衣を着ているのを忘れていたらしい。
「でもさぁ。祭り行くのやめよっかなーって」
「なんで」
「だって、空の具合がさー、暗い」
「○○ちゃん!戻ってきてー」
「はい!」
手塚さんに呼ばれてカウンターへ戻る。
と、佐久間くんの隣に浴衣を着た女の子が来て、2人で手を繋いで帰って行った。
私は、ロッカールームで私服に着替えて、先生の元へ帰ることを伝えに行く。
私が遅番の時なんかは、先生が先に帰る。
ただ、私が先に帰る時は、声をかけることが習慣になっていた。
『先生、帰りますね』
「おう、お疲れ様」
『あ、今日はなんの本買ったんですか?』
カバーがかかっていて分からなかった本を先生に教えてもらってから外に出る。
空を見上げると、重く暗い雲が素早く流れていく。
……嫌な予感
『……あ』
そういえば、佐久間くんも言っていた。
「空の具合がやばいんだよねー。暗い」
夏は、これがあるから嫌。
ゴロゴロなる音を聞かないように、イヤホンを出したが、手が滑って地面に落ちてしまった。
しゃがんでそれを拾った瞬間、当たりが光った。
急いで、耳を塞ぐ。
力いっぱい、塞いでも、
音が入ってくる。
「ゴロゴロ」ではなく「ガラガラ」って聞こえる1番嫌いな音。
私は、そこから動けなかった。
コメント
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雷まじやだ笑